海の上に張りだしている『呼子・加部島　海上レストラン　歳香亭』。地元出身で40年振りに呼子に帰ってきたという世戸正己さんが、2011年5月に開店した。

「呼子のイカは、手でさわっても弾力がありますね。活き造りにすると身は透明でプリプリ。とても新鮮だからです。それに、陸地の輸送をしないわけですから、傷もつかないので見かけも良くて、よりおいしそうに見えますね。私たちも漁師さんから直接買って、すぐに生簀に放します。その生簀には、モーターで目の前の海の水を引き入れているんですよ。それでもイカは何日も生きているわけではありません。だから、考えながら仕入れるイカの数を決めているんです。獲ったイカは、できるだけ早く食べていただくのが一番です。イカは一年中食べていただけますが、種類が変わります。ケンサキイカが中心ですが、12月〜2月はミズイカも多くなってきます。ミズイカはずんぐりむっくりとしたイカですね。どちらも新鮮ですから美味しいですよ」。

生簀から皿に盛りつけられるまでも早い。
「透明な身を食べていただくために、イカの活き造りはスピード勝負ですね。あらかじめ、皿に砕いた氷をひいたり薬味をのせたりして盛り付けの準備をしておいてから、生簀からイカを揚げて締めてさばきます。生簀からあげて、皿に盛るまで2〜3分くらいでしょうか」。

その早業を見せていただいた。
「イカのみみの裏を切って、内臓と骨を出してきれいに洗います。この時、海からひいている海水で洗うんですよ。水道水を使うと身が真っ白になってしまうんです。鮮度と合わせて、海水で洗うことも、呼子のイカの活き造りが透明な理由ですね。

洗った身に切れ目を入れ、さらに切れ目と直角方向に細く切っていきます。そして、切れ目が入った方を上にして、立体的に盛りつけるんです」。

皿に盛られた透明なイカの活き造りは、特製の醤油をつけていただく。
「地場の醤油をベースに、昆布やカツオの出汁も加えた土佐醤油です。通常はやや辛めに作っていますが、甘めのものも用意していますよ」。

出汁の効いた特製醤油がイカの甘味と絡みあう。同時に感じるコリコリとした食感は、通常のイカの刺身とは明らかに違うものだ。ゲソの部分は天ぷらか塩焼きか煮付けにしていただくことができ、どれも美味だ。

世戸さんは活き造りと合わせて、『イカそうめん』もすすめてくださった。
「実は、イカは細く切ったほうが旨味が出て美味しいんですよ。活き造りの場合はあまり細く切りすぎるとイカの姿にならないので、イカの形に見せられる限界まで細く切っています。だから、うちのは細めだと思いますよ。ぜひイカの身を細く切った『イカそうめん』も召し上がってください。活き造りとはまた違うイカの持ち味が出ていると思います」。

『イカそうめん』は特製のつゆでいただく。石川県で作られている『いしり』というイカの魚醤を使ったつゆで、つゆからもイカの風味が漂う。

窓の外に青い海を見ながらのイカ三昧。食べ終わって店を出ると、心地良い潮風。五感で感じる美味しさは、この呼子でしか味わえないものだ。