下味、揚げ方、タレにも一手間…
衣で旨味を包みこんだ鶏肉の天ぷら
『とり天』はその名のとおり“鶏肉の天ぷら”のこと。家庭でも店でも、大分県では広く知られる郷土料理。その起源は昭和30年代と言われ、特に大分市と別府市を中心によく食べられている。弁当屋やスーパーでも普通に取り扱われているほどだ。
骨をはずして1〜2口大に切った鶏肉に醤油やニンニクなどを加えて下味をつけ、衣をつけ、油で揚げればできあがり。一見、単純な料理にも思えるが、味の幅は広い。使う鶏肉の部位や下処理の仕方、下味に使う調味料や漬けこむ時間、サクサクやふんわりといった食感を出すための衣や揚げ方に対する工夫…。天ぷらやから揚げとは違い、衣に卵を多めに使うことが、とり天ならではのふんわり感を出す秘密のようだ。
アツアツの『とり天』は、薬味として添えられている辛子などと一緒に、タレ〜酢醤油、ポン酢、天ツユなど〜につけてからいただくのが一般的な食べ方。このタレにも作り手の創意工夫が込められている。
ジューシーでボリューム感のある料理だが、さっぱりとしたタレの味の力で、最後まで美味しく食べられる。大分特産のカボスが添えられていることも多く、爽やかなカボスの香りも食欲をそそってくれる。
大分県のカボスは、『大分かぼす』というブランド名で全国的にも知られている。その生産は、昭和40年にみかんの価格が大暴落した時から広まった。 現在、年間5000トンほど出荷されており、全国の生産量の98%を占めている。1コ100g程度なので、個数で言えば、年間5000万個ということになる。品種としては、『大分1号』が中心で、他にも『豊のミドリ』や『祖母の香』などがある。
県内では臼杵市、竹田市で特に生産が多い。露地ものは8月中旬から10月いっぱいくらいまで出荷され、その後は貯蔵したものが出荷される。また、春先からはハウス栽培のものも登場する。
酸味が強いイメージがあるが、実はユズ、スダチなどと比べて甘味が高く、酸味、甘味、香りのバランスがいい。ビタミン C、クエン酸も多く含まれている。また、ミネラル分としての塩味がしっかりしていることから、食材に塩を添加する代わりにカボスを添加することで減塩効果も期待される。
カボスのそのような味わいの特徴は料理の味を引き立てるので、様々な料理の“名脇役”として重宝されている。大分では、『とり天』、『ふぐ料理』をはじめ、焼き魚、漬物、みそ汁と、“なんでんかんでん(大分の言葉でなんでもかんでもという意味)”使われているようだ。旬の時期にカボスを大量に絞っておき、製氷皿で凍らせている家庭も多い。
カボスを絞って使う場合、櫛形に切って、果皮の部分を下にして絞るのがコツ。これは香り成分を含む『カボスオイル』が最も表皮に多く含まれているからだ。
大分県臼杵市と宮城県気仙沼市は、毎年9月に東京都目黒区で開催される「目黒のさんま祭り」で、カボスとサンマを通じて友好を深めている。
取材協力/
大分県農林水産部おおいたブランド推進課
胸肉、もも肉、ササミなど家庭ごと、店ごとに様々な部位を使う。ニンニクや醤油などで下味をつけ、適当な時間ねかせておく
衣の材料は冷水、小麦粉、卵。卵の分量を多めにすることで、ふんわり感が出るように揚げるのが『とり天』の特徴だ
酢醤油、カボスを使ったポン酢、天ぷらのツユなどで食べる。いずれもジューシーな鶏肉に合うようにさっぱり目に作られている
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