九州の味とともに 秋

この料理の"味のキーワード"

下ごしらえ

締めて、3枚におろした後、食べにくくならないように小骨の処理をする。表面のヌメリの取り方をはじめ、その方法は様々だ

刺身(薄造り)

骨のない部位を使ったり、骨をうまく処理したりと、プリプリとした歯応えのある食感を最大限に引き出したりと、料理人の腕の見せ所

自慢料理

皮や、皮と身の間のゼラチン質までも美味しく食べさせる料理を各店が工夫し、自慢のウツボ料理を提供している

語り 旬彩料理 しん 藤江信一郎の「キダコ料理」

藤江信一郎さん

店に入ると壁に飾られたかわいいイラストが目に入る。
「友人のイラストレーターがウツボを描いてくれたものなんです」。

店の壁に貼られたウツボのイラスト

店主・藤江信一郎さんはお店を始めてしばらく経った時に初めて『ウツボ料理(キダコ料理)』を食べ、美味しさと素材の持つ可能性を感じたのだという。
「ウツボは天草の料理ですが、初めて食べた時に感動しましたね。さばくのに手間がかかりますが、美味しさを知ってもらいたいし広めたいと思いました。だから、うちの店の一押し、看板メニューにしたんですよ。薄造り、照り焼き、塩焼き、唐揚げ、タタキなど、素材を見てメニューに出すウツボ料理を考えていきました。私の信条は、“旬にこだわった厳選の素材を活かしつつ、ただただ真面目に素朴に仕込むこと”。ウツボ料理も同じですね。市場にはあまり出回らない魚なので、漁師さんから直接届けてもらっています」。

届いたウツボを締め、さばくのだが、普通の魚の3倍くらいの時間と手間がかかるとのこと。
「まず、表面のぬめりを塩と水を使い、たわしでこすってとります。締める時は、獰猛(どうもう)なので危ないですね。手をかまれたこともありますよ。ただ、顔は怖いけど目玉はかわいいんです(笑)。生きている時の姿は不気味ですが、『どんな魚ですか?』と尋ねられれば、『淡白な味の白身魚で美味しいですよ』とお答えしています(笑)。生きている時はさわるとプヨプヨで、できればさわりたくない感触です。このプヨプヨは身と皮の間にあるコラーゲンたっぷりのゼラチン質ですね。そして、骨も多いので、さばくのも大変です。骨切りをするハモより面倒ではないでしょうか。ウツボの部位によって、何の料理に使うか使い分けています。サイズによっても変わってきますが、料理するには太いウツボがいいですね」。

この薄さがプロの技だ

主に尾に近い部位からつくる薄造りが藤江さん一番のおすすめ。
「皮をはいだ後、身と皮の間に入っている骨を処理するのが美味しさの秘訣ですね。身は透き通るようにきれいで、プリプリとした歯応えもあって、ふぐ刺しのようです。これだけ薄く切ってもしっかりとした歯応えがあるので、1枚ずつ味わってください」。

ポン酢と白髪ネギと一緒に食べれば身の上品な甘みも口に広がる、皿に添えられているゆでた皮と一緒にいただくのも美味しい。

唐揚げの調味液の材料は醤油、赤ワイン、ニンニクなど

身だけをいただく薄造りとは違い、唐揚げは皮付きのまま料理する。
「皮付きのかたまりを適当な大きさに切って、醤油、赤ワイン、ニンニクなどを合わせたものの中に漬け込んでしばらくおきます。それに米粉をまぶして揚げますが、揚げすぎるとジューシーさがなくなるので注意が必要です。紫イモの粉末も入った塩と一緒にどうぞ!! 皮付きですが骨はすべて抜いていますので食べやすいと思います。骨抜きの方法は秘密ですが、一人でやる地道な作業ですね(笑)」。

唐揚げは火を通し過ぎないようにカラッと揚げる

カリッとした衣と、身と皮の間にあるプルプルモチモチしたゼラチン質の食感の違いもおもしろい。大根おろしと本わさびでいただく『ウツボの塩焼き』、ウツボを卵とじにした『ウツボの柳川風』も旨い。

ウツボの薄造り

「ウツボはコラーゲンたっぷりで肌の老化防止に効果があります。それにタンパク質、カルシウム、鉄分などが豊富で昔から滋養強壮の食べ物でもあったようです。天草の女性は、赤ちゃんができたらウツボを食べる習慣もあったようですよ」。

ウツボの唐揚げ

現在、ウツボ料理を出す店は熊本市内にはほとんどない。「もっとがんばらないといけないと思っています。今も研究中なんですよ。ウツボを使った新しい料理ができないかなと思っていますし、和の料理にこだわらずに使ってみたい食材ですね。ウツボ料理は、手間がかかっても、たとえかまれて血まみれになっても(笑)、作り続けていきたい料理です」。

この料理人こだわりの「味のキーワード」

下ごしらえ

生きた状態で届いたウツボを締め、さばく。表面のヌメリは塩と水を使いたわしでこすって取り除く。下ごしらえには普通の魚の約3倍の時間をかける

刺身(薄造り)

主に尾に近い部位からつくる。皮をはいだ後、身と皮の間に入っている骨を処理するのが美味しさの秘訣とのこと。透き通るように薄く切っていく

自慢料理

唐揚げは、一口大に切った皮付きのぶつ切りを調味液に漬け、米粉をまぶして揚げる。手間をかけ骨をすべて抜いているため、とても食べやすい

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旬彩料理 しん 店主もほれこんだウツボ料理が看板メニュー

「旬にこだわった厳選素材を活かしつつ、ただただ真面目に素朴に仕込むこと」を心がける店主・藤江信一郎さんが一人で切り盛りする和食店。旬の魚介類や野菜を使った料理はもちろん、熊本ならではの馬肉や、熊本県菊池市のブランド豚『七城SPFポーク』を使った料理も人気の品だ。藤江さんがその味にほれこんでメニューに加えたという『ウツボ料理』も味わいたい。

『うつぼ薄造り』1人前950円(写真は1.5人前1500円)と『ウツボの唐揚げ』700円。ウツボを使ったメニューには、『ウツボの柳川風』 750円、『ウツボの塩焼き』950円などもある
カウンター席を2つの空間に分けるように、中央に大きな木のオブジェがある

旬彩料理 しん

住所 熊本市下通1-2-8 第三森山ビルBF
電話 096-379-6466
営業 17:00~翌1:00
休み 不定
30席
カード 不可
駐車場 30台
URL http://shunsai-shin.com
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