九州の味とともに 秋

この料理の"味のキーワード"

麺

さつまいもを干して粉にしたものとすりおろした山芋やお湯を合わせてこね、『六兵衛おろし』にのせて押し出し、蒸すかゆでる

ツユ

昆布、カツオなどの出汁をベースに醤油で味付けする。麺に甘味があるので、やや濃い味付けにしている

作り方・薬味

温めたツユと麺を合わせて器に盛り、ネギやカマボコをのせてできあがり。柚子こしょうが添えられることが多い

語り 中屋喫茶部 中島ふみえの「六兵衛」

中島ふみえさん

武家屋敷や水路など江戸時代の風情を残す島原城周辺。堀端の『中屋』は文化二年(1805年)から醤油と味噌の醸造を続けている。味噌・醤油や海産物などの販売も手がけ、平成7年には、築100年を超える味噌蔵を改装して飲食スペースの『中屋喫茶部』が生まれた。『ろくべぇうどん(六兵衛)』、『かんざらし』、『いぎりす』など島原の郷土料理を味わうことができる。

喫茶部の店主・中島ふみえさんに『六兵衛』づくりを見せていただいた。
「初めにね、さつまいもの粉にすりおろした山芋を入れてこねるの。水分が足りない時はもう少し山芋を加えたりしてね。あまりかたくてもだめ、やわらかすぎてもだめで、その加減はさわった感触でわかるんですよ。昔は山に山芋を掘りに行ったりもしていましたね」。

さつまいもの粉にすりおろした山芋を合わせる

体重をかけてしっかりこねるという、想像していた以上の力仕事だ。

こねてひとまとめにする。写真の量は5〜6人前

「こねあがったら、まるめて『六兵衛おろし』で押し出していきます。下にはお湯が入った鍋を置いておき、押し出した麺はすぐに熱湯に落としてゆでるんです。『六兵衛おろし』は開いている穴がもっと大きいのもあったりするんですよ。それだと太い麺になりますね」。

特製の『六兵衛おろし』

小さな台の上にあがって生地を押さえる中島さん。この仕事もかなりの力仕事だ。

『六兵衛おろし』で麺を押し出し、熱湯に入れる

「麺はあんまり長くはならないんです。小麦粉を入れれば長くなるんだけど、娘たちが『昔のままのほうがいいよ』と言うので(笑)、ずっと同じやり方です。『六兵衛』は、昔の島原で飢饉があった時に、深江にいた六兵衛さんが考案したものと言われていますが、それと同じ素朴なままです(笑)」。

ゆであがった麺は水にさらし水を切る。

ゆであがったら水にさらす

注文が入ったら、ツユを温め、そこに麺を入れ、角天を切ったものを入れる。

火にかけたツユに角天と麺を入れて温める

「ツユはカツオ出汁に自家製醤油で味付けしたもの。うどんのツユは薄口醤油を使うけど、『六兵衛』は濃口醤油で味付けしています。麺に甘味があるからそれに合わせたツユなんですよ」。

ツユはカツオ節と自家製醤油で作る

丼にうつしてすりごまを入れ、ネギをちらしてできあがり。見た目は濃い色だが、ツユの味はあっさり。麺のほのかな甘味と少しもっちりとした食感も美味だ。添えられるゆず胡椒を入れても美味しい。

丼に入れ、すりゴマとネギをちらす

「初めて見た方は、麺が真っ黒だし、少し心配されるみたいですね(笑)。麺はなんで黒くなるのでしょうね?(笑)。でも、みなさんツユまで全部食べてくださいます。そばと一緒で、できたてが一番美味しいからかもしれません。このやさしい味わいは、私が小さい頃から変わらない、島原に昔からあったそのままの味ですね。県外の方も食べてくださいますし、地元の方も、遠くに住んでいる家族が帰ってきたら、うちに食べに来てくださるんです」。

ツユが美味しいのは、島原の湧水を使っていることも理由の一つだ。
「私は他の街に行くと水が飲めないこともありますね(笑)。島原の水はきれいだし美味しいし、冷たいんです。『かんざらし』も島原の水があるからできるんですよ」。

『かんざらし』とは、白玉粉を使い1つずつ手で丸めてゆでた小さな団子を特製の蜜と一緒に食べる甘味。団子をこねる時に使う水、ゆでる時に使う水、ゆであがった団子をさらす水、蜜に使う水…島原の水があればこそのおやつなのだ。

「ところてんや『かんざらし』は暑い夏、『六兵衛』は小さい頃から寒い時によく食べていました。お昼ごはんとか、おやつとかね。そして、『いぎりす』(いぎす草という海藻を使って作る一見ようかんのような郷土料理)は冠婚葬祭など人が集まる時に食べていましたね」とお話してくださる中島さん。中島さんがひとつずつ手作りする料理からは、素朴であたたかな島原を感じることができる。

この料理人こだわりの「味のキーワード」

麺

さつまいもの粉とすりおろした山芋をこね、『六兵衛おろし』で押し出して熱湯に落としてゆでる。ゆであがったら一度水にさらす

ツユ

ツユはカツオ出汁と自家製醤油で作る。甘味を持つ麺に合うようにするため、濃口醤油を使い、やや濃い味にしている

作り方・薬味

火にかけたツユに天ぷらと麺を入れて温め、丼にうつす。すりゴマとネギをちらしてできあがり。柚子こしょうが付く

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中屋喫茶部築100年の味噌蔵で島原の郷土料理を

醤油・味噌の醸造を始めたのは1805年。築100年を超える味噌蔵を改装した飲食スペースで島原の郷土料理を味わうことができる。自家製の濃口醤油で味付けしたツユの『ろくべぇうどん』は、見た目よりもあっさりとしたやさしい味わい。白玉団子を特製蜜と一緒に食べる『かんざらし』は島原の名水から生まれる人気のメニューだ。

『ろくべぇうどん』500円
『かんざらし』350円。特製の蜜はざらめ、はちみつ、水だけで作ったもの。持ち帰り・宅配用の『冷凍かんざらし』400円もある
磯の香りが広がる『いぎりす』350円。ふぐの身が入った持ち帰り用真空パックは540円
梁や柱にも時の流れを感じる趣ある店内
『中屋海藻部』では、あおさ、ひじきや加工品などを販売。一番人気は『くきわかめしば漬け』430円とのこと

中屋喫茶部

住所 長崎県島原市城内1-1186
電話 0957-62-3675
営業 10:00〜17:00
休み 木曜
20席
カード 不可
駐車場 あり
URL http://www.shimabara.jp/nakaya/index.html
※記載した内容は2014年11月20日現在のものです。
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