豚モツ、シイタケ、コンニャクが基本的な具材。豚モツはしっかりと洗い、何度も下ゆですることで独特の臭みを取り除く
カツオ出汁が使われることが多い。出汁に加える調味料の基本は塩と醤油で、さっぱりとした味わいだ
下ごしらえしたモツを出汁でやわらかく煮込む。調味料で味付けしてシイタケとコンニャクを加えさらに煮込む
沖縄本島北部の街・名護市(なごし)中心部の名護十字路交差点の近くにある裏通りの一角。味わい深い看板が掲げられた入口から中に入ると思ったよりも広い店内…と感じたのだが実際は4人がけのテーブルが3卓。「鏡のせいで広く見えるよね〜(笑)。ここはね、前は洋服屋さんだったんだよ〜」とペロリと舌を出したのは店主・下地和子さんだ。『食事の店 和(かず)』は厨房を中心に2つの客室がある。1977年にカウンターを含め10席からスタートし、後に厨房のとなりの元洋品店だった場所も『食事の店 和(かず)』となった。鏡のある部屋は後で作られた場所というわけだ。
壁に貼られたメニューは『沖縄そば』、『みそ汁(ごはんや小鉢も付く)』、『ゴーヤーチャンプルー(ごはんや小鉢も付く)』などで、まさに“ザ・沖縄食堂”。足繁く通う常連も多く、『中味汁』も自慢の一品だ。
「豚モツはね、豚の小腸と大腸だけで、うちのお父さん(ご主人・清さん)が夜中の2時から下ごしらえしているよ。洗ったりゆでたりしてきれいにしないと、匂いがするからね〜。初めに汚れを落とすのには、酒やショウガとかを使って洗っているんだよ。その後で、下ゆでだね」。厨房には大きな寸胴鍋が置かれている。「この中にはね、肉付きの豚の骨を炊いて作る豚出汁が入っているんだよ。(沖縄)そばにも使う出汁だね」。下ごしらえした豚モツを豚出汁に入れ、ほどよくやわらかくなるまで煮込む。「それから、シイタケとコンニャクを入れて煮込むんだよ。煮込んだら一晩寝かせておかないと美味しくならないね。前は豚の三枚肉を入れてたけど、今はやめてるよ。三枚肉は煮込むとばらばらになってわからなくなってしまうさ(笑)」。
注文が入ると一晩寝かせておいた“中味汁の素”を必要分だけたまじゃくしで小鍋に入れ、火をかけ、醤油と塩で味付けする。すべて目分量だ。「なんでも測ったりはしてないね(笑)。『中味汁』はできあがるまでに4回火にかけないといけないから大変なんだよ」。
取材班は3人だったので、3人前を作っていただいているのだと思っていたが「これが1人前さ」と下地さん。山盛りの具材が丼につがれた『中味汁』はどっしりと重い。添えられるおろしショウガも山盛りだ。ちなみに、メニュー名は『中味汁』だが、山盛りのごはんと小鉢も付く。量の多さに驚くが、あっさりとした味わいで、するりと食べられ、もたれることもない。おろしショウガを徐々に加えながら食べれば味の変化も楽しめる。
「『中味汁』は沖縄のお正月によく食べる料理で、普通は小さいお椀に入れて食べるんだよ。でも、うちのは大盛りさ(笑)。冬場はよく出るね」。メニューにある『中味そば』は汁に味噌が加わり、『中味汁』とは違う味わいを楽しめる。下地さんが作るすべてのメニューは美味しさとともにボリューム満点。常連さんはもちろん、その噂を聞きつけ多くの観光客も訪れるとのこと。「ボリューム満点なのは私の愛情よ〜(笑)。たくさんのお客さんが来てくれて、うれしい反面、大変なんだよ。(観光客には)沖縄の言葉じゃなくて、共通語でしゃべらないといけないからね〜(笑)」。
豚モツは豚の小腸と大腸のみを使い、酒やショウガで洗い下ゆでする。その他の具材はシイタケとコンニャク
肉付きの豚の骨を炊いて作り、沖縄そばにも使われる豚出汁がベース。味付けは塩と醤油のみだ
豚モツを豚出汁で煮込み、さらにシイタケとコンニャクを入れて煮込み一晩置く。注文が入ると塩と醤油で味付けする
沖縄本島北部の街・名護市中心部の路地裏にある食堂。沖縄そばやみそ汁など沖縄の食堂ならではのメニューはどれも大盛りだ。『中味汁』も、豚出汁を使った汁の中に具材が山盛り。しかし、あっさりとした味わいでするりと食べられ、もたれることもない。味噌を加えた汁を使った『中味そば』でも豚モツの味わいをたっぷりと楽しめる。