九州の味とともに 冬

この料理の"味のキーワード"

イラブー

イラブーの燻製をよく洗った後、下ゆでしてアクを取り除く。燻製のやり方によって、洗い方を変える必要があるようだ

作り方

下ゆでしたイラブーの燻製を適当な大きさに切り、じっくりと煮込む。カツオ出汁や豚出汁を加え、テビチ(豚足)や昆布を添える

味付け

イラブーの燻製から出るスープに、カツオ出汁、昆布出汁、豚出汁なども加えるため、塩だけで味付けされることが多い

語り 琉球郷土料理・イラブー料理 カナ 我謝藤子の「イラブー汁」

店主・我謝藤子さん

民家がポツポツとある静かな場所、細い道沿いに、イラブー料理を中心にジーマーミ豆腐、フーチバジューシーなど様々な琉球料理を食べられる『カナ』はある。お店に入ってすぐの場所に置かれている黒くカチカチの物体は、イラブーの燻製だ。

「燻製をすることで酸化しないし、カビがはえにくくなり保存しやすくなります。その黒いかたまりが『イラブー汁』になるんですよ(笑)」。笑顔で迎えてくださるのは店主・我謝藤子(ガジャフジコ)さん。1981年の創業以来、変わらない情熱で料理を作り続けている。現在は、娘さんのいずみさん、いずみさんのご主人アレックスさんと一緒に訪れる人をもてなしている。

手間と時間をかけてつくられる『イラブー汁』について我謝さんにお話をうかがった。

●下ごしらえ
「まず、燻製されたイラブーを洗います。久高島で燻製されたイラブーと、石垣島で燻製されたイラブーの2種類を使っているのですが、洗い方が違うんですよ。石垣産のものは重曹と水を電気分解したもので洗い、久高島産のものは水と小麦粉で洗い、さらにお酢と小麦粉で洗うのです。20〜30分かけて洗うんですよ。そして、サトウキビなどを切る大きなカッターで10cmくらいの長さに切ります。

イラブーの燻製と切る器具

圧力鍋に入れ、ふたをせずに30〜40分煮込みながらアクを取り除きます。そして、小さな骨を抜きます。

イラブーの身の小骨は手作業で抜く

朝、骨を抜く作業をすると、その日の夜にお風呂に入っても、次の日の朝まで手がイラブーの燻製の匂いがするんです。でも手はツヤツヤできれいになるんですよね(笑)」。

●煮込み
「身がくずれないようにひもで結んで形を整え、軽い重りをかけた圧力釜で15~16時間煮込みます。煮込んでいると、家の中全体が燻製の香りになりますね(笑)イラブーの内臓も骨もまるごとすべて煮込むことになります。すべて煮込んでいることが、イラブーの栄養や旨味を出すために肝心なのです。煮込んでいくと脂が出ますが、この脂の旨味がスープの旨味になります。また、この脂はいろんな効能があって、火傷に効いたという方や、脂を塗ることでイボが消えたという方もいらっしゃるんですよ」。

●味付け
「イラブーのスープに昆布出汁と豚出汁を微妙なバランスで加えています。それと欠かせないのが『コラーゲン』。豚の三枚肉を炊いてとった豚出汁に、一番出汁をとった後のカツオ節を入れて煮込み、カツオ節を漉した後、テビチ(豚足)を入れて煮るとゼリー状に固まります。これを『コラーゲン』と呼んでいます。

イラブーの燻製を煮込んでできあがったスープと、豚出汁からつくったコラーゲン

このコラーゲンが、『イラブー汁』の味に欠かせません。そうそう、このコラーゲンを食べると、次の日は肌がツヤツヤになりますよ(笑)。スープの味付けに使う調味料は、塩を少し加える程度ですね」。

●効能
「『イラブー汁』はかつては宮廷料理として食べられていた沖縄の伝統料理です。滋養強壮の効果、発汗作用、血液の浄化作用などがあると言われています。即効性があるようで、食べてすぐに目が潤んでくる方もいらっしゃるようです。冷え性にもいいみたいですね。赤ちゃんが食べると夜中に暴れて大変だという話もありますよ(笑)」。

