新鮮なかつおを使うことと、重さ5kg以上の大きなかつおを使うことは各店変わらないが、切り身の厚さは異なる
かつおの切り身を漬けるタレが味の決め手。日南ならではの甘口の醤油をベースに、各店が工夫を凝らす。漬け方も様々だ
かつおの切り身がのったごはんにかける出汁は、昆布やかつおをベースにしたもの。その濃さで味わいは変わる
日本有数のかつおやマグロの水揚げ高を誇る油津港(あぶらつこう)。油津港を臨む『魚料理びびんや』には、新鮮なかつおやマグロを使ったメニューが並ぶ。『かつおめし』も新鮮なかつおがあってこそのものだ。
「かつおは鮮度が大事です。うちでは、たいてい、日帰り漁のかつおを使っています。牛肉の等級のようにかつおにもランクがあるんですが、うちのかつおは一番上のランクですよ。『かつおめし』に使うかつおも、刺身にできるかつおと同じものですね。うちで使うのは最低5kg以上、たいてい8kg以上のかつおを使っています。大きいかつおは鮮度が落ちにくいですからね」。
油津の美味しい魚を多くの方に知ってもらいたい、食べてもらいたいという店主・間瀬田尚己さん。店名に使われている『びび』とはこの地方の方言で魚のことだ。
元々は漁師たちが船の上で食べていた『かつおめし』。作り方自体は複雑なものではない。
「『かつおめし』の発祥は、かつお漁師さんが船の上で、刺身ばっかり食べていても飽きるから、漬けにして味を変えて食べていたことだとも聞いていますよ。船の上でも作れる料理だったんですね。「かつおめしとは何ですか?」と尋ねられたら、「かつおの刺身を漬けにしたものをお茶漬け風に食べる料理です」とお答えしますね。晩ごはんに出るときもあったりしますよ。作り方が簡単ですし、かつおを漁師さんからもらうことも多いですから」。
『びびんや』での調理も船の上と同じように、シンプルで早い。しかし、そこには料理屋ならではの細かな工夫もなされている。
「しめてさばいてサクの状態にしておいたかつおを、注文が入ってから切ります。『かつおめし』用のかつおは厚めのそぎ切りです。
切った身は特製のタレにくぐらせる程度で、しっかりと漬けにするわけではありません。濃い目の味のタレにさっとくぐらせると、素早くできますしね」。
特製ダレの詳しい作り方は秘密だが、日南の醤油は欠かせないのだそうだ。
「特製ダレは、日南の甘い醤油がベース。この醤油があればこそできるものですね。漬けには甘めのタレがよく合うんです。このタレはマグロ丼にも使いますよ」。
アツアツのごはんの上に、タレの味が絡んだ切り身をのせ、最後に醤油をかける。
「この醤油はタレとは違って甘くない醤油です。最後に大葉、ゴマ、刻み海苔をのせて出来上がりです。そこに熱い出汁をかけて召し上がってください」。
出汁も『かつおめし』専用だ。
「ベースはかつお出汁で他の料理にも使うのですが、塩加減、味付けが『かつおめし』専用です。例えば、漬けにしたかつおを炙ってから食べる『日南一本釣りかつお炙り重』も最後は出汁をかけて食べていただくのですが、その出汁よりも薄めに作っていますね。家庭ではお茶をかけて食べたりしますが、うちは上品に出汁です(笑)。初めは切り身とごはんをそのまま食べて、そのあと出汁をかけて食べてもおいしいですよ」。
特製ダレと出汁が、かつおの旨味を引き出している。中心部はレアで口の中でとろけるようだ。
「かつおの身を厚く切るのは、熱い出汁をかけても全体に火が通らないようにするためでもあるんです。薄い身だと、すぐに火が通ってしまい身が固くなってしまいます。全体に火が入るとパサパサになってしまって、美味しくないと思うんですよ」。
味も食感も楽しみながら、すいすいとお腹におさまった。
「季節に関係なく、暑い時でもさらっと食べられますし、女性にも人気ですね。特に県外の方がよく食べられますよ。『かつおめし』は、魚の鮮度、タレ、出汁が大切ですね」。
かつおはほぼ一年を通して水揚げされるが、北へ向かう『上りがつお』が獲れる春、南へ向かう『戻りがつお』が獲れる秋は、かつおがより美味しくなるとのこと。
「特に、10月の『戻りがつお』の時が美味しいですね。脂がのっていて甘味があります。さらに、特別に美味しいかつおが手に入ることもあるんです。それは何百本に1本というような割合のもので、切ってみないと分からないんです。そんなかつおも普通にお出ししてますよ。僕らは端っこをつまみ食いさせてもらってます(笑)。『かつおめし』は、私自身、昔はあまり食べていなかったけど、今は好きになりました。飲んだ後の締めに最高ですね」。
しめてさばいてサクの状態にしておいたかつおを、注文が入ってから切る。『かつおめし』用の切り身はそぎ切りで厚めにする
日南の甘い醤油がベース。漬けには甘めのタレがよく合うとのこと。かつおの切り身をこのタレにくぐらせる
ベースはかつお出汁で他の料理にも使うが、塩加減、味付けは『かつおめし』専用。やや薄めの味わいの出汁だ
かつおやマグロをはじめ油津港に揚がる魚を中心に、九州各地の新鮮な魚を味わうことができる。刺身でも食べられるかつおを使った『かつおめし』は、切り身を日南の甘口醤油に漬け込み、ごはんの上にのせて出汁をかけていただく。炙ったかつおの身に、日南の甘口の醤油とダイダイなどの酸味が調和したタレをかけていただく『かつおのタタキ』も美味。