九州の味とともに 秋

この料理の"味のキーワード"

具材

角切りにされる具材は、大根、人参、さつまいも、豚肉、マグロなど。最後に、すりおろしたサツマイモを入れる

出汁

昆布出汁、鰹出汁などを使う。煮物料理なので二番出汁を使うことも多いが、一番出汁を使うこともある

味付け

調味料は酒、醤油、ミリンなどとてもシンプル。さつまいもの甘味と、素材そのものが持つ旨味を引き出したいからだ

語り 無量菴 伊良林 銀鍋 高島基晴の「ヒカド」

高島基晴さん

兵庫県出身の料理長・高島基晴さんは、敬愛する坂本龍馬が一番輝いていた時に過ごした街、長崎で仕事をすることを決めていた。
「ここは亀山社中の近くですし、最高ですね(笑)。『ヒカド』に初めて出合った時も、龍馬のことが頭に浮かびました。これが、龍馬が過ごした長崎に伝わっていた南蛮料理なんだと思いましたよ。当時は美味しいというよりも珍しかったですね。今は食材そのものの質も上がっていますから、その時よりもずい分と美味しくなっているのではないでしょうか。コースの中では、付け出しにも出せるし、最後のスープ料理としても出せるし、おもしろい料理ですね。どんなものか知らないお客さんに尋ねられたら、『見た目は珍しいけど、素朴なのっぺ汁みたいなものです』と答えています(笑)」。

料理教室も行なっていて、そこでも『ヒカド』を教えることがあるという高島さん。丁寧にヒカドの作り方を教えてくださった。
まず、最後にすりおろして使うためのサツマイモの皮をむき、アク抜きのために水にさらしておく。

素材はできあがった時に約1cm角の大きさになるように切る

人参、大根、ズッキーニ、シイタケ、豚肉、マグロ、さといもは、約1cm角ほどの角切りにする。
「椎茸、豚肉、マグロは熱を加えると縮むので、少し大きめに切っておきます。できあがった時に、すべての素材が同じ大きさになるようにしないといけませんから。豚肉は脂身を全部取らずに、少し残しておくこともポイントですね」。

豚肉とマグロは切った後、旨味をとじこめるために塩をする

そして、必要な下ごしらえをする。
「後で出汁で煮る時に、出汁がにごらないようにするため大根と人参、ズッキーニは下ゆでしておきます。ゆであがり時間が異なるので別々にゆでて、水でさらしておきます。椎茸は熱湯にさっと通します」。

ニンジン、大根は下ゆでする

豚肉とマグロは野菜よりもさらに下ごしらえに手間がかかる。
「軽く塩をしてしばらく置いておきます。これは塩味をつけるためではなくて、臭みや無駄なものを外に出し、旨味を凝縮するためです。置き過ぎると塩辛くなってしまうので、そうならない前に熱湯にさっと通します。表面が白くなったら氷水で冷やします」。

豚肉とマグロはさっと湯に通して、氷水に入れる

準備ができたら、鍋に出汁を入れ、ズッキーニ以外の具材を入れて煮込んでいく。出汁は昆布と鰹の二番出汁だ。煮込んでいる間にサツマイモをすりおろす。

出汁で具材を煮込む

ある程度煮込んだら、塩、薄口醤油、ミリンを加え、しっかり沸騰させた後、すりおろしたサツマイモを加えて混ぜる。味見しながら味を整える。最後にズッキーニを加え、コショウを入れて完成だ。

すりおろしたサツマイモは最後に入れる

さて、ズッキーニやコショウは一般的な『ヒカド』には使わない素材と調味料だが…。
「私が目指しているのは『新長崎和食』。長崎伝統の手法を守りつつ、現代風にもアレンジしています。和・洋・中が融合した長崎の食に、新たな工夫と提案も行なっているんです。ズッキーニやコショウを入れることで、『ヒカド』の新しい可能性を感じていただければと思っています。トウガンを入れたりもしますよ。手に入る美味しい素材を使わないともったいないですよね」。
ズッキーニの食感もおもしろい。コショウは、サツマイモの甘味が広がる中に、さっぱりとしたキレを与えている。これが高島さんの『ヒカド』なのだ。

新しい味わいに挑戦しつつも、高島さんは長崎の伝統的な味も大切にしている。
「長崎で仕事をしていく以上、長崎の食文化を知り、守ることはとても必要だと思っています。見よう見まねでやるんじゃなくて、しっかりと学び、覚えて、その上で新しいものを考えていかなければならないと常に思っていますよ」。

この料理人こだわりの「味のキーワード」

具材

人参、大根、ズッキーニ、しいたけ、豚肉、マグロ、さといもは、すべて約1cm角ほどの角切りにする。サツマイモはすりおろして使う

出汁

昆布と鰹の出汁。ヒカドは煮込み料理なので、使うのは昆布と鰹の旨味をしっかりと引き出した二番出汁だ

味付け

塩、薄口醤油、ミリンで味付けする。最後にコショウをふりかけ、サツマイモの甘味の中にキレを与えるのがこちらの特徴

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無量菴 伊良林 銀鍋 坂本龍馬が闊歩した町に立つ隠れ家

亀山社中の近くにある建物は、古い街並みの奥にひっそりと佇む。どの部屋からも美しい庭を望める趣のある空間でいただけるのは“新長崎和食”。和・洋・中が融合した長崎の伝統的な食に、料理長・高島基晴さんが新たな工夫と提案を行なっている。『ヒカド』も、具材にズッキーニやトウガンを使ったり、コショウを効かせたりと、他とは違う味だ。

『ヒカド』は1人前500円(写真は4人前)。ズッキーニの緑色も鮮やかだ
築70年の民家を改装。個室は6室、2階は広間だ

無量菴 伊良林 銀鍋

住所 長崎市伊良林1-2-3
電話 095-822-4615
営業 11:30~14:00(ティータイム~15:00)/
17:00~22:00(バータイム~23:00)
休み 火曜
60席
カード
駐車場 なし
URL http://www.ginnabe.com/
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