九州の味とともに 冬

この料理の"味のキーワード"

アラと下ごしらえ

身が厚く脂がのった大きなアラが使われることが多い。皮をはぐことでウロコも一緒に取り除いてから下ごしらえする

出汁

ベースとなるのは昆布出汁。具材を加える前にアラの骨を入れて一緒に少し煮ることで、骨からの出汁をとることもある

ポン酢・食べ方

出汁の入った鍋にアラのぶつ切りや野菜を入れ、各店独自のポン酢で食べる。薬味はネギやもみじおろし。締めは雑炊だ

語り 相撲茶屋 大塚 末永諭吉の「あら鍋」

末永諭吉さん

目印は外からも見える大きな水槽。その中でアラが泳いでいることもある。扉を開けて中に入ると左手には土俵、足元は土間。その土は九州場所で使われた土俵の土なのだそうだ。店内には化粧回しが飾られBGMには相撲甚句(「どすこい~、どすこい」などの合いの手が入る囃子歌)が流れており、まさに“相撲茶屋”。もちろん看板メニューはちゃんこ鍋なのだが、『あら鍋』にもファンが多い。

「今日のアラはちょっと小さいですが、大体15〜20kgのアラを使っています。大きいほうが身もたくさん取れるし脂ものっていて美味しいです。でも、大きいほどいいというわけじゃなくて、年をとりすぎた40kgくらいのものになると、筋がちょっとかたくなって食べにくくなったりするんですよ。15〜20kgの青年期のアラがいいですね(笑)」。

料理長・末永諭吉さんはそうお話ししながら、アラの下ごしらえを見せてくださった。

「通常の魚はウロコ取りでウロコをとっていくのですが、アラはそのやり方だとうまく取れません。ウロコがきれいに取れていないと、口に入れた時にザラッとして食感が悪くなります。ウロコは皮についていますから、皮をはぐようにして皮と一緒にウロコを取り除くのです」。

皮の下の身はきれいな白色だ。

アラの皮をはぐことでウロコも一緒に取り除く

「内臓を取り出して三枚におろしていきます。身の部分は刺身になりますし、骨がついている部分は鍋用になります。えらや内臓はゆでて刺身のツマにもしますし、ウロコも唐揚げにします。捨てるところがない魚ですね。さばいてしまうのに30分ほどかかるのでなかなか大変です(笑)」。

カウンターの中にある厨房では、お客さんがいる時間帯にアラをさばくこともあるとのこと。運がよければ珍しいアラの解体を見ることができるのだ。

「2日に1回くらいはやっていますね。まずカウンターに座っている方が歓声をあげて、個室にいらっしゃる方もその声を聞いて「なんだ、なんだ」と集まっていらっしゃいます(笑)。厨房まで入って来られて、あらと一緒に記念写真を撮る方もいらっしゃいますよ(笑)」。

ぶつ切りされたアラ

『あら鍋』を準備していただいた。鍋の底には昆布が敷かれ、出汁と大根が入れられている。

鍋に昆布を敷き、大根を入れて出汁を注ぐ

「昆布出汁をとり、酒少々と薄口醤油で薄味をつけたものです。お吸い物よりも薄いくらいでしょうか。この出汁はふぐ鍋にも使いますね。大根を入れるのは、お客さんに「お、何やろうか?」と驚いていただくためです。最後に食べていただくと味が染み込んでいて美味しいですしね」。

テーブルに置かれたガスコンロで鍋を温め、ぐつぐつとしてきたらアラを投入、次いで野菜を入れて食べる。身はプルプルで、特製のポン酢がアラの旨味を引き出す。

「通常の鍋料理用のポン酢は柑橘の絞り汁と醤油が1:1くらいの割合なのですが、私は『あら鍋』用にはやや濃い目のポン酢を作っています。アラは脂がのっているので、ポン酢が薄いと、脂ではじかれてしまうんです。脂がポン酢をかきわけるというのでしょうか。ですから、濃い目にしてポン酢がよりからむようにしているのです」。

アラのぶつ切りを入れ、野菜を入れてしばらくするといい香りが漂う

すべての具材を食べ終わってのお楽しみは雑炊なのだが、こちらの裏メニュー『あら茶漬け』も最高の締めの一品だ。
「ごはんに自家製明太子をのせて、アラと野菜の旨味が溶け出したスープをかけるんです。魚独特の臭みがないのは、新鮮なアラを使っているからですね。雑炊よりもさっぱりしていますから『おなかいっぱいでもう雑炊は食べられません』と言われた方も、さらっと食べてしまわれます(笑)」。

最後まで美味しく食べられる『あら鍋』。こちらでは冬場だけではなく、夏場も食べることができる。

「『あら鍋』は冬場のイメージですが、アラは一年中獲れますし、夏でも脂がのっていて美味しい魚なんですよ。以前、『あら鍋』は10〜4月にだけ出していたんですが、夏場でもアラが美味しいことが少しずつ知られるようになって、夏場もアラ料理の予約を受けるようになったんです。『あらの冷しゃぶ』みたいなものもやっていましたが、『暑くてもやっぱり鍋がおいしい、鍋が食べたい』というお客さんの声から、『あら鍋』が中心になっていきましたね。それがさらに広まり、今では夏場でも『あら鍋』を食べに来てくださる方がたくさんいらっしゃいます。『ちゃんこ鍋』は夏はあまり出ないのですが、『あら鍋』は出るんですよ。元々は『ちゃんこ鍋』にアラのぶつ切りを入れていて、それがきっかけで『あら鍋』が生まれたのですが、今では『あら鍋』のほうが人気です。店名を“あら鍋の店”に変えないといけないかもしれません(笑)」。

この料理人こだわりの「味のキーワード」

アラと下ごしらえ

通常15〜20kgの脂がのった大きなアラを使う。皮をはぐことでウロコも一緒に取り除き、内臓を取り除いて三枚におろす

出汁

昆布出汁に酒と薄口醤油を加えて薄味をつけたものを使う。鍋に昆布を敷き大根を入れ、その出汁を注ぐ

ポン酢・食べ方

薬味はネギともみじおろし、ポン酢はあらの脂に負けないようやや濃いめだ。締めは雑炊と、裏メニューとして『あら茶漬け』がある

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相撲茶屋 大塚 相撲気分を楽しみながら鍋料理を

店内に土俵があったりBGMに相撲甚句が流れるなど相撲気分を楽しめる店。開店当初から人気の『ちゃんこ鍋』(2,300円〜)と並んでファンが多いのが『あら鍋』。『あら鍋』は冬のイメージが強いが、夏場でも食べることができる。「夏場でも脂がのって美味しいんですよ」とのこと。外からも見える水槽にアラが泳いでいることもある。

アラの骨付きぶつ切りが4切れ付く『あら鍋』1人前6,000円(写真は2人前)。ぶつ切りが2切れ付く『あらちゃんこ』1人前5,000円などもある
ちゃんこ鍋に入れるアジのすり身を揚げた『すり身から揚げ』1,200円。焼酎のつまみによく合う
スープの味わいがより伝わってくる裏メニューの『あら茶漬け』
入口横にある土俵。大きさは実物よりも小さいが、俵は実際に使われていたものとのこと
ゆっくりと落ち着ける個室。力士の手形なども飾られている

相撲茶屋 大塚

住所 福岡市中央区高砂1-19-3
電話 092-531-9100
営業 17:00〜OS22:00
定休日 日曜 ※10〜3月は無休
100席
カード
駐車場 あり
URL http://www.chanko-ootsuka.jp/
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