筑後川と有明海が育む初夏の味
淡白な味わいの中にある小骨の食感
初夏の筑後川。筑後川で生まれ、有明海で育ったエツは、産卵のために再び筑後川に帰ってくる。川を遡上するエツを狙った漁が解禁されるのは5月1日から7月20日まで。日本では筑後川の下流域でしか産卵せず、傷みも早いため、エツ料理はまさにこの時期、この界隈でしか食べられない
エツは片口イワシの仲間で体長40cmほど。刀の形に似ていて淡白な味わいだが、ハモと同じように小骨が多いので、料理人が丹念に骨切りすることが欠かせない。そして、刺身、煮物、塩焼き他、様々な料理となって食される。淡白な身はどんな料理になっても、主役でありながらやさしい味わいで、料理の調和をこわさない。その中にあるコリッとした小骨の食感は、エツならではのもので、味のアクセントにもなっている。
エツにはこんな伝説が残っている。〜始皇帝の命を受け不老不死の薬を求めてこの地を訪れた徐福(じょふく)が、生い茂る葦(よし)の葉を手でかき分けて上陸した時、筑後川に落ちた葦の葉がエツになった〜
2000年以上も伝わる伝説を思いつつ、エツ料理に舌鼓を打つのもおもしろい…。
筑後川下流域で行なわれているエツ漁。芳野丸の船長・野口芳文さんに同船させていただきエツ漁の現場を見せていただいた。
全長6mほどの船の後ろには『えつ』と書かれた旗がはためいている。
「エツを獲る許可証みたいなもんやね。毎年色が変わるけど、今年は佐賀県の船は白色、福岡県の船は黄色になっとります」。
数分で筑後川にかかる昇開橋の北側に位置する漁場に到着した。
「潮が満ちてきて止まり、引きだすまでの間が一番よく獲れるごたぁね。南風の吹く時もよく獲れるね。雨が降って寒い時は獲れんごたぁ」。
エツは流し刺し網という方法で漁を行なう。網の長さは約200m、上下の長さは約2m、1m間隔で浮きと重りがついている。きれいに畳んであるその網を船から流す。つまり、川の流れに対して直角に網の壁をつくるということだ。それから潮の流れによって数十分から1時間ほどそのままにしておいて、網を上げる。
「エツは川の流れに乗って泳ぎよるけん、網に刺さったようにして獲れるとよ」。
網をたぐりよせると、銀色に輝くエツがかかっている。それを見た野口さんが一言。
「きなかね〜(黄色だね〜)」。
海から川をのぼるエツは徐々に色が変わっていくのだそう。
「きなか(黄色の)エツは、まだ川に入ってきたばかりのもの。川をのぼっていくにしたがって青くなっていくもんね。きなかとはまだ骨も硬かよ。川の中でやわらかくなっていくとやろうね。青いとは旨いよ。エツが産卵する場所は川の水と海水が混ざるところ。それが上流のほうになって、エツがよく獲れる場所も上流に移りよるね」。
獲れたエツは奥様に料理してもらい、ご自身でもよく食べるとのことだ。
エツそのものの味が一番わかるのは刺身。料理人がもっとも気を使う一品だ。通常、オリジナルのごま醤油が添えられる
塩焼き、南蛮、唐揚げなどをする下準備として、骨切りをする。細かな仕事は変わらないが、骨切りの角度など料理人によって異なる
オーソドックスな料理の他、エツの旨さを引き出そうと、料理人は、自慢のエツ料理に工夫を凝らしている
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