どの店も新鮮な牛もつを使うことに変わりはないが、使う部位や、美味しく料理するための下処理には、各店が工夫を凝らしている
すき焼き風から始まったと言われている。現在の主流は醤油味と味噌味で、両方のスープを用意している店も多い
野菜の盛り方や煮込み方で味わいが変わってしまうので、その店のスープやもつに合わせた作り方で提供されている
目の前に運ばれてきた鍋には、山のようにニラが盛られている。ニラと上からちらされた唐辛子以外には何も見えない…。この盛り方も『楽天地』の名物の一つだ。
「ニラは以前からたっぷり盛っていたんですが、とあるアーティストの方に『クリスマスツリーみたいだね』と言っていただいたんですよ。それからは、上がとんがった三角形になるように盛りつけてます(笑)」。
若女将・水谷美穂さんを先頭に、スタッフのみなさんも元気一杯だ。
「うちは、天神に残る唯一の戦前の建物なんですよ。昭和の雰囲気も残っていると思います。5階までありますがエレベーターはありません。スタッフは階段を使って料理を運んでいます。体力がないとうちの仕事はできないですね。もつ鍋は盛った状態でお客様のテーブルに運ぶので、階段の途中にニラが落ちていることがあるかもしれません(笑)」。
『楽天地』は昭和53年(1978年)創業。水谷さんのご主人のご両親が始めた。以来、昭和の雰囲気を残したまま、味もメニューも変わらず今に至る。
「スープは先代の女将さんが作ったものです。魚介類の出汁と醤油を合わせたもので、うちのもつ鍋の命といえるものです。それと、もう一つ命があって、それはもつの鮮度です。もつは傷みやすいし、時間が経つと匂いもしてしまうんです。福岡産と鹿児島産の生もつを使っています。部位は小腸、大腸、ミノ、センマイ、ハチノス、ハツの6種類。箱崎の処理場でしめてすぐのものを仕入れて、脂を半分取り除いています。そうすることによって、味がまろやかになるし、胃にもやさしくなるんです」。
もつやキャベツなどの上にニラが山のようにのせられた鍋をコンロにかけて、火をつける。ここでむやみにニラにさわってはいけないのだそうだ。
「野菜がしんなりするまで強火で煮込みます。ニラでふたをして蒸し焼きにする感じですね。ニラはすべて長さ4・5cmに切っています。この長さじゃないとツリーのように盛れないし、食べにくいんですよ。すべて包丁で切っていますので、スタッフの指には、毎日ニラを切ることでできたタコがあります。大分、宮崎産の肉厚で風味のいいものを使っています」。
野菜が沈んできたら弱火にしておたまで全体に火が通るようにまぜ、全体がしんなりしたら食べごろだ。初めの状態では見えなかったキャベツやニンニクも現われる。
「キャベツは九州各地から厳選したものです。もつのスープと煮込むと甘味が増しますし、鍋全体の味を際立たせますね」。
ジューシーなもの、独特の歯応えがあるもの…そんなもつの旨さと、キャベツの甘味に食がすすむが、もつと野菜の旨味が溶け込んだスープも絶品。ついつい飲みきってしまいそうになるが、〆のことを考えると飲み切ってはいけない。
「特製ちゃんぽん麺で〆るのがまた美味しいので、スープは残しておいてください!! スープだけを継ぎ足すこともできますが、もつと野菜の出汁が出たスープは再現できませんから!!(笑)」。
実は、もつ鍋をちゃんぽん麺で〆るという食べ方は、『楽天地』から始まったとも言われている。
「初めはまかないとして食べていたようなんですが、美味しいのでメニューに加わったようです。スープから甘い香りが鼻にぬけ、その後、麺からもふわっと甘い香りが鼻に抜けるんですよ」。
この話をうかがうと、多少満腹感があっても、ちゃんぽん麺を〆で食べずにはいられなくなるだろう。
「主人と私は、『楽天地』が博多のディズニーランドになることを目指しているんです!!」と言う水谷さん。それはお客さんにとことん楽しんでもらいたいという想いからだ。
「もつ鍋は博多を代表する食ですし、観光客の方も含め、来てくださる方に楽しんでいただきたいんです。一卓、一卓のお客さんに楽しんでいただけるようにがんばってます。スタッフのネームプレートにも、魔法のシンデレラ、おしゃべりボクサーといったニックネームを書いていますよ(笑)。ディズニーランドと同じように、ゲストとキャストでありたいですね。天神のど真ん中でおいしく、たらふく、安く、楽しく食べられる店だと思っています!!」
どんな“ゲスト”もウェルカムという想いがあふれているからか、女性一人客の姿も多い。
「もつ鍋は一人前からでもお出ししていますからお気軽にどうぞ。野菜もたっぷりだし、もつはコラーゲンが豊富で美容にもいいので、女性はとてもいいお料理ですね。私もよく食べていますよ」。
“クリスマスツリー”のようなもつ鍋はお腹も肌も心も満たしてくれそうだ。
福岡産と鹿児島産の小腸、大腸、ミノ、センマイ、ハチノス、ハツの6種類。しめてすぐのものを仕入れ、脂を半分取り除く
魚介類の出汁と醤油を合わせたスープ。先代の女将さんが作ったもので、『楽天地』のもつ鍋の命といえる大切なものだ
野菜がしんなりするまでは、決してさわらずに強火で煮込む。大量に盛られたニラがふたの代わりになり、全体が蒸し焼きのようになる
建物は戦前に建てられたとのこと。昭和の雰囲気も残る店内でいただけるのは、小腸、大腸、ミノ、センマイ、ハチノス、ハツの6種類のもつとニラやキャベツがたっぷり入ったもつ鍋。魚介類の出汁も加わった醤油ベースの秘伝のスープも味わい深い。まろやかな味わいとなるように、もつの脂は半分を取り除いている。鍋に盛られたニラの量にも驚く。
住所 | 福岡市中央区天神1-10-14 2〜5階 |
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電話 | 092-741-2746 |
営業 | 17:00〜24:00 |
休み | なし |
席 | 120席 |
カード | 可 |
駐車場 | なし |
URL | http://www.rakutenti.jp/ |