暑い夏によし、飲んだ後の〆によし
宮崎の素朴なぶっかけ飯
冷汁は、南国・宮崎の暑い夏を乗切るために食べられている家庭料理。主に大淀川水系で農作業を行なう人々の間で食べられていたようで、現在も宮崎市を中心に食べられている。似たような料理が大分、四国などにもあり、鹿児島で生まれて、宮崎をはじめ西日本各地に伝わっていったという説もある。
味噌とアジやカマスなどの炙った魚の身をほぐしたものを合わせ、すり鉢ですりつぶして冷汁の素をつくる。それを冷えた出汁や冷水でとき、輪切りにしたきゅうり、ほぐした豆腐、大葉、胡麻などを入れて熱いごはんにかければできあがりだ。
口の中にかきこむと、味噌の香りの中に胡麻の風味やきゅうりのシャキシャキ感が広がって、さらりとおなかにおさまっていく。簡単に作れる上に、栄養が豊富で、食欲のない時でも食べやすい。暑い宮崎で今でも愛され、食べられ続けている理由だ。
細かな作り方や具材は作り手によって異なるが、共通するやわらかな味わいは飲んだ後の〆にもぴったり。今宵も宮崎のしょっちゅくれたち(焼酎好きたち)は、芋焼酎でほろ酔いになった後、冷汁を食して一日を終える…。
ほとんどは水分で、はざわり、しゃきしゃき感、身体を浄化する作用を持つきゅうり。冷汁に欠かせないきゅうりについて、JA宮崎経済連の廣瀬誠博さんに話をうかがった。
「宮崎の野菜の生産高は1位がきゅうり、2位がピーマン、3位がトマトです。全国では1年間に62万トンのきゅうりを生産していますが、平成21年度の宮崎でのきゅうりの生産高は約6万3000トンで全国一。県内で生産高が多いのは、1位宮崎市、2位西都市、3位綾町です」。
昭和40年頃からハウス栽培が始まり、宮崎のきゅうり生産高は急速にのびたが、明治28年には既に栽培の記録があるのだそう。夏の暑さ、平地から高台まである地勢といった宮崎の風土がきゅうり栽培に適しているからだ。
「きゅうりは成長が早くて毎日収穫しないといけません。最盛期は朝と夕方の2回の収穫になりますね。手で1本1本収穫しますが、イボ(表面がとげとげの部分)がとがっているのが新鮮な印。きゅうりは鮮度が命ですし、あまり人の手にふれないほうがいいのです。収穫して、すぐに箱詰めする。つまり1回しかきゅうりにさわらない『みやざきワンタッチきゅうり』というブランドもあります」。
もちろん、宮崎県内でも食べられているが、特に冬場のきゅうりは北は北海道から南は沖縄まで全国へ出荷されています。そこで、宮崎産のきゅうりを安心して手にとってもらえるような努力もなされている。
「宮崎ならではの方式なのですが、安心・安全な野菜を提供するため、残留農薬等の数値が2時間で判明する仕組みがあります。特にきゅうりは皮も食べるものですからね。また、栽培が環境にやさしい『みやざきエコきゅうり』というものもあります。誠実にやっていき、宮崎産のものを選んでいただけるようにがんばっていきたいですね」。
醤油、味噌を作り続けて140年の歴史を持つ『ヤマエ食品工業』では10年ほど前から冷汁の素を製造・販売している。それは、麦味噌にイリコと出汁を入れて練ったもの。家庭では冷水でといて、きゅうりや豆腐などを入れればできあがり。すったゴマや落花生などを入れて味を濃くして食べても美味しいそうだ。
東国原知事の宣伝効果で全国的に広まり、関東圏で需要が多いのだそう。宮崎県内では、宮崎市など沿岸部でよく売れており、山側のほうではあまり食べられていないとのことだ。
アジ、イリコ、カマスがよく使われるが、タイなどを使うことも。焼いてほぐしたあと、味噌と一緒にすり鉢で練る
焼き味噌(冷汁の素)を溶く出汁は昆布、カツオ出汁ベースにする場合が多いが、焼き味噌によっては冷水で溶く場合もある
冷汁に入る具材や薬味としては、キュウリ、豆腐、大葉がよく用いられる。地域ごと、作り手ごとにアレンジが加わることも多い
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