九州の味とともに 冬

この料理の"味のキーワード"

かき

“ゴロタ石”と呼ばれる岩につく天然のかきを素潜りで獲る。中身が黄色っぽいこと、貝柱が大きいことが、高鍋の天然かきの特徴

焼き方・食べ方

殻がついたまま直接火にかけて、焼き過ぎないようにしていただく。濃厚な旨味とほどよい塩味があるので、調味料などは必要ない

自慢のかき料理

焼きかき以外に、酢がき、かきフライ、かき飯、かき鍋など、様々なかき料理があるが、各店、自慢のかき料理を工夫している

語り 割烹旅館 磯亭 中田弘幸「焼きかき」

中田弘幸さん

「海の様子を見て今日はどのへんに潜ろうかなって考えますね。あそこにテトラポットが見えるでしょう?あのあたり一帯が、かきの漁場で水深は4m~8mくらいですね。下に潜って、のみを入れるみたいにして岩からかきを外します」。

海を見ながらそうお話してくださるのは『割烹旅館 磯亭』の店主・中田弘幸さん。

右側が海から獲ってきたかき、左側が表面をきれいにしたかき

「陸に季節があるように、海の中にも季節がありますよ。冬は水の透明度があがってきて、海草が生えてきますね。それが5月になると“それる”と言ってるんやけど、枯れて流れていってしまいます。暖かくなるとところどころにフジツボの姿が見えるようになってきて、プランクトンの関係で水の透明度が低くなります。海が濁っている時は手探りで獲らないといけないですね。そして、暑くなると潜れなくなりますよ。保温の意味と、岩とかあるので身体の保護のためにウェットスーツを着ているんですが暑いです。かき漁は10月〜5月で真夏はやらないのでよいですが(笑)。私は昔は営業の仕事をしてスーツを着ていたんですが、今ではウェットスーツになりました(笑)。スーツは毎年作り替えます。鳥取県に素潜り用ウェットスーツの専門店『鳥取潜水』さんというのがあって毎年採寸にやってくるんですよ」。

取材時は晴天。店頭で炭火をおこして焼いてくださった

高鍋の天然かきは、自然の恵みがあってこそのもの。かきを育てる自然についてもお話をいただいた。
「日向灘は流れが早いから、砂が舞い上がって“ゴロタ石”と呼ぶ岩の表面をきれいにしてくれるんですよね。岩の表面がきれいじゃないと、かきがひっつかないですからね。それから、小丸川が山から落葉などからの栄養を運んでくるので、それでかきの生育もよくなるようです。寒さがますにつれて、殻も厚くなってくるし、身が太くなってきます。寒い時期も美味しいけど、春も美味しいですよ」。

炭火の上でしばらくたつと、いい香りが漂い、中も美味しそうに湯気をたてる

かきは高鍋では昔から食べられていたものなのだろうか?
「江戸時代に高鍋の殿様が食べよったという記録もあるみたいで、ずい分昔から食べられよったみたいですね。潮が引くと海面に現われるゴロタ石もあって、そこについているかきを獲りに来る人もいますよ。一般の人は潜って獲ったらいかんけど、そういう獲り方はいいんですよね。冬の大潮は夜遅い時間に潮がもっとも引くのですが、その時に獲りに来る人がたくさんいますね。私は宮崎から高鍋に来たので、初めは知らなくてびっくりしましたよ。夜、海からカチンカチンという音がしてね。窓から外を見たら、浜辺にいくつも光が見えて、合羽を着て乳母車やら一輪車やら押している人がいっぱいいたんですよ(笑)。それはみんなかきを獲りに来た人。音は岩からかきを外す音だったんですよね(笑)。地元の人にとっては、昔から生活に密着している楽しみなんですよね。美味しいですからね」。

