さつまいもを干して粉にしたものとすりおろした山芋やお湯を合わせてこね、『六兵衛おろし』にのせて押し出し、蒸すかゆでる
昆布、カツオなどの出汁をベースに醤油で味付けする。麺に甘味があるので、やや濃い味付けにしている
温めたツユと麺を合わせて器に盛り、ネギやカマボコをのせてできあがり。柚子こしょうが添えられることが多い
1972年創業でその名も『六兵衛』。店主・山村忠男さんのお母様が六兵衛専門店として始めたお店だ。現在は居酒屋メニューも提供しているが、素朴な『ろくべ(六兵衛)』の味わいは今も受け継がれている。
「昔、島原にいた六兵衛さんが飢饉の折に考えたから『六兵衛』という名前になったと言われてます。歴史は古いですよ。島原半島の北部は土地が肥えていて作物が豊富にできましたが、南部はなんでもつくれるというわけではなく、さつまいもを育てていたから生まれた料理なのでしょうね。私の小さい頃はおやつとして食べることもありました。元々は非常食でしたが、主食で食べるようにもなったのです。字で書くと『六兵衛』だけど、言葉で言う時はみんな『ろくべ』と呼んでいますね(笑)」。メニューにも『ろくべ』と書かれていた。
まず、麺についてお話をうかがった。
「さつまいもを干して皮ごとすりおろした、さつまいも100%の粉を熱湯で練り、さらにすりおろした山芋を入れて練ったものをまるめます。初めに練る時に熱湯を使うと、粘りが出るんですよ。さつまいもの粉だけだとちょっとぼそぼそしますから、昔はもっとぼそぼそした麺だったかもしれません。さつまいもも昔に比べればずい分と美味しくなっていますから、『六兵衛』も美味しくなっているのではないでしょうか」。
まるめられたものは、穴の開いた鉄板が付いた、大根おろし器を大きくしたような『六兵衛おろし』にのせられる。
「『六兵衛おろし』は昔はどこの金物屋でも売っていましたが、今は家ではあまり『六兵衛』を作らないので店では見かけなくなりました。自分で作ったりもしますが、今使っているのは特別につくってもらったものです。まるめた生地を上から押さえて穴から押し出します。コシがないので伸ばして切ることはできないんですよ。細いのや太いの、短いのや長いのがありますが、うちのは箸でも食べられるように多少長めになるようにしています」。
押し出した麺はせいろに入れて蒸し上げる。
「熱を加えると黒くなっていきますね。押し出した麺をすぐにゆでるという方法もありますよ。ゆでると表面がなめらかになるようですね」。
せいろのまわりには甘い香りが漂う。蒸し上がってすぐの麺を食べさせていただいたが、ほんのり甘くてさつまいもの香りがしてこれだけでも美味しい。
「置いておくと、子どもがこれだけをパクパク食べちゃうんですよ(笑)」と3代目の雅人さん。
蒸しあがった麺は水洗いして水気を切っておく。
カマボコとチクワをのせ、ネギをちらしてできあがりだ。
「昆布とカツオ節でとった出汁に、塩と薄口醤油で味付けしています。麺から甘味が出て、ツユが甘くなるので、少し塩味の効いたツユにしておくと美味しいですね。初めはそのまま食べていただいて、後で柚子こしょうを入れて食べてみてください」。
先ほど感じた麺の甘味とツユの塩味がからみあったやさしい味わい。柚子こしょうを入れると違った風味も楽しめる。ツユの旨さは島原の水に起因している部分もあるようだ。
「島原の水は美味しいので、煮物やツユがとても美味しくなるんですよ。ちなみに、島原の水でつくる素麺やちゃんぽん麺はコシが強くなるようです」。
最後は、麺をかきこむようにしてツユまですべて食べた。
「太くて短い麺もあるから最後は口の中に流し込んだりもするのですが、プルンとした喉越しですから喉につかえたりしないですね。添加物は入っていませんし、栄養もあるし、消化もいいし、食物繊維も豊富ですし、すばらしい郷土料理です。見た目は地味ですが(笑)、島原でも見直されてきました。離乳食にも使われていますし、うちの麺を老人ホームにおろしたりもしていますよ。島原では小学校の給食にも出るようになりましたね。うちでは、飲んだ後の締めに食べられる方が多いです。麺だけも売りますから、家に帰って締める人もいます(笑)」。
こちらでは、『六兵衛』の麺と同じ生地を使った『ろくべ万十』も製造・販売している。
「昔は、『にぎりだご』といって、そばがきのようなものがあったんです。あんこなどは入ってないし、それほど美味しくはなかったと思います。今は黒あんや芋あんを中に入れてますから美味しいですよ!!」。
さつまいもを干して作る粉にすりおろした山芋を加えてこね『六兵衛おろし』で押し出す。その後、蒸して水洗いしておく
昆布とカツオの出汁に塩と薄口醤油を加えて味付けする。麺から甘味が出るということで、塩分がやや多めのツユだ
ツユを丼にいれ、温めた麺を入れる。カマボコとチクワをのせてネギをちらしてできあがり。添えられる柚子こしょうを加えても美味
現在は居酒屋メニューも提供しているが、1972年に『六兵衛』専門店として創業した時以来の昔ながらの味わいを守っている。箸でも食べやすいようにとやや長めにした麺の甘味が、昆布とカツオの出汁がベースのツユに染みだし最後まで美味。中に黒あんやいもあんが入り、麺と同じ生地で作られた蒸し万十も素朴な味わいだ。