九州の味とともに 秋

この料理の"味のキーワード"

ごんぐりの下ごしらえ

生、もしくは解凍したごんぐりをよく洗い、サツマイモと一緒にゆでてやわらかくした後、食べやすい大きさに切る

野菜

タマネギを入れることが多いが、ネギ、ニンジン、ショウガ、ニラなど各家庭ごとに使う材料には違いがあるようだ

味付けと煮込み方

酒、砂糖、日南で好まれる甘めの醤油などで甘辛く煮込む。味噌を入れる家もあったり、甘さの違いがあったり家ごとに千差万別

語り 田原満智子の「ごんぐり煮」

田原満智子さん

「私は宮崎県西都市から日南にお嫁に来たんですが、初めて『ごんぐり煮』を見た時は『何コレ?』って感じでしたね。料理屋さんの小鉢などにもよく出てくるんだけど、何でこんな不思議なもの食べるんだろうとも思いましたよ」。
フランス料理店や中華料理店で働いていた田原満智子さんは、一日台所に立っているのも平気なほど料理が好きな方。この界隈で行なわれる集まりごとなどのために、料理を作ることもあるのだそう。今では『ごんぐり煮』もレパートリーの一つだ。
「焼酎の肴にはもちろん、白いごはんにのせて食べても美味しい料理ですよ!!」。

「下ゆでする時に少しコツがあるけど、下ゆでして、切って煮るだけの料理なのよ(笑)」と田原さんが言う『ごんぐり煮』。そのコツとは…。
「生のごんぐりを下ゆでする時に、皮つきで乱切りしたサツマイモを一緒にゆでることなんです。サツマイモを入れて下ゆでしても、入れずに下ゆでしても見た目は変わらないんだけど、入れないとやわらかくならないんです。初めは知らなくて、サツマイモを入れずにゆでたらガチガチでゴムみたいに固くなって、とても食べられないものを作ってしまいました(笑)。それから、下ゆでする時、すごい生臭い匂いがするんだけど、サツマイモはごんぐりからその生臭い匂いも取ってくれるんですよ。だから、ゆで終わった後のサツマイモは苦いし臭くなってて食べられないですね」。

まず、ショウガ、ネギとニラの根元の部分を炒める

下ゆでしてやわらかくなったごんぐりを適当な大きさに切ったら、次に味付け。油をひいて、ショウガの千切り、ネギの白い部分、ニラの根元の固い部分を炒める。そこにごんぐりも入れて炒め、砂糖、顆粒出汁、酒、醤油を入れる。醤油は砂糖と同量程度。水を少し入れて弱火で20~30分煮込む。火を止める直前にネギと、ニラのやわらかい部分を入れて完成だ。

砂糖、顆粒出汁、酒、醤油という順番で味付けしていく

「味付けは砂糖と醤油で甘辛くが基本ですね。醤油はマルヤス醤油の濃口さしみ醤油を使っています。ごんぐり以外にはタマネギを入れる人が多いですね。あと、ニンジンや椎茸もよく入っているかな。けれど、私はネギ、ニラ、ショウガの千切りを入れてますね。私は自分流でやってます!! 焼肉のタレで味付けても美味しいですよ。唐揚げや酢の物にしてもいいですね」。

煮詰めればできあがり

昔から続く基本的な作り方は同じだが、材料を工夫したり、自分の好みの味をつくり、それを次の世代へと引き継いでいく、それが家庭料理というものなのだろう。ショウガの風味が効き、さっぱりと甘辛い『ごんぐり煮』は、“田原家のごんぐり煮”なのだ。

整理されすっきりとした田原さんのキッチン

「友人のだんなさんが漁師をしていたこともあり、昔はよくバケツに一杯入った生のごんぐりをもらっていました。このあたりには多い時には200隻ものマグロ船があったようで、船が帰ってくるたびにもらって、もらっては作って食べてました。下ゆでするのにも、昔は寸胴鍋でやってましたから。ゆでた時、すごい異様な匂いがしてその匂いが近所に漂うんです。その匂いでご近所さんは『ごんぐり煮作ってるな』とわかるし、そうなると、おすそわけせんといかんくなりますよね(笑)。おすそわけしたら、またそのお返しをいただいて…という繰り返し(笑)。私は生の『ごんぐり』をもらうことが多かったですね。料理を作ってくれということだったのかもしれません。昔は人が集まった時に大皿でよく食べていました。家で作ってみんなで食べていましたが、今はそういう機会も減りましたね。ごんぐりをもらうことも大量に作ることも減ってしまいました」。
とは言え、田原さんのお子さんは、『ごんぐり煮』がとても好きなのだそう。

『ごんぐり煮』と『ごんぐりの唐揚げ』。甘辛くて焼酎の肴にぴったり

「実家を離れていますが、帰る時には必ず『ごんぐり炊いといて』と連絡があるんですよ」。
『ごんぐり煮』は、日南の郷土料理でもあるが、誰にとっても大切な家庭料理でもあるのだ。

この料理人こだわりの「味のキーワード」

ごんぐりの下ごしらえ

ごんぐりを、皮つきで乱切りしたサツマイモと一緒にゆでる。やわらかくなり生臭さも取れたごんぐりを、食べやすい大きさに切っておく

野菜

ネギ、ニラ、ショウガを使う。ネギとニラは、根元の固い部分を先に炒めるため、やわらかい葉の部分とは分けておく。美味しさへの一手間だ

味付けと煮込み方

ショウガ、ネギとニラの根元部分を炒めた後、砂糖、顆粒出汁、酒、醤油の順に入れて味付けする。最後にネギとニラのやわらかい部分を入れる

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