ゴボウ、大根などの根菜類や特産のシイタケなどの他、椎葉で獲れるイノシシ肉が使われることも多い
具材から出る出汁をベースにして、味噌で味付けされることが多いが、醤油仕立てでも食べられている
具材を煮込んで味付けする。ソバ粉に水を合わせてこね、だんごを作って入れる。ほどよく火を通してできあがり
椎葉村中心地から県道142号線を走ること約40分、右手に苔むす石垣と『民宿 富どの亭』の看板が見える。石段を登ると迎えてくれるのは大きなマエガシの木と椎葉鉱蔵(しいばこうぞう)さん・カエ子さん夫妻の明るい笑顔だ。
「2006年に古民家を改装して宿を始めたんですよ」。建物は椎葉に古くからある伝統的な住居。山深い椎葉の貴重な平地を有効利用するため、部屋が横一列に配置されている。「古い建物だし、何もないですが、都会にはないものを感じていただけるといいですね。まわりは自然いっぱいというか自然しかないし(笑)、自然に溶け込んだ時間を過ごしてください」。
食事は「民宿ならでは、椎葉ならではのものを食べていただきたいですね」と、その季節ならではの食材を使った料理が中心だ。春は山菜〜ユキノシタ、ミツバ、クレソン、ヨモギ、藤の花、柿の葉の新芽〜の天ぷら、夏はヤマメなどの川魚、秋はシイタケなどのキノコ類、冬はイノシシ肉やシカ肉などだ。『わくど汁』は新ソバが出始める11月から冬の時期に作ることが多いとのこと。「私たちは『ソバのだんご汁』と呼ぶことが多いですね。椎葉のソバは美味しくて、新ソバは特に味も香りもいいんですよ!」。カエ子さんに『ソバのだんご汁』作りを見せていただいた。
「材料はゴボウ、大根、ニンジン、コンニャク、厚揚げ、鶏モモ肉など。今日はタケノコが余ったので使います。その時にある材料を入れることも多いですね」。
鍋の中に、材料を入れて煮込む。たっぷりの具材が入り、鍋からあふれそうだ。「たくさん作らないと美味しくならないんですよ(笑)」。
「しばらく煮込んでやわらかくなったら味付けです。鶏モモ肉と野菜からいい出汁が出ますから味付けは薄口醤油だけですね。鶏出汁ベース醤油仕立てなんです。たまに味噌味を作ることもありますが、私は醤油仕立てを作ることが多いですね」。
既に美味しそうな鍋の中にソバのだんごを加える。「ソバ粉を水でこねます。水加減は目分量ですが、いい感じのやわらかさにするためにここが大事なんです(笑)」。
固まってきたらおたまですくって鍋に入れていきます。私はけっこう大きめのだんごにしていますよ。5分くらい煮込めばできあがりですね。器に入れてネギをちらします」。
器についでいただいた『ソバのだんご汁』は具だくさんで、汁に具材が浮かぶというよりも、具材のすき間に汁があるようだ。すべての具材から溶け出した旨味が感じられ、ソバのだんごの甘みはほっとする味わいだ。「具がいっぱい入っているのが田舎料理ですから! 素朴な味ですよね」。
夕食時、食事処にある囲炉裏で鉱蔵さんがヤマメや地鶏を焼いてくれる。竹を半分に割った器には十数種類の料理が盛り付けられている。『ソバのだんご汁』の具材だけではなく、食事全体も盛りだくさんだ。鉱蔵さんがソバの話、椎葉の話を聞かせてくれた。「小さい頃は『ソバのだんご汁』をおやつ代わりに食べたりしていたし、ソバ粉をお湯でねって醤油をかけて食べたりしていましたね。うちのソバは前の畑で作った自家製です。8月中旬頃に植えて収穫は11月、息子がソバ打ちをするので、毎年『ソバ祭り』もやってますよ。ソバは鹿が食べにくるし、収穫が手作業じゃないとできないので大変ですが、椎葉で育ったソバは香りが高く、旨味が強いんです。近くの川ではヤマメが釣れるし、山菜なども豊富。椎葉は豊かな場所だと思うのです。どの食材も力強い味わいがしますね。うちの住所は今は『不土野(ふどの)』ですが、かつては『富土野(ふどの)』だったんですよ。“富”の画数が多いから“不”にしちゃったのかな(笑)」。
ゴボウ、大根、ニンジン、コンニャク、厚揚げ、鶏モモ肉など。その時にある食材が使われることも多い
出汁のベースは鶏モモ肉で、そこに具材の旨みも加わる。基本は薄口醤油を使った醤油仕立て。具材を煮込み、薄口醤油で味付けする
自家製ソバ粉に水を合わせてこね、たまじゃくしで大きめにまとめて加え煮込む
昔ながらの椎葉の民家を改装した趣ある建物であたたかく迎えてくれるのは椎葉鉱蔵さん・カエ子さん夫妻。宿泊すれば囲炉裏で焼かれる地鶏の炭火焼や近くの川で釣ってきたヤマメ、竹を器代わりにした素朴な料理などをゆっくりと食べられる。器からあふれそうなほど具材がたっぷりと入った『わくど汁』は、出汁のベースは鶏モモ肉で、味付けは醤油仕立てだ。