ひれを取り、皮をはいで内臓を取り出す。身は骨付きのままぶつ切りにする。肝は味付けに使うので細かく切るか、すりつぶす
カツオ出汁や昆布出汁を使うが、煮込む途中でアバサーの骨からも良い出汁が出る。味噌とアバサーの肝が味付けには欠かせない
出汁で、骨付きの身のぶつ切りを煮込んだ後、肝を入れて味噌を溶いてできあがり。フーチバーが添えられることが多い
お店の前には沖縄ならではの食材名や料理名が書かれたのぼりが、たくさん立っていてにぎやか。生簀で泳ぐ魚を見ることもできるし、“アバサー提灯”も下がっている。
“アバサー提灯”はお店の中にも天井から下がっており、壁にはメニューが書かれた手書きの紙が大量に貼られている。
「メニューはどんどん増えているよ〜」。
店主・新里晋規さんのやわらかな口調に気持ちもなごむ。
「沖縄の田舎料理や故郷の味、琉球家庭料理を作っているよ。魚介も沖縄で獲れる魚にこだわっているね」。
200種類以上あるメニューの中、『アバサー汁』も新里さんが大切にしている沖縄料理の一つ。作り方を教えていただいた。
まず見せていただいたのは、さばく前の大きなアバサー。
「沖縄一帯の港にあがる魚を扱う仲買さんがいて、いい魚がとれたら電話がかかってくるんだよ。アバサーもね。今からさばくのは3kgくらいのアバサー。海の深いところにいるのは大きくなるね。まず、ひれを落としてね、腹側に包丁を入れて皮をはいでいくよ。トゲは皮にくっついているから一緒にとれるんだね。トゲがあって危ないから手袋をしてやらないといけないね」。
皮をはぎ、内臓を取り出したアバサーは、おたまじゃくしのような形になる。
「身は骨付きのぶつ切りにするんだけど、切るというより、たたき切るという感じで、まき割りしているみたいだね。力仕事だよ。家ではなかなかできないんじゃないかな。ぶつ切りにした骨付きの身はお店で売っているしね。そうそう、アバサーは口のところがすごくかたいんだよ。それはね、サンゴやカニを食べたりするからさ」。
ぶつ切りにした身は一度湯に通す。湯に通すのは、臭みやアクを取るためだ。
注文が入ったら、湯通しした骨付きの身のぶつ切りをカツオ出汁で煮込む。
「骨からも良い出汁が出るね。ある程度煮込むけど、アクが出てきたら、すくわないといけないね。
身に火が通ったら、肝をすりつぶしたものを入れて、米味噌を溶いて味付けしてできあがりだよ。
器に入れて、別の皿にのせたフーチバーと一緒に出すよ。自分で好きなだけフーチバーを入れて食べてね。フーチバーは魚汁や、やぎ汁にも入れるんだけど、独特の香りで美味しさが増すね」。
肝の濃厚な旨味がからまったプリプリの身はなんとも言えぬ美味しさ。骨までしゃぶらないともったいない。
「アバサーはフグに似ているけど、骨が大きくて硬いし身が少ないから、汁料理に使うのが一番なんだよ。表面に肝の粒が浮いているでしょ?それが美味しいんだよ。身は白身で淡白な味わいだけど、肝は濃厚だからね。フグより安いのもいいね(笑)。フーチバーはヨモギのことだけど、沖縄ではよく食べるね。他県のものよりも、やわらかいと思うよ」。
さて、お店では『アバサー汁』はどんな食べられ方をしているのだろうか?
「最後に食べる人もいるし、一番始めに食べる人もいるよ。うちは居酒屋でもあり食事処でもあるので、いろんな食べ方がされているみたいだね。つまみにもなるし、おかずにもなるし…美味しいからいつ食べても、どんな食べ方でもOKさ。つまみなら、アバサーの唐揚げも美味しいよ」。
アバサーの名前の由来や、おもしろい話も聞かせていただいた。
「アバサーはね、“おしゃべりな人”という意味なんだよ。よく口をパクパクしているから、そんな名前を付けられてしまったんだね(笑)。大きいアバサーは海の深いところにいるけど、浅瀬には小さいアバサーがいるよ。動きが鈍いから手でつかまえられるんだよ。小さい頃は、手でとって遊んでいたね。『アバサー汁』は特に宮古島とか石垣島でよく食べられているみたいだね。田舎に行くほど食べ物を大事にしなければならないから、身が少ないアバサーも食べるようになったのかもしれないね。汁物にしたのも、お腹がいっぱいになるようにということだったのかもしれないね。実はアバサーの皮も美味しいんだよ。フグの皮と同じように、コラーゲンたっぷりで、茹でるとプルプルとした食感だしね。ただ、トゲを1本ずつ抜かなくちゃいけなくて、とても大変でメニューにはできないんだよ。1度、数えてみたんだけど、1匹で700本くらいはあったよ(笑)」。
新里さんのお話をうかがいながら、“アバサー提灯”の下で食べる『アバサー汁』。沖縄を五感で感じられるお店だ。
皮をはぎ、内臓を出して、身は骨付きのままぶつ切りにする。身のぶつ切りは湯通しし、肝はすりつぶしておく
出汁はカツオ出汁、味付けには米味噌を使う。すりつぶした肝も『アバサー汁』の味付けに欠かせない素材だ
カツオ出汁で骨付きの身のぶつ切りを煮込み、すりつぶした肝を入れ、味噌を溶く。たっぷりのフーチバーが別添えされる
“アバサー提灯”が幾つも吊り下げられた店内はとてもにぎやか。壁には料理名が書かれた紙がぎっしりと貼られており、メニューは総数200種類以上。煮付け・マース煮(塩煮)など沖縄近海魚を使った料理や、昔から伝わる琉球料理など、1度では味わい尽くせない。『アバサー汁』は、すりつぶした肝と米味噌の旨味がプリプリとした身を包みこむ。