アジ、サバ、エソなどの魚のすり身に豆腐が入るのが基本的な『つけあげ』の材料。ゴボウ、人参などの野菜を入れるものもある
串木野の『つけあげ』には『地酒』と呼ばれる独特の香りと甘味をもった酒が入る。その他に、塩、砂糖、醤油、ミリンなどが加わる
『つけあげ』に使う油は菜種油。中はふんわりと外はこんがりと揚がるように、温度を変えて2度揚げることも多い
「エソ、アジ…季節によっても異なりますし、使う魚は数えきれないですね。串木野は港町、魚あっての『つけあげ』ですから、私たちは地場産業に寄りそって、獲れる魚を無駄なく使っていかなければと思っています」。
日高水産加工の社長・久木山睦男さんが案内してくれたのは、港に近い加工場。ウルメイワシ、アジ、サバなどトロ箱に入った魚に加えて、作業台の上にはサメの切り身も置かれていた。
「ここは昭和23年にうちの前身となる会社が創業した時の始まりの場所です。今、ここでは、魚の頭と内蔵を落として、水にさらして脱水するまでという、すり身の元を作るまでの工程を行なっています」。
続いて工場へ。さきほどのすり身の元が石臼でこねられ、地酒、豆腐、砂糖、甘酒などの調味料が加えられていく。
「石臼でゆっくり練り上げていくと、粘りとか食感がよくなりますね。豆腐の粒も完全につぶしてしまうのではなく、ほのかに粒が残る程度にすることができますから。地酒は清酒と違って、砂糖の甘味ではない独特の甘味があります。さらに甘酒も加えていますが、甘い『つけあげ』が、この地方で好まれる味です。琉球から伝わったとも、島津斉彬公が作らせたとも言われていますが、“甘い”というのは薩摩藩のおもてなし文化です。“あなたのために貴重な砂糖をふんだんに使っていますよ”ということですね。それから、暑い鹿児島で日持ちさせるために、砂糖を多く入れて保存食にしたということもあるでしょう」。
成形して揚げる作業は自動化も進んでいるが、量の少ないものや試作品は手作りだ。
木枠を使って成形されたすり身が揚げられていく。
「小判型が多いのは、丸くだんごにしてつぶせばその形にできるからでしょうね。150度くらいの油で10分ほどかけて揚げます。糖分が多いので表面はこんがりとした色になりますが、中はソフトでやわらかなのが『つけあげ』です。それにはすり身の鮮度が大切ですね。時間が経ったものを揚げても、身がぽろぽろになってしまいふっくらとなりません」。
久木山さんは今、50年後、100年後を見据えての『つけあげ』作りを考えている。
「あまりにも機械化されると、基本を忘れてしまいます。今のことだけを伝えても、それは引き継ぎだけで、次の世代には“過程”しか残らない。先人たちはどうやって作っていたのか、原点とは何なのか。大量に作ることだけではなく、基本に立ち戻ることがとても重要だと考えています。かつて、『つけあげ』は家々で手作りされていたものです。その時どうだったのかということですね。すると、昔使っていて、今使っていない魚もあったりします。今は捨てているものも食べられるはず、食べていたはず。じゃあ、どうすれば使えるようになるのか。例えばサメは匂いもするし使いにくい魚なのですが、工夫すればちゃんと食べられる。地元のものをできるだけ捨てずにしっかり使っていきたいですね。そうすることによって地場の一次産業もさかえるわけですから。先人たちが考えたものを、既に60年以上は守ってきました。地域の中にある『つけあげ』をこれからも守って伝えていかなければならないと思っています。1000枚を作れる工場というよりも、1枚をどう作るかがわかる工場になりたいですね」。
年に1回、夏休み期間中に、子どもたちを集めて『つけあげ』を作るイベントも開催。地引網で魚を取り、魚をさばいてすり身にして揚げる。自分で作り上げなければ食べられないという内容だ。スタッフ総出で行なうこのイベントは、子どもたちのためでもあり、スタッフみんなのためでもある。
「基本の『つけあげ』は甘めで焼酎がよく合いますね。オヤツにもなるし、ごはんのおかずにもなるし焼酎の肴にもなる。生で食べることが一番ですが、豚汁に入れたり、ちらし寿司にしても美味しい。『つけあげ』とたくあんの巻き寿司も美味しいですよ。もっと食べていただきたいし、子どもたちが食べてくれるもの、女性が喜ぶものも作っていかないといけないですね」。
竹炭入り、ヨモギ入り、シソ&チーズ…。具材が変わればすり身に味をつけた『つけあげ』の生地も変わる。味を作る職人さんは5人いて、生地の種類は60種類以上あるのだそうだ。
2011年10月に発売の商品が『鹿児島の漁師揚げ』。『つけあげ』の生地の中に、肉を煮付けたような味わいのものや、コリコリとした不思議な食感のものが入っている。
「サメの血合いの部分に味付けしたものと、サメのスジの酢の物です。捨ててしまう部分をなんとかできないかと考えたんです。新商品ですが、原点に戻っていろんなことをやるからできた味ですね」。
これからどんな新しい『つけあげ』が生まれるのかも楽しみだ。
ウルメイワシ、アジ、サバなど一般的な魚に加えて、扱うのが面倒なサメも一緒に使ったりする。できるだけ使い切るのが信条
すり身に地酒、豆腐、砂糖、甘酒などが加えられる。甘酒が入ることにより、より味わい深い甘味が生まれる
150度くらいの油で10分ほどかけて揚げる。糖分が多いので表面はこんがりとした色に、中はソフトでやわらかになる
原点に立ち返ろうという想いの元、地元の魚をできるだけ使った『つけあげ』を提供している。すり身に甘酒も加えて作る生地を使ったスタンダードな『つけあげ』はふんわりと甘い。子どもや女性向けにと、竹炭入り、シソ&チーズといった新しい試みもおこたらない。入れる具材毎に最適な生地があるということで、生地は60種類を超えている。工場見学も可能(要問合せ)。
住所 | いちき串木野市西薩町17-14 |
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電話 | 0996-32-9421 |
営業 | 8:30~17:30 |
休み | なし ※元旦のみ休み |
カード | 可 |
駐車場 | あり |
URL | http://www.hidakasuisan.co.jp/factory.html |