生、もしくは解凍したごんぐりをよく洗い、サツマイモと一緒にゆでてやわらかくした後、食べやすい大きさに切る
タマネギを入れることが多いが、ネギ、ニンジン、ショウガ、ニラなど各家庭ごとに使う材料には違いがあるようだ
酒、砂糖、日南で好まれる甘めの醤油などで甘辛く煮込む。味噌を入れる家もあったり、甘さの違いがあったり家ごとに千差万別
「ごはんあります」の看板もある店の一角には、手作りの惣菜が並んでいる。煮物、揚げ物など1パックは150円~。
「地域の方のためのお店ですから(笑)。すべて手作りです」。
厨房で料理するのは、店主・西村美和子さんを中心とした地元の主婦の方々。『西村商店』は地元に密着しているお店だ。
『ごんぐり煮』も毎日にぎやかな厨房で作られている。
「マグロの胃のかたまりを仕入れてるんですが、生の状態だと赤くてヒダヒダもあるし、ちょっと不気味かな(笑)。まず、手できれいに洗うんですよ。2時間ほどゆでて、その湯につけたまま一晩置いておくとやわらかくなります。たっぷりのお湯とサツマイモと一緒にゆでることがポイントですね。サツマイモと一緒にゆでるとやわらかくなるし、サツマイモへの火の通り具合から、ごんぐりの煮え加減を見るという意味合いもあるんです。ごんぐり煮は、下ゆででやわらかくゆでないと美味しくないですね」。
下ゆでが終わったら、食べやすい大きさに切って味付け。調味料は、酒、ざらめ、薄口醤油。そこに水を少し加えて落としぶたをして煮る。酒はごんぐりのにおい消しでもあるそうだ。ある程度煮詰まったら、切っておいたタマネギを入れて再び落としぶたをする。たまにふたを押しつけたり、味見して水を加えたりしながら10分ほど煮込んでできあがり。煮詰めていくという感覚だ。
「家庭によってはコンニャク、小ネギを入れたりするところもありますね。このまま、1日ほどねかせておくと、味が染みて美味しくなります。私たちは量が多いので大きな鍋で煮ていますが、家庭だと圧力鍋でやるとうまくできますよ」。
一口いただくと、もっちりとした独特の歯ごたえ、最後に海の香りがする。甘味、とろ味、魚のエキスを堪能できる。
使われる醤油は、お店の横にある『阪元醸造』が土蔵の中で熟成させて作るという薄口醤油だが、日南で好まれる甘めのものだ。
「ここは漁師の町だから味付けは甘めですね。ごんぐり煮だけでなく、天ぷらも寿司もなんでも甘いと思いますよ」。
ごんぐりは、煮付け以外に唐揚げでもよく食べられる。唐揚げは下ゆでしたものに塩とこしょうをして片栗粉をまぶして揚げる。サクッとした衣の食感とごんぐりの歯応えが美味だ。
しかし、西村さんは、『ごんぐり煮』を作りはしても、今はあまり食べないのだそう。
「焼酎に合うとは思うのですが、今はあまり食べないんですよ。親が漁師だったから、小さい頃は食卓にどかっと山盛りで出てきていて、その時に食べ過ぎました(笑)。心臓なんかも食べてましたね。地元の人にとっては、いつでもあるという物でしたね。私の親はカツオ船に乗って、カツオ節を作っていたのですが、ごんぐりはまわりの家からよくもらっていたんです。もし、親がマグロ船に乗っていたなら、もっと食べていたのでしょうね(笑)」。
続けて、西村さんの娘さんも日南の“魚事情”をお話してくださった。
「魚の切り身を塩と水と薄口醤油で煮込む『塩蒸し』という料理もあって、お盆や運動会など人が集まる時に食べるんです。本当に小さい頃から魚はよく見て食べてますね。このあたりの家は、どこも外にシンクがあって、そこで大きな魚をさばくんですよ。そうそう、魚はいただくことばかりで、買い方を知らないですね(笑)。田舎は物々交換みたいなところもありますから」。
お二人の話をうかがって、日南には肴が豊富に集まること、そして『ごんぐり煮』は、その日南だからこそ生まれた郷土料理であることを感じた。
きれいに洗い、ごんぐりをやわらかくする効果があるサツマイモと一緒に2時間ほどゆで、その湯につけたまま一晩置いたあとに切る
ごんぐりと一緒に煮込む野菜はシンプルにタマネギのみ。煮汁でごんぐりをある程度煮込んだ後、切っておいたタマネギを入れて落としぶたをする
調味料は酒、ざらめ、薄口醤油。ある程度煮詰まったら、切っておいたタマネギを入れて落としぶたをする。さらに10分ほど煮込んでできあがり
日々の食料品や惣菜を扱う地元に密着した商店。『ごんぐり煮』をはじめ、1970年代から作っている煮物、揚げ物などの惣菜は、地元の主婦たちがすべて手作りしている。日南で好まれる甘めのやさしい味わいとともに、値段も1パック150円~ととても良心的。『天ぷら』、寿司飯に混ぜるだけでバラ寿司ができあがる『バラ寿司の具』などは長く愛されている品だ。