ぬか床を加えた煮汁で青魚を煮る…
城下町・小倉に伝わる郷土料理
日本に古来から伝わる発酵食品であり、ビタミンやミネラル等が豊富で、栄養価も高いぬか床。『ぬか床』にキュウリなどの野菜を漬け込んで作る、ぬか漬けに使われることでよく知られるが、福岡県・小倉の郷土料理“ぬか炊き”は、ぬか床を調味料として使う保存食だ。江戸時代の初め、小倉藩主・小笠原忠政公が、前任の信濃国から、ぬか床を持ち込んだことで、ぬか漬け、ぬか炊きが小倉に広まったと言われている。
ぬか床の材料は、米ぬか、昆布出汁、山椒の実、唐辛子など。ゼロから新しく作ることも可能だが、小倉では嫁入り道具として、母から子へ引き継がれ、育てられてきたものも多い。数百年に渡って、材料を追加しながら大切に守られている、ぬか床もあるほどだ。
『ぬか炊き』は、まず、青魚であるイワシやサバをさばき、醤油、みりん、砂糖などを加えた煮汁で煮る。ある程度火が通ったら、ぬか床を入れて、とろ火でコトコトと炊いていく。青魚特有の臭みは抜け、代わりに、ぬか床の旨味が染み込む。その旨味は、ぬか床の材料である、山椒や唐辛子の風味に加え、ぬか漬けを作る度にぬか床に蓄積される野菜のエキスによって生まれるものだ。日々かき混ぜられ、我が子のように育てられているぬか床があってこそ、美味しい『ぬか炊き』が生まれるのだ。
中村学園大学食物栄養学科・松隈紀生(まつくまのりお)教授に、ぬか床の持つ栄養素と、効能についてお話をうかがった。
●ぬか床の効果
1/疲労回復
米ぬかには、ビタミンB1、B2が豊富に含まれています。これが不足すると、だるくなったり、食欲不振になるなど夏バテのような状態になります。ぬか床には、疲労回復の効果があるのです。ちなみに、ビタミンB1、B2は豚肉にも多く含まれます。また、お米も、玄米や七分づきにすると、米ぬかが残っているので、毎日食べると効果がありますね。
2/免疫力を高める効果
ぬか床には、乳酸菌と酵母が大量に含まれており、発酵酵素の宝庫でもあります。乳酸菌の作用で腸の働きがよくなり、微生物が持つ有効成分や発酵の過程で生まれる酵素も加わり、身体の免疫力を高めます。免疫力が高まると、ストレスもたまりにくいし、病気にもなりにくくなります。
3/生活習慣病の予防
ぬか床は食物繊維も豊富で、便通を整えたり、コレステロールや糖質の吸収を遅らせる効果があると言われています、生活習慣病の予防にもなるようです。
このように、ぬか床自体にも素晴らしい効果がありますが、さらに野菜を漬けたぬか漬けだと、野菜に含まれるビタミンAやCも摂取できます。そして、イワシやサバを使った『ぬか炊き』だと、魚に含まれるEPA(エイコサペンタエン酸)などが血液中の悪玉コレステロールを減らしてくれる効果もありますね。
●これからの食に求められるもの
日本人の食べ物に対する欲求の段階として、
1/空腹を満たしたい
2/お腹いっぱい食べたい
3/美味しいものを食べたい
と、進んできました。そして、これからの時代は『食べて健康になろう!』という段階になるかと思われます。美味しいというだけではなく、健康にいいものを食べたいということ、その究極は『不老不死』ということですね。日本人も、そこまで行き着いたわけです。
これまでは食物を、主に“栄養”の面から考えていたのですが、人間の健康を保持するのは“栄養”だけではないのです。そう考えた時に、ぬか床は、免疫力を高め、生活習慣病を予防する、とても素晴らしい食品だということが言えます。
『ぬか炊き』は小倉の郷土料理。郷土料理というのは、気候、風土、食材が重なって生まれるものです。当時、イワシやサバは豊富に獲れていたのでしょうね。そして、美味しさもありますし、人間が生きていくために欠かせないものが詰まっているということで、何百年も伝わっているのでしょう。
基本的な材料は、米ぬか、塩、水、山椒の実、唐辛子、柚子の皮、昆布など。その中で乳酸菌や酵母菌が発酵を続けている。各ぬか床特有の菌も存在する
醤油、酒、砂糖など基本的な調味料は煮付けをする時と変わらない。そこにぬか床が加えられることにより美味となり、保存食にもなる
ある程度炊いた後、ぬか床を入れる。身が柔らかいので、ぬか床を入れた後は弱火でコトコトと炊くが、炊き方にも細かな工夫がされる
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