ボラの真子の表面に残る血を針で取り除く。この作業が出来上がりの色や香りに大きく影響する。その後、たっぷりの塩で塩漬け
塩漬けした真子を、水、日本酒、焼酎などに漬けて塩抜きする。塩抜きが終わったら形を整えて何度もひっくり返しながら干す
スライスした『からすみ』はスライスした大根と合わせて食べることが多い。ごはんやパスタと合わせても美味。炙っても旨い
兵庫県出身の料理長・高島基晴さんは、敬愛する坂本龍馬が一番輝いていた時に過ごした街、長崎で仕事をすることを決めていたとのこと。目指しているのは『新長崎和食』だが、新しい味わいに挑戦しつつも、高島さんは長崎の伝統的な味も大切にしている。
「長崎で仕事をしていく以上、長崎の食文化を知り、守ることは必要だと思っています。見よう見まねでやるんじゃなくて、しっかりと学び、覚えて、その上で新しいものを考えていかなければならないと常に思っています」。
長崎に伝わる『からすみ』についても勉強や試行錯誤を繰り返されたとのこと。『からすみ』にまつわるお話をうかがった。
取材に訪れたのは冬の初め。『からすみ』作りが行なわれていた。
「昔はおくんち(長崎くんち/10月初めに行なわれる祭り)が終わり、キンモクセイの香りがすると、作り手は『ボラはいまかいまか』とみんな待っていました。その頃がボラのお腹がパンパンになって卵が詰まっていたんですね。でも、最近はその時期が遅くなっているようで、作る時期もまちまちになっています」。
その作り方をうかがった。
「漁師さんから真子を直接仕入れています。針で血抜きをします。細かい作業なのでここが一番大変かもしれません。そして塩漬け。べた塩(上下からはさむように塩をする)に漬けて1日ほど置いておきます。使う塩は並塩(食塩よりも水分が多くやや湿り気のある塩)とにがりの風味がある塩をブレンドしたもの。1種類ではなくブレンドすることで味がよくなりますね。塩が入るとガチガチに固くなるんですよ。それを塩抜きのため焼酎に漬け込みます」。
「その時に一緒に昆布も入れて、昆布の旨味が真子に入るようにもしています。頃合いをみてはもみほぐすことを繰り返すんですよ。塩が抜け過ぎてもだめなんです。どこで止めるかは手でさわった感触ですね」。
塩抜きが終わると水洗いをして干す。
「2階の窓際で天日干しです。成形してから干すのですが、まめに返さないと反り返ったりするんですよ。干している間も手間がかかります(笑)。いい具合の干し加減になったらできあがりです。干すと縮んで、塩抜きする前の6割くらいの大きさになってしまうんですよ」。
高島さんはしっかりと干した『からすみ』の他、『半生からすみ』も作られている。
「干した通常の『からすみ』は塩分が少し多いのです。干さないで卵をそのまま食べる『生からすみ』は風味が少し足りない。干すことで香りや旨味が増すんですね。『半生からすみ』はその中間。干し上がっていないので塩分は軽いのですが、からすみ独特の食感、香り、旨味を持ち合わせているのです。粒感も少し残っていますね。ただ、塩分が少ない分だけ日持ちしないので、毎年11月下旬〜2月くらいまでしか食べていただけないのです」。
大根を添えた『半生からすみ』、『半生からすみ』を軽く炙ったものをごはんと一緒に出していただいた。しっとりもっちりとした『半生からすみ』は深い味わいで焼酎のつまみにぴったり。ごはんともよく合う。
軽く炙った『半生からすみ』は香ばしい香りで、また違った味わいだ。
「しっとりしているので厚めに切ることができます」。
「大根を添えるのは、味とともに、もっちりした『からすみ』を歯につきにくくするという効果もあるんですよ。炙っても美味しくて、ツウの方は『ちょっと炙ってよ』と言われることもありますね。炙ったものは茶漬けにしても美味しいですよ。その他、端のほうはすりおろしてから炙ってふりかけにもできます。事前予約が必要ですが五島うどんをゆでて、塩昆布、『からすみ』、温泉玉子を合わせた『からすみと塩こんぶの和るぼなーら』も美味しいですよ」。
現在、『無量菴 伊良林 銀鍋』の夜のメニューは、旬の食材をふんだんに使ったおまかせコース料理のみ。単品メニューはないので、『からすみ』を食べたい場合は、予約時に伝えておく必要がある。
「様々なご希望に対応できます。『長崎らしい料理を』と言われれば、まずおすすめするのは『からすみ』、『鯛めし』、『豚の角煮』ですね」。
味の追求を目指す高島さんは、『からすみ』の材料をいろいろと試されたのだそうだ。
「主に長崎産のボラの真子を使っています。私が兵庫出身ということで播磨灘(はりまなだ)のボラの真子を使うこともあるのですが、播磨灘のボラの真子は粒が小さいですね。長崎産のボラの真子は粒感がしっかりしています。特に『半生からすみ』だとそれがよくわかりますね。『からすみ』は、元々はサワラの真子で作っていたようですが、長崎ではボラがよく獲れるということで、ボラの真子を使うようになったようです。他の魚ではどうなるかいろいろ試してみました。タイの卵は上品すぎるし粒が小さい。ブリの卵は少し血生臭い。やはりボラの真子で作った『からすみ』が美味しいですよ。それから、タラコは生がおいしいですが、ボラの卵は生だと香りがあまりないし上品すぎるんです。『からすみ』にするのが一番美味しいですね」。
例年、『からすみ』を作り始めると高島さんはfacebookで“からすみ情報”を発信されている。
「ワインのように、“今年の『からすみ』は特にいい”みたいなこともあるんですよ(笑)。手間と時間をかけて手作りした『半生』をぜひ食べていただきたいですね」。
主に長崎産のボラの真子を使う。血抜きをした後、とにがりの風味がある塩をブレンドした塩で約1日塩漬けする
昆布を入れた焼酎に漬け込み、2時間毎に真子をもみほぐしながら塩抜きする。水で洗い成型した後、まめにひっくり返しながら干す
大根と合わせて焼酎のつまみにする他、ごはんと一緒に提供することもある。軽く炙ったものはつまみはもちろん茶漬けにしても美味
亀山社中の近くにある建物は、古い街並みの奥にひっそりと佇む。どの部屋からも美しい庭を望める趣きのある空間で昼はランチメニュー、夜はコース料理で長崎の旬を楽しみたい。『半生からすみ』(要問合せ)は、通常のからすみより干し時間を短くして、独特の香りと旨味を持ちつつ塩分が軽い。ごはんと合わせても美味だ。
住所 | 長崎県長崎市伊良林1-2-3 |
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電話 | 095-822-4615 |
営業 | 11:30〜OS14:00/17:00〜OS21:00 |
休み | 火曜 |
席 | 60席 |
カード | 可 |
駐車場 | なし |
URL | http://www.ginnabe.com/ |