締めて、3枚におろした後、食べにくくならないように小骨の処理をする。表面のヌメリの取り方をはじめ、その方法は様々だ
骨のない部位を使ったり、骨をうまく処理したりと、プリプリとした歯応えのある食感を最大限に引き出したりと、料理人の腕の見せ所
皮や、皮と身の間のゼラチン質までも美味しく食べさせる料理を各店が工夫し、自慢のウツボ料理を提供している
キダコ(ウツボ)の味わいを手頃な価格で存分に堪能できるのが、こちらの『キダココース』。
「基本的な構成は、椀物、酢の物、焼き物…といった日本料理のコースと同じです。キダコは1年中食べられますが、秋から冬が特に美味しいですね」。
キダコ三昧を楽しませてくれるのは、店主・洲崎豊昭さんだ。
「ウツボは水の中ではおとなしいですが、締める時は大変です。獰猛だし、家庭で料理するのはちょっとむずかしいかもしれませんね」。
生け簀から出されたウツボは暴れ回るが、洲崎さんは慣れた手つきで締め、下ごしらえをする。
「表面のヌメリは包丁でこそぎとります。出刃でさばいた後、柳刃で切りますが、骨が硬いので包丁はよく研いでおかないといけません。ハモよりウツボのほうが骨が太いし固いですね。料理ごとに使うウツボの部位は決めています。刺身は骨のない部位を使いますが、その他の料理に使っているものは骨切りしていますね。骨切りするときに、身を手でしっかりとおさえながら切る必要があります。皮がプヨプヨで、身と皮の間も動きますから。身と皮の間のプヨプヨはコラーゲンたっぷりのゼラチン質ですね。」。
『キダココース』を順番に説明していただく。
●小鉢
内蔵と、刺身を作る時に身からはいだ皮をゆでて、キュウリとゴマと酢で和えた酢の物。
●刺身
おなかの骨がないところが刺身用に使う部位。プリプリした上品な味わいをポン酢で楽しむ。
「身は刺身にするとフグのようですね」
●湯引き
刺身用の部位の上にあたる背中の部位を使う。酢みそでいただく。和食のコースの酢の物の代わりだ。
●天ぷら
湯引きと同じあたりの部位を使う。サクッとした衣とフワフワモチモチ感が美味しい。
●照り焼き
湯引きの部位よりも尾に近い部分が焼き物用。タレは、調味料に焼いた中骨を入れ、じっくり煮込んでつくる。骨切りされたウツボを焼くので、表面には波のような模様が浮き上がり、仕事の細かさがよくわかる。
●しゃぶしゃぶ
照り焼きよりもさらに尾に近い部位を使う。身をくぐらせる出汁は、塩をしたウツボと昆布から取ったものだ。食べにくい頭も出汁をとるのに使っている。骨切りされたものを湯にくぐらせると、はもしゃぶのようにくるくると巻いてボタンの花のようになる。
「身自体は生でも食べられるものですから、皮への火の通し方はお好みでどうぞ。火を通しすぎるとかたくなりますよ!! しゃぶしゃぶは、湯引きと違って水に通しませんからウツボの脂と旨味がよりよくわかると思います」。
●みそ汁
骨がないホホの部分はみそ汁の具として使われている。
●ごはん
照り焼きがのったごはんには、タレの味も染み込み、最後までウツボの味を楽しめる。
お話をうかがっていると、ウツボを無駄なく使っていることに気づく。
「身も皮も、内蔵も中骨も捨てるところはほとんどありません。しっかり料理させていただいています」。
それは、料理をする洲崎さんのウツボに対する愛情でもあるのだ。
締めた後、表面のヌメリは包丁でこそぎ取る。骨のない部位を使う刺身以外は、すべて丹念に骨切りがされている
刺身には、骨がないおなかの部位を使う。身は薄く切っても、ぷりぷりとした食感が残り、上品な味わいを楽しめる
しゃぶしゃぶは、ウツボの脂と旨味が一番よくわかる食べ方とのこと。塩をしたウツボと昆布から取った出汁を使う
扉を開けて目に入るのはカウンター席で囲まれた生簀。毎日地元の市場で買い付けるという天草の新鮮な魚介類を、様々な料理で味わえる店だ。中でも継ぎ足しながら20年以上守られてきた秘伝のタレで煮付けた『あら煮』が有名。『キダココース』は小鉢、刺身、天ぷら、しゃぶしゃぶ、照り焼き…と料理によって変わるウツボの食感と旨味をすべて制覇できる。