かきフライとかき飯

地元の方も愛してやまないかきの味。見た目も味わいも高鍋ならではのようだ。
「獲ってきたら表面に海草などがついているので、焼きかきにする分は包丁でこそぎとってきれいにします。その他の料理に使うかきはむき身にしておきますが、その日に使わない分は、網に入れて、かきが獲れたあたりの沖合いまでもっていって海の中に活かしておきます。それも一日の仕事の一つですね。開けてみたらわかるけど、全体に黄色みがかかっていて、身の1/3は貝柱なんですよね。貝柱の歯応えは特にぷりぷり。焼きかきにしてそのまんまの味を食べたら最高ですね。焼けてきたら表面が乾燥してくるから、よく見ながら焼きすぎないようにします。高鍋の天然かきは、殻のカルシウム分も多いそうで、砕いたものは地鶏の飼料にもなってますよ。捨てるとこはないですね」。

日向灘の魚介がたっぷりと食べられる『かき土手鍋』

プリプリとして濃厚な味わいのかきは、焼きかき以外の料理にしても美味。かきの出汁で炊いて、炊きあがる直前にかきの身を入れるかき飯は、ごはんの一粒ずつにかきの旨味がしみこんでいる。先代からおそわったという味噌をベースにしたスープに、かき、金ふぐなど冬の海の幸や季節の野菜がたっぷり入った『かき土手鍋』は甘めの味噌が魚介類の旨味を引き立てる。

『かき土手鍋』には、甘鯛のすり身でかきを包んだものも入る

焼酎が大好きだという中田さん。かき漁が終わると毎日晩酌されるとのこと。
「1日に3合までと決めとります。二日酔いやと海に潜れないですからね。それとね、風邪ひいても潜れないんです。だから健康管理と焼酎管理はしっかりやっとかんといかんですね(笑)。海が時化た時は潜れないので身体を休めます。朝から焼酎飲んでね(笑)」。

中田弘幸さん、奥様の絹子さん、息子さんの俊さん。俊さんは、かき獲りのお手伝いも始めたそうだが
「まだまだ初心者マークです(笑)」とのこと

最後に、高鍋の潜り手には女性がいるのか尋ねてみた。
「そう言えば潜るのは男ばっかりですね。なんででしょう。宮崎は女性が強いからかな?(笑)」。

その横で笑っていらっしゃるのは、奥様の絹子さんと、料理を作る息子さんの俊さん。ご家族3人のチームワークで、美味しいかき料理ができあがる。

この料理人こだわりの「味のキーワード」

かき

店主が素潜りして獲ったかきは、表面についている海草などを包丁で取り除く。その日に使わないかきは網に入れて一旦海に戻す

焼き方・食べ方

火を通しすぎないように注意しながら焼く。調味料等で味付けもしないので、そのまま食べてかきが持つ旨味を味わう

自慢のかき料理

味噌をベースにしたスープを使った『かき土手鍋』は、甘めの味付けがかきの旨味によく合う。冬の海の幸や季節の野菜もたっぷり入る

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割烹旅館 磯亭 家族3人で提供する高鍋のかき料理

日向灘の新鮮な魚介を獲ってくるのは店主・中田弘幸さん。奥様、息子さんの3人で海の幸満点の料理を提供している。10月~5月は素潜りして獲る天然かきを使ったかき料理が人気。お昼は『かき定食』3000円がお得だ。甘めの味噌スープでいただく『かき土手鍋』も名物料理。宿泊も可能(1泊2食付き7000円~)でサーファーもよく訪れている。

前菜、かきの酢味噌和え、焼きかき、かきフライ、かき飯、かき土手鍋、季節の活魚が付く『名物かき土手鍋コース』4000円の一部。昼の『かき定食』2500円、夜の『かきコース』3000円~でもかきを堪能できる
食事はすべて個室でいただくことができる

割烹旅館 磯亭

住所 児湯郡高鍋町蚊口浦6259-1
電話 0983-22-1146
営業 11:00〜OS20:00
休み 不定
小部屋8室、大部屋2室
カード 不可
駐車場 あり
URL http://www.isotei.com
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