手開きする刺身、丸ごと食べる天ぷら…
銀色に輝く新鮮な身をさまざまな料理で
『きびなご』は関東や山陰沖以南、中部太平洋やインド洋に広く分布する体長10cmほどの小ぶりで細身なニシン科の魚。鹿児島近海でもよく獲れ、特に東シナ海に浮かぶ甑島(こしきじま)周辺が一大漁場だ。外見の特徴は、身体の表面に銀色の帯が走っていること。きれいな海でしか生きていけず、環境の変化にも弱くデリケート。鮮度も落ちやすいので漁師たちは細心の注意を払って漁をし、港に運ぶ。
朝、港に揚がった新鮮なきびなごは、よく刺身で食べられている。小さく身がやわらかいことから、刺身にするには、包丁を使わず一匹ずつ手開きしていく。開いた身をくるりと巻いて皿に並べる『菊花造り』は、銀色に輝いて美しい。鹿児島では酢味噌が添えられることが多い。オスは白子、メスは真子を持つ5月から夏にかけての季節と、11月くらいが脂がのって美味しいとのこと。シャキッとしてツルッとした食感の身は焼酎によく合う。
刺身以外では、天ぷら、塩焼き、唐揚げ、干物などもよく食べられている。阿久根市では、昔から食べられていた牛肉の代わりにきびなごを使ったすき焼き『きびすき』を使っての街おこしも展開されている。
阿久根市の『北さつま漁業協同組合』を訪ね、業務部次長・倉津信秀さんと業務部販売課・古賀敏彦さんにお話をうかがった。
「きびなご漁は、夜の12時くらいに港を出て行う刺し網漁。船の灯かりをつけると、船のまわりで渦を巻くように集まってきますよ。
キラキラ輝いてきれいですね。網は、15cm四方に18×18の穴があるものです。穴の大きさが小さすぎると、きびなごの子どもまで獲れてしまうので、それは避けています。産卵を前にした5〜7月が漁の最盛期ですね。このピーク時には、みそ汁にいれたりもして、週に5回くらい食べますよ(笑)。毎朝、6:00くらいに水揚げされますが、きびなごはとにかく鮮度が命、時間との勝負なんです。傷むと、腹が真っ赤になってしまいます。かといって、氷で冷やし過ぎると光というか輝きがなくなってしまう。難しいところですね。
甑島あたりでよく獲れますが、長島海峡あたりのきびなごは波が荒くなくてとても脂がのっています。刺身にするのに手でさばくと、手に脂がくっつくくらいですよ。獲れる場所でも違いますね。刺身以外では、天ぷらとか塩焼きとかキビスキとかでも食べます。干物にした『がらんつ』というものもあるんですよ」。
こちらの漁協のモットーは、無塩・新鮮・人間味。“無塩”も、“塩をしていない”つまり新鮮であるという意味の言い回し。こちらの港にはきびなごの他、特産の華アジなども水揚げされている。
『がらんつ』は、鹿児島で小魚を丸干しや干物にしたものの総称。阿久根で、きびなごの『がらんつ』を作っている『マルフク川畑水産』代表取締役・川畑浩さんにお話をうかがった。
「私は4代目で、弊社は大正時代から始まっています。昭和30年代くらいから、メザシなどを作り始め、『がらんつ』も作るようになりました。きびなごを醤油が主体の調味液に1時間ほど漬けて乾燥させるというものです。干物では塩を主体にした調味液に漬けることが多いのですが、塩が主体だと角がとれなくてとがった味になるんです。うちでは特製の醤油を使っていますよ。フライパンに油をひかずに乾煎りしていただければOKです。焼いた時、まろやかな醤油の香りもいいですね。昔は冷蔵庫もなく、きびなごがたくさん獲れた時に捨てるのはもったいないということで生まれたようです。島津の時代から食べられていたようですよ。作る時、脂の強すぎるきびなごは『がらんつ』に向かないですね。無理に乾燥させると渋みが出たりもします」。
『がらんつ』いう不思議な名前の由来は何だろうか?
「大口(鹿児島県大口市)あたりでは、カラカラに干上がったたんぼのことを『がらんつ田』と言うんだそうです。そこからきているのかもしれないですね。きびなごは、頭からしっぽまで食べられる鹿児島県の県魚。大学の調べによると、DHAはイワシの3倍くらいもあるらしいです。阿久根では黒酢漬け、唐揚げ、丸干しなども作っていますので、ぜひ一度食べてみていただきたいですね。特に『がらんつ』はカルシウム豊富で、焼酎にも合うヘルシーなおつまみですよ」
新鮮なきびなごの味が一番わかるのは刺身。手でさばいた刺身を、各店独自の酢味噌などでいただく
骨もやわらかく、内臓に苦みがないきびなごは天ぷらや塩焼きにしてまるごと食べられることも多い
阿久根エリアで提供されるようになった『キビスキ』など、各店が“きびなごの美味しさを伝えたい”と作る自慢の料理もある
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