イラブーの身とともに、テビチ、結んだ昆布を煮込む。

最後に昆布、テビチとともに煮込む

器に盛付け、イラブーの身がくずれないように結んでおいたひもを取り除き、スープを注いでできあがり。

器に盛付け、イラブーの身が崩れないように結んでおいたひもを取り除き、スープを注いでできあがり

イラブーの身の表面にあるウロコ模様に少し尻込みする人がいるかもしれないが、スープはまったく臭みもなく奥深い味わい。一口一口が身体に染み入っていくようだ。骨を抜かれているイラブーの身も食べやすい。
「1匹のイラブーで5人分くらいが作れます。身はエキスが全部出てしまった“ガラ”みたいなものですが、スープは残さず食べないとダメですよ(笑)。イラブーのエキス、テビチのコラーゲン、昆布のヨードと栄養満点の料理ですね」。

『イラブー汁』と合わせて、我謝さんが『馬の角』と呼ぶ料理を出していただいた。
「これは他のどこにもなくて『カナ』にしかないから、『馬の角』と呼んでいます。イラブーの卵の燻製なんですよ。いつもあるわけじゃないんで、ある時にしか食べられない貴重なものです」。

カラスミに似ているが、独特の風味を持ち、濃厚でしっとりした味わいだ。

実は『カナ』は我謝さんの体調もあり一度休業したのだが、2015年2月にいずみさん夫妻の協力もあり再びオープンした。
「私たちの『イラブー汁』があるから元気に生きていけるという人、元気のないおとうさんに食べさせたいという人…そんなみなさんのために、やめられないですね。『イラブー汁』はもちろん、食はすべて『ぬちぐすい』(ぬち=命、ぐすい=薬)です。最高のものをつくって食べていただきたいと思っています。今までいろんなことがありました。思ったようにいった時はひとりで万歳して、うまくいかなかった時は『は〜』じゃなくて、『は〜ひふへほ』と言って元気出して(笑)。だから、これまで大変だと思ったことは一度もないんです。うれしくて楽しくて…」。

我謝さんのまっすぐで温かな想いも加わり、『カナ』の『イラブー汁』は、さらに滋味深い味わいとなる…。

この料理人こだわりの「味のキーワード」

イラブー

燻製されたイラブーを洗い、10cmくらいの長さに切る。30〜40分煮込みながらアクを取り除いた後、小さな骨を抜いておく

作り方

イラブーを煮込んだスープに、昆布出汁、豚出汁、豚のコラーゲンを加える。イラブーの身とともに昆布、テビチが添えられる

味付け

イラブーのスープ、昆布出汁と豚出汁、さらに豚出汁とテビチからつくったコラーゲンの味わいが重なるので、調味料は塩を少しだけ

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琉球郷土料理・イラブー料理 カナ “ぬちぐすい”を琉球料理で楽しむ

1981年の創業以来、イラブー料理を中心に、ジーマーミ豆腐、フーチバジューシーなど様々な琉球料理を食べられるお店。『イラブー汁』は、イラブーの燻製を煮込んだ後、昆布出汁や豚出汁を加える他に、身の小骨を手で抜いたり、豚出汁からつくったコラーゲンを加えるなど、より手間と時間をかけて生まれる。身体に染み入っていく味わいだ。

テビチと昆布も入った『イラブー汁』が食べられる『イラブー定食』3500円(税込)。ウカライリチー、ジーマーミ豆腐、スヌイ、フーチバジューシーなども付く ※要予約
『馬の角(イラブーの卵の燻製)』時価
民家を改装した店内は、とても落ち着いた雰囲気だ

琉球郷土料理・イラブー料理 カナ

住所 沖縄県中頭郡北中城村屋宜原515-5
電話 098-930-3792
営業 18:00〜OS21:00
休み 金・土曜営業、火・水曜は5名以上で応相談
※完全予約制
カード 不可
駐車場 なし
URL http://irabu-kana.com/
※記載した内容は2016年12月20日現在のものです。
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