油揚げとは似て非なる揚げを
海苔の代わりに使う巻き寿司
四国地方から伝わったと言われ、熊本県南関地方で作り続けられている『南関揚げ』。薄く切った豆腐を揚げるという意味では、よく知られている油揚げに似ているが、豆腐の水分を切ってしっかり揚げるため、ほとんど水分を持たない。カリカリサクサクで、冷暗所で保存すれば、常温で長期間保存することができる。南関では味噌汁の具材として欠かせない食材。この南関揚げを海苔の代わりに使った巻き寿司が『南関揚巻寿司』だ。
サクサクの南関揚げを油抜きし、出汁、醤油、砂糖などを使った煮汁でじっくりと煮込む。ほどよく味が染み込んだ南関揚げを軽くしぼり、巻きすの上に敷く。そこにすし飯を均等にのせ、具材を並べて巻く。具材は、作り手によって様々だが、厚焼き卵、甘辛く煮た椎茸、桜でんぶなど。夏はキュウリ、冬はホウレンソウなどもよく使われる。海苔と違って南関揚げにはすし飯がくっつきにくいので、きれいに巻くためには、しっかりと巻くことと、巻き終わりの力の入れ方にコツが必要。少し歯応えがあり、しっとりもっちりとした南関揚げの食感は、海苔とはまたひと味違う美味しさだ。
『南関揚巻寿司』がいつ生まれたかは定かではないが、南関揚げは江戸時代には作られていたとのこと。この地の先人たちが身近にある素材で作り始めたことは想像に難しくない。
南関揚げを製造している『塩山食品』を訪ね、南関揚げの作り方を見せていただいた。
まず、大豆から豆乳を作り、10cm角くらいの豆腐を作る。これは南関揚げを作るための専用の豆腐だ。この豆腐を5mm幅くらいに切って、圧力をかけてしっかり水を切る。それをキャノーラ油で揚げる。油は低温槽と高温槽の2つの油槽に入れられている。まず低温で揚げて、その後、高温で揚げる。二段階で揚げることにより、水分のほとんどない独特の揚げができるのだ。
初めは10cm角だったものが、高温の油で揚げると22cm角ほどに一気にふくれあがる。その日の気温や湿度にあわせて揚げないとうまく膨らまない。また、油から早くあげてしまうとしなっとなるし、油に入れ過ぎると油を吸いすぎてしまうとのこと。そのため、揚げの工程は完全な手作業で行なわれている。
ほとんど水分がない状態なので常温でも90日間保存できる。ただ、光には弱いので冷暗所で保存することが必要だ。また、水分がないサクサクとしたものなので、ねかせて切るとつぶれてしまいやすい。立てた状態で切ると切りやすいのだそうだ。
南関揚げの歴史については、愛媛の松山から伝わって来たという説が有力なのだそう。愛媛には『松山揚げ』という南関揚げに似たものが今も存在している。
では、なぜ松山のものが南関に伝わったのか?そこには『島原の乱』の影響もあったようだ。島原の乱で人口がかなり減ってしまった島原半島に、幕府の命で四国から多くの人々が移住させられた。南関はその人々の通り道だったため、松山の揚げの技が南関にも根付いたと考えられるのだ。
ちなみに、小豆島で早くから作られていた“そうめん”も同じように伝わり、『南関そうめん』として特産品となっている。また、島原でも“島原そうめん”は特産品だ。
湯で煮るなどして油抜きをしてから、出汁、醤油、砂糖などで味付けする。煮込み時間と絞り方で味の染み込み方が左右される
いわゆる巻寿司の具材と同じで、卵焼き、シイタケ、桜でんぶ、キュウリやホウレンソウなどの野菜がよく使われている
南関揚げは海苔と違ってすし飯がくっつきにくいので、南関揚げの上に広げるすし飯ののせ方や、巻き方に工夫がなされている
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