新鮮な身を湯引きして食べる
梅肉とニンニクが香る島原のフグ料理
『龕(がん)』は棺桶などを意味する古くから伝わる言葉。“命を落とすかもしれないが、龕ば(棺桶を)横に置いてでも食べたい”ということから、長崎県島原地区ではトラフグ、ナシフグなど近郊で獲れる様々なフグを総称して、昔から『がんば』と呼んでいる。『がんばの湯引き』はブツ切りやそぎ切りにしたフグの身を湯引きした料理。島原では『てっさ(フグの刺身。“てっ”が鉄砲、“さ”が刺身を表し、フグの毒にあたれば命を落とすことからこの名が生まれた)』よりも湯引きでフグを食べることが多いとのことだ。
皮をはぎ、切った身をさっと湯に通した後、冷水に入れて引き締める。ポン酢をつけて食べるが、薬味に梅肉とニンニクが添えられるのが島原ならでは。ニンニクはすりおろしたものや『フクシュ』と呼ばれるニンニクの葉が添えられることが多い。厚みがあり弾力のあるプリプリとした歯ごたえは、薄造りの刺身とはまた異なるもの。ニンニクの香りと梅肉の酸味が、フグの淡白だが深い味わいを引き立てる。
刺身でも食べられる新鮮な身を、ひと手間かけて生まれる『がんばの湯引き』。新鮮な身をあえて湯引きして食べるという、ぜいたくな一品でもある。
『島原漁業協同組合』を訪ね、総務課長・元田起令(もとだたつのり)さんに島原で獲れるフグについてお話をうかがった。
●『がんば』とは…
「島原では、トラフグ、ナシフグ、コモンフグ、ヒガンフグ、サバフグなど多くの種類のフグが獲れます。これらのフグ類を総称して島原では『がんば』と呼んでいます。湯引きにすることが多いのはナシフグとコモンフグですね。
もちろんトラフグも美味しいのですが、湯引きは必ずしもトラフグを使わなくてもいいようです。このあたりではトラフグのことを『ガンバ』、ナシフグのことを『ナゴヤ』と呼んだりもしますよ」。
●主なフグが獲れる時期について
「トラフグは島原湾の奥で3~5月に産卵しますが、そこで誕生して300gくらいになったトラフグが1〜2月に外海に出ていきます。このフグが網に入ることもありますね。小さいトラフグはさばくと身が真っ白ではなく黒味がかっていますよ。それから3年ほどして外海で成長したトラフグが12~2月に産卵のために帰ってきます。『戻りガンバ』と呼び、重さは1kgぐらい。身も白くなって美味しいですよ!
ナシフグは5月〜8月と11月〜1月に獲れますが、冬のほうが大きいサイズのものが獲れますね。ちなみにナシフグの白子は珍味ですよ。コモンフグは11月〜2月くらいですね。トラフグは昔はたくさん獲れていたのですが、今はかなり減ってしまいました。
そこで、現在はトラフグの陸上養殖も手がけています」。
島原ではその他に、車海老、ガザミ、真ダコ、コウイカ、ヒラメ、真鯛、シタビラメ、メバル、ハモ、アナゴなど多様な魚介が揚がっており、地方発送なども行なっている。
問合せ
■島原漁業協同組合
住所/島原市霊南2-16-21
電話/0957-63-1469
『島原漁業協同組合 陸上養殖場』では海水に満たされた直径8mほどの円形の50トン水槽で、トラフグ、ヒラメ、アワビなどの養殖を行なっている。場長・高木将愛(たかぎまさちか)さんにお話をうかがった。
「1つの水槽の中で約300匹のトラフグを育てています。
トラフグは重さ1kg、体長45cmくらいになるまで約2年かけて育て、出荷しています。陸上養殖のいいところは、常に魚が見えるので個体の健康状況などがわかり、すぐに対処できるということなんです。フグはとてもデリケートな生き物で、水槽のまわりに人が集まることや、しゃべり声をストレスに感じるようです。赤い服を着て近づくと暴れたりするので、目もいいのでしょうね(笑)。
ですから、写真を撮るときもストロボは使えないんですよ」。
フグの皮をはぎ、よく洗って三枚におろした後、一口大のぶつ切りやそぎ切りにしておく
湯引きした後、氷水に入れて身を引き締め、水気を切る。湯引きの時間によって表面の色と歯ごたえが変わる
ポン酢で食べる。薬味にネギ、もみじおろし、梅肉、おろしニンニク、ニンニクの葉などが添えられる
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