カツオの腹皮は、生でも冷凍でも売られているが、塩焼きをする前に洗ったり、小骨を抜いたり丁寧な下ごしらえが行なわれる
店では、天火で身のほうから焼き、その後ひっくり返して皮面を焼く。焼き過ぎると身が固くなるので注意が必要だ
カツオの腹皮は塩焼きが一番ポピュラーな食べ方だが、その他にも天ぷら、煮物、唐揚げなど様々な料理が作られている
住宅街の中にある『お食事処 花むらさき』は昭和49年オープン。わっぱめしを中心とした料理で地元の方に愛され続けている。
「わっぱめしはごはんの上に山菜、鶏肉、エビなどの具材をのせて蒸した料理。蒸し上げるのに時間がかかるので、8割の方は電話してから来てくださるんですよ。ご常連の方は、声を聞くだけで何を頼まれるのかわかりますよ。昔から来てくださる方がいて本当にありがたいですね。『美味しかったよ』とも言っていただけますが、また来てくださって同じものを頼んでくださるのが何よりの喜びですね」と、店主・川平実義さん。お母様と姉の柏美和さん、川平実義さんの3人で、訪れる方々をもてなされている。
刺身、タタキ、腹皮…カツオ料理も、お店同様地元の方々に愛され続けている料理。実際に料理を作ってくださるのは川平さんだ。
「腹皮の塩焼きは、つまみとして出すことが多いですね。腹皮は生のカツオのものを使っています。秋〜冬は戻りカツオの季節なので脂がよくのっていますよ。作り方としては、塩をふって焼くという方法と、塩水につけておいて焼くという方法がありますが、うちでは塩をふって焼いていますね。まずは、よく腹皮を洗って水気を切って、塩をふります。脂ののり具合で塩のふりかたは加減しますね。地元の方は海が近いからでしょうか、少し塩辛いのがお好きなようです。
塩をふったら、天火で皮を下にして、身のほうから焼いていきます。薄いから火も通りやすいし、平たい形だし、遠火でじっくりとではなく、近火で短い時間で焼きます。カツオは焼き過ぎると身が固くなりますから、火を入れ過ぎないほうがいいんです。元々刺身でも食べられるものだから、中がレアでも大丈夫ですよ」。
途中でひっくり返して身が下側になると、脂がポタリと落ちた。だんだんと良い香りが漂ってきたらできあがりだ。焼き上がると、平面だった腹皮はくるりと巻いたようになり、元々のカツオの形がイメージできる状態となる。
「焼けた腹皮はそのままかぶりつくのが一番美味しいですよ。皮が苦手な人は、皮をはいでからどうぞ。生の状態では皮ははぎにくいですが、火が通るとすぐにはげます」。
かぶりつくと、ほどよい塩加減と脂ののった旨味が口の中に広がる。添えられている大根おろしに醤油を少したらして、一緒に味わうのもいい。
わっぱめしの中でもカツオ三昧できるのが『ぶえん鰹わっぱ』。枕崎で作られた『カビ付き本枯れカツオ節』がベースの出汁で、ごはんを固めに炊く。その上に具材として、出汁を取った後のカツオの削り節を甘辛く炊いた佃煮、そして腹皮の煮付けなどをのせて蒸し、最後にぶえんカツオの刺身を軽くヅケにしたものをのせるというものだ。
「このわっぱめしを作る時、トッピングの具材として腹皮も使いたかったのですが、どんなものにするかずい分と考えましたね。塩焼きや、塩茹でなど、いろいろ試した結果、煮付けにすることにしました」。
腹皮の煮付けの作り方にも細かな手間が加えられている。
「まず腹皮を湯通しして、うすい皮を丁寧にはぎます。これは仕上がりをきれいにするためでもあります。皮をむいた腹皮を、ショウガ、酒、砂糖、醤油を入れた鍋で炊いていきます。
九州の醤油は甘めなので砂糖は控えめですね。これを煮詰めていくとできあがりですが、煮付けも火を入れ過ぎると固くなるのでそこは注意ですね」。
できあがった『ぶえん鰹わっぱ』は、カツオの出汁、身、腹皮、削り節の佃煮が一度に食べられるぜいたくな一品。カツオの様々な旨味を味わえる。腹皮の煮付けの甘辛い味わいも、身のやわらかさも絶妙だ。
「それぞれのカツオの旨味がお互いに引き合っていると思いませんか?(笑)」。
腹皮料理の数々。柏さん、川平さんもよく食べられていたのだろうか?
「腹皮は、地元の方は塩焼きにするのが多いですね。僕も学生の頃は腹皮の塩焼きで、ごはんを何杯でも食べていましたね。昔も今もカツオの腹皮は安く売られています。たくさんあって安いものが一番美味しいものだと思いますね」と川平さん。
そして、柏さんは
「昔の学校は、土曜は昼まで授業でしたよね。土曜の昼は、どこの家もおかずが腹皮だったような気がしますよ(笑)。私たちよりももっと上の世代になると、腹皮とサツマイモをいつも一緒に食べていたようですね。小さい頃は腹皮を一夜干しにしているのをよく見ました。だから、昔はもっと街にカツオの香りが立ちこめていたかもしれません」。
『カツオの腹皮』は昔から変わらない枕崎の食材なのだ。
生の腹皮を使う。腹皮をよく洗って水気を切った後で塩をふる。脂ののり具合で塩のふり方を加減するとのこと
天火で皮を下にして身のほうから焼く。火を入れ過ぎると身が固くなるので、遠火でじっくりとではなく、近火で短い時間で焼く
腹皮を醤油や砂糖で甘辛く炊いた『腹皮の煮付け』。『ぶえん鰹わっぱ』のごはんの上にのせられる具の一品だ
『ぶえん鰹わっぱ』は、本枯れカツオ節がベースの出汁で炊いたごはんの上に、削り節の佃煮、腹皮の煮付け、ぶえんカツオの刺身をヅケにしたものなどがのったカツオ三昧の料理だ。ごはんの上に山菜、鶏肉、エビなどの具材をのせて蒸す"わっぱめし"が人気。一品メニューには『腹皮の塩焼き』も。ランチタイムは週替りの『お昼御膳』(白飯1,000円)もある。