九州の味とともに 冬

この料理の"味のキーワード"

ふぐ

臼杵のとらふぐを使う。『ふぐちり』に使うのはアラで、主に頭の部分と中骨の部分。新鮮なふぐをさばいたら、すぐに準備する

出汁

コンブ出汁、カツオ出汁などふぐの味を邪魔しないもの。ふぐの味を引き立たせるため、出汁そのものに塩などで少し味をつける店もある

ポン酢

爽やかな香りを持つ大分特産のカボス、醤油などを合わせて作る。酸味、甘味など、作り手の個性が現れる。薬味はもみじおろし、ネギなど

語り 日本料理 喜楽庵 山本千代の「ふぐちり」

山本千代さん

門から玄関までの間も趣のある空間。玄関を入って右側は大正時代の建物とのこと。創業明治11年、旬の魚介類を使った臼杵の味を提供している『喜楽庵』。春はタイ、メバル、ウニ、5月はオコゼ、夏はアジ、伊勢エビ、赤ウニ、ワタリガニ、ハモ…そして、秋が深まる頃からはふぐの本格的な季節が到来する。
「豊後水道は速吸瀬戸(はやすいのせと)とも呼ばれるほど流れが早いので、魚は身がひき締まっていて美味しいんですよね。ふぐも同じで、豊後水道のとらふぐは特別なふぐです。臼杵の天然ふぐは8月20日が解禁で、4月頃まで提供しておりますが、寒い時期は特に美味しいですね。12月〜3月は白子を食べることもできますから」。臼杵のふぐの魅力を語ってくださる女将・山本千代さん。

門から玄関までのアプローチはしっとりとした石畳

ふぐそのものの旨さに合わせて、臼杵では料理法も他とは少し違うとのこと。
「臼杵では、ふぐをねかせる時間が短いんです。普通はさばいてからさらしにまいて24〜30時間ほどねかせてから刺身にして食べるのですが、臼杵では4時間くらいしかねかせません。新鮮なものを食べるということですね。新鮮な身は弾力が強くて薄くは切れないのです。それで、よそとは違って刺身は必然的に肉厚になります。厚いし、ふぐの身自体にも甘味があるので、みなさんびっくりされますね。新鮮なふぐを食べていただきますので、うちは完全予約制です。一度食べられて、『身の厚いふぐは旨い』と思っていただけるようで、それから新鮮なふぐを毎年食べにいらっしゃる方も多いんです」。

解体されたふぐ

ふぐを堪能する『ふぐ料理』の内容は、ふぐ刺身、ふぐ唐揚げ、焼きふぐ〜みりんと醤油を合わせた物に漬けておいたものを焼く〜ふぐちり、ふぐ寿司。『ふぐちり』に使うのはふぐのアラ。頭の部分と中骨の周辺が中心だ。厨房ものぞかせていただいたが、切っているところを見ても身がぷりぷりとして弾力があるのがよくわかる。唇のところは一度湯に通してきれいに処理してから盛るのだそうだ。

『ふぐちり』に使う頭の部分

「骨は唐揚げに、皮は刺身にも鍋にも使いますし、ふぐは毒の部分以外は、捨てるところはあまりないんです。唇の部分は『うぐいす』と言って、ゼラチン質が多くて一番ぷりぷりしているところですね」

ヒレと『うぐいす』と呼ばれる唇

切ったふぐのアラを野菜と一緒に盛り付ける。くずきり、白菜、豆腐、春菊、ネギ、シイタケ、ニンジンなど。野菜は季節によっても少し変わる。
「自然循環型の堆肥工場もありまして、臼杵は今、野菜にも力を入れています。木や葉などを発酵熟成させてつくる堆肥、腐葉土のようなものですね。この堆肥で作った野菜はとてもいい味になりますよ」。

いよいよふぐちりを作っていただくことに。鍋に入れられた出汁に具材が入れられていく。まず、ふぐのアラとシイタケ。一煮立ちしたら、他の野菜を入れて、ふぐの皮を入れる。
「お出汁はカツオと昆布。カツオは京都から昆布は北海道から取り寄せています」。

煮立ってもフグからはほとんどアクは出ない。ここからもふぐが上品な魚であることがわかる。特製のポン酢でいただく。

厨房の横にはふぐのヒレが干してあった

「ポン酢の材料は臼杵のカボスと酒、醤油を合わせ、昆布とカツオブシを漬け込んでつくります」。
ポン酢には好みで、もみじおろしとネギを。爽やかな酸味のポン酢がふぐの上品な甘味をひきたてる。皮は熱が加わると透明なゼラチン質になって歯応えがおもしろい。ふぐの旨味もとけ込んだ出汁は、最後は雑炊にして残さずいただきたい。

プリプリとした身が美味しそうなアラ

「臼杵ではふぐの店が昭和40年代から増え始めて、現在は30軒くらいあります。この10数年でよく知られるようになってきましたね。世界無形文化遺産に日本料理を登録しようという話がすすんでいる中、私たちはふぐ料理を日本料理の大切な要素として推薦しているんです」。

臼杵のものから、大分県のものへ、そして、世界へと、臼杵のふぐはまたまだ広がり続けているようだ。

この料理人こだわりの「味のキーワード」

ふぐ

ふぐのアラ〜かまの部分、頭の部分、中骨の周辺〜を中心に使う。唇のところは一度湯に通してきれいに処理してから切って使う

出汁

出汁はカツオと昆布からとる。カツオは京都から、昆布は北海道から取り寄せ、上品な味わいの出汁に仕上げている

ポン酢

臼杵産のカボスと酒、醤油を合わせ、昆布とカツオブシを漬け込んでねかせる。薬味には、もみじおろしとネギがつく

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日本料理 喜楽庵 創業明治11年。ふぐ料理と臼杵の味を

創業以来、落ち着いた空間の中で、地元の海の幸、山の幸を使った料理を提供している老舗料亭。黄飯やきらすまめしといった郷土料理、臼杵藩稲葉家の伝統料理などで、臼杵ならではの味を堪能できる。ふぐ料理は、ふぐの美味しい秋から春までの季節限定で、その日に仕入れた新鮮なとらふぐをいただく。12月から春までは白子を食べることもできる。

『ふぐちり』は『ふぐ料理』13650円(サ別)の中の一品。天然ふぐの場合は時価で16000〜20000円
個室は、全室が庭に面しており、ゆっくりと食事が楽しめる

日本料理 喜楽庵

住所 臼杵市城南9組
電話 0972-63-8855
営業 11:30〜/17:00〜
 ※完全予約制
 ※ふぐ料理は8月中旬〜4月頃まで
休み 月曜または火曜
座敷の個室3部屋、椅子席の個室3部屋、中広間、大広間
カード
駐車場 あり
URL http://www.kirakuan.jp/
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