『かっぽ鶏』だけに、鶏肉は必須。その他はきのこや野菜など、季節によって、作り手によって様々なものを使う
シンプルに塩とコショウだけのものもあれば、味噌を使ったり柚子こしょうを使ったりと様々な味わいがある
竹で作った器に味付けした素材を詰め込み、竹のふたをしたら直接火にかける。時間をかけて蒸し焼きにする
高千穂町の中心街から、まがりくねった道を車で約30分。『民宿 まろうど』を営む飯干淳志(いいぼしあつし)さんを訪ねた。
「昔からこのあたりでは竹に親しんでいますね。僕も竹で鉄砲やら弓矢やら作ってよく遊んでましたし(笑)。竹を食べ物の道具として使うという意味では、かっぽ茶が始まりのようです。かつて高千穂では焼き畑が盛んで、焼いた後に在来種のお茶が自然と生えていたそうなんです。山仕事の合間に、竹を割って水を入れて湯を沸かし、その中に山茶をあぶっていれてお茶を楽しんでいたようなんです。『かっぽ茶』ですね。そこから『かっぽ酒』、『かっぽ鶏』と生まれたのでしょうね」。
飯干さんの『かっぽ鶏』は、竹を切りに行くところから始まる。
「竹は近くにいくらでもあります(笑)。アクがあまり出なくてタケノコの味にもクセがない真竹(まだけ)を使うのがいいようですね。それから、古い竹ではなくて、1年ものを使います。味がよく出るし、色合いもいいんです。器に使う竹の太さは、食べる人の数によって変えますね。少人数の時は小さいのにしないと、鶏肉がどれだけあっても足りません(笑)」。
そうお話ししながら、竹の器ができあがっていく。まず、のこぎりで竹の節と平行に2つの切れ目を入れる。
片方の切れ目の横にドライバーを入れ、かなづちでコンコンとたたくと、もう片方の切れ目までまっすぐに竹は割れる。
「竹の繊維はまっすぐなので、きれいに割れるんですよ。ささくれだったところをきれいに削って仕上げます。割って外した部分はふたとして使います。作った器は、一回しか使いませんね」。
竹の器の準備ができたところで、中に入れる具材の準備だ。今回は3種類の味を用意してくださった。
いずれも、適当な大きさに切った鶏肉に塩コショウをして、その他の具材と調味料を加えてもみこむ。
「なぜ鶏肉が入るようになったのかはわかりませんが、野菜や味付けにいろいろなバリエーションがありますね。具材の準備ができたら、炭火を起こします。火が起きる間に、具材に味が染み込むのでちょうどいいんですよ」。
火を起こしたら、竹の器に具材を詰めふたをして、そのまま火にかける。
「酒を飲んでいるうちにできあがります。そうやって待つのが一番ですね(笑)。僕の中では、『かっぽ鶏』は、外で仕事する時にその場で食べるバーベキューみたいなものです。道具と材料さえ持って行けば、他はすべて自然から調達できます。竹も薪もいくらでもありますからね。今は、竹の器も格好良く作っていますが、昔は『かっぽ酒』のように竹を斜めに切って、その中に鶏肉や野菜などを入れて、火にかけていました。やはりその場で作った竹の串で刺しながら食べていましたよ。元々、ワイルドな料理ですが、今は、人をもてなすためとか、外でわいわいやる時の料理にもなっていますね」。
しばらくすると、シューシューという音がして、側面から蒸気が立ち上り始める。
「蒸し焼きみたいになっているので、ふたはあまり開けないほうがいいんです。だから、蒸気の出方と音でできあがりを判断します。竹の外側が燃えることがあるので、びっくりする人もいます。見た目もおもしろいですね」。
ふたをあけると、白い蒸気の中から、アツアツの鶏肉と野菜などの姿が現われる。竹のエキスも加わったまろやかな味わいに、焼酎もさらにすすむ。
こちらの屋号『まろうど』は古語で“客人”のこと。飯干さんは簡単に行けるとは言い難いこの地で、旅人が訪れるのを待っている。
「秋元地区は、こんな山の中なのに様々な情報や文化があるんです。料理、カイコから生糸を取る技術、酒づくり…。これらは、ここを訪れた行商人の方などを丁寧にもてなすことによって伝わってきた文化なんです。訪れる方々をもてなすことによって、様々な文化にふれることができて、自分たちも豊かになっていく。そんな先人たちの想いを僕も実践したいと思っています」。
「鶏肉とネギ」、写真の「鶏肉、焼き豆腐、コンニャク、ネギ、生シイタケ」、「鶏肉、ゼンマイ、タケノコ、生シイタケ」など、様々な組合わせがある
鶏肉に塩コショウをした後、その他の具材と調味料〜ゆず胡椒、ニンニク醤油、味噌etc〜で味付けし、しばらくねかせた後、竹につめる
具材を詰めた竹にふたをしてそのまま火にかけて蒸し焼きに。竹から出る音と、表面から出る蒸気で、できあがりを判断する
高千穂中心街から車で30分ほどの秘境・秋元地区にある民宿。「こんなところまで来てくださったのだから感動する料理を」という想いで、自家栽培の野菜などを材料にした様々な創作料理を提供している。豪快な『かっぽ鶏』に使う器は、ご主人自らが山から切り出し加工する。シイタケ乾燥小屋を改装し、秋元神楽の写真を展示しているギャラリーも併設。
住所 | 西臼杵郡高千穂町向山6604 |
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電話 | 0982-72-7226 |
部屋数 | 4室 1泊2食8500円〜 |
カード | 不可 |
駐車場 | あり |
URL | http://takachiho-muratabi.com/ |