九州の味とともに 秋

この料理の"味のキーワード"

具材

基本となるのは細く切ったサツマイモ。カボチャ、ニンジン、タマネギが使われることも多い。季節の野菜や山菜が入ることもある

衣と味付け

衣は小麦粉と水がベース。ただし天ぷらとは違い醤油、砂糖などで衣に味付けをする。甘いものも、やや塩辛いものもある

揚げ方

具材と衣をしっかりと混ぜ合わせた後、油で揚げる。表面はカリッと、中はふんわりとした食感に揚げることがポイントだ

語り がまこう庵 蒲生純の「がね」

蒲生純さん

『がまこう庵』は鹿児島県との県境近くの緑に囲まれた場所にある。オープンは1972年、都城市庄内町産のそばを食べられるそば屋さんだ。そばは開店当初より手刈り、自然乾燥、石臼製粉という昔ながらの手法。揚げ方とともに“自然を生かし、自然に生かされて”という先代の想いを引き継いでいるのは二代目・蒲生純さんと奥様の結香さんだ。

「霧島盆地は寒暖の差が大きくそば作りに適した場所で、庄内町では昔からとてもおいしいそばが作られています。地元の方が、自分たちが食べる分だけを作っていたのですが、それだけではもったいないですよね。そこで山から湧き出る水もきれいなこの地で、両親がそば屋を始めたのです。両親がしっかりした土台を作ってくれたので、これから私たちは庄内そばの知名度をより広めていくことをやらなければと思っています。そばを使った加工品なども広めていきたいですね」。

こちらのメニューにはうどん・そば屋さんでよく見る『えび天』がない。
「うちは普通の天ぷらは作っていませんので、えび天などないんですよ。でも、『がね』があります!! 都城ならではのものですから!!」。
『がね』作りを見せていただいた。
「使う野菜としてサツマイモは絶対に必要で、うちではそれにニンジン、タマネギを加えたものがベースです。あとはこの近くで採れるものを加えています。今日は今朝採ってきた大名竹ですね。大名竹は竹の仲間としては一番最後の時期に出てくるもので、今の時期のもの(7月中旬)は、アク抜きをしなくても食べられるんですよ」。

それぞれ千切りにされた野菜をボウルに入れる。
「両親が育てている野菜をはじめ、材料はすべて作っている人の顔がわかる安全なものです。だからできるだけ捨てないで使っています。サツマイモも皮ごと使用していますしね」。

具材をボウルに入れ、洗双糖を合わせる

そこに洗双糖 (ろ過したサトウキビの絞り汁を煮詰めてつくる砂糖) 、すりおろした山芋、かくし味の小エビが加えられる。

山芋をすりおろす

「さらに、そばに使うつゆを入れます。つゆのベースとなる出汁はカツオブシ、イリコ、シイタケ、昆布からとっています。ちなみに、出汁に使うカツオブシも佃煮にしたりと無駄にしないようにしていますよ」。
少し混ぜ合わせた後、小麦粉を入れ、水を加えて水分量を調整する。

そばつゆを入れる

「ふっくらと仕上がるように全体的にゆるめですね。」

小麦粉を加えてよく混ぜ合わせる

「山芋を入れるのもふわふわにするためです。やわらかくてはしには取れませんから、一度しゃもじの上にのせて油の中に落としていきます。」

しゃもじにのせて形を整える

「油は菜種油。初めは160度くらいのやや低めの温度でゆっくりと揚げ、最後に少し火を強めて表面をカリッとさせてできあがりです。『がね』はこの地方の言葉でカニの意味ですが、千切りの野菜が揚がると、カニの足に似ていますね」。

一つずつ油の中に入れていく

温かいそばの上にのった『がね』は、カリッとしてふわっとした食感、つゆが少し染み込み、サツマイモのやわらかな甘味が引き立つ。
「うちの『がね』はそばに合うように作ったものですが、ごはんのおかずになるような『がね』や、おやつになるような『がね』などいろんなものがありますね。材料も、冷蔵庫の残り物を入れたりするので、水菜、ピーマン、ナス…いろいろです。そして、同じ材料でも、作る人によって、味も形も違います。『がね』は母親の味、伝えられ伝えていく味だと思います。昔からこの地方では、人が集まる時には、五目寿司、煮しめ、『がね』は欠かせないものなのです。そんな時に大皿に盛られる『がね』は、手づかみで食べるイメージですね(笑)。おしゃれなものではないけどみんなが好きな味です」。

地産地消、身土不二(しんどふじ)を信条とする蒲生さん。その想いは『がね』にも込められている。
「『がね』にはこのあたりで“今”採れるものを必ず入れています。今日は大名竹でしたが、シイタケを入れたりセリを入れたり…。『がね』で季節を感じていただければと思っています。そんな季節のものも含め、うちの『がね』に使う野菜はどれも地元産です。そばも地元庄内町産。『がね』は都城を代表する郷土料理でもありますから、『がね』がのったそばは、都城が詰まった一杯なんです。都城を感じていただけるとうれしいですね」。

都城は豊かな自然と温かな人たちに恵まれた場所であることがわかる。

この料理人こだわりの「味のキーワード」

具材

サツマイモを中心にニンジン、タマネギの千切りがベース。その他、タケノコ、セリなど店の近くで自然に育つものも加える

衣と味付け

衣は、洗双糖、すりおろした山芋、かくし味の小エビ、さらにそばに使うつゆで作られる。ふわりとした食感にするため全体にゆるめだ

揚げ方

しゃもじにのせて形づくる。初めは油温160度くらいで揚げ、最後に油温を高めて表面をカリっとさせる

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がまこう庵地産地消、身土不二(しんどふじ)が信条のそば屋

都城市庄内町産のそばを手刈り、自然乾燥、石臼挽きといった昔ながらの方法で作り上げた生そばを食べられる。南九州ならではの、茹でおきの太くて素朴な田舎そばもある。『がね』に使われる野菜もすべて地元産で、季節の彩りとして、店のまわりで自然に育っているタケノコや山菜なども使う。そば粉を使ったお菓子や梅干しなどの手作り加工品も製造・販売。

上品な味わいを持つ『がね』。
かけそばとざるそばを両方味わえる『二味そば』1080円。かけそばの上に『がね』がのる。『がね』は『長寿そば』756円、『やまかけそば』702円などの上にものっている
店内にエアコンはないが、窓の外側にあるシートに上から冷たい湧き水を流すことで、天然の涼を得ている
緑に囲まれた静かな場所だ

がまこう庵

住所 宮崎県都城市吉之元町5186
電話 0986-33-1226
営業 10:00〜17:00
休み 火曜、第1水曜 ※祝日の場合は営業
40席
カード 不可
駐車場 あり
URL http://www.gamakoan.jp/
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