作り手が追い求める味わいを出すために吟味した大豆を、気候・気温・湿度などを考慮しながら水に浸しておく
かつて沖縄ではにがりの代わりに海水で豆腐を固めていた。そのなごりで、現在はにがりとともに塩を加え、塩味をつけている
水を含みやわらかくなった大豆をすりつぶし、豆乳とおからに分ける生絞りをする。豆乳に熱を加え、にがりと塩を入れ凝固させる
昭和34年の創業以来、『島豆腐』、『ゆし豆腐』、『厚揚げ』をつくり続ける『湧川食品』。工場内で代表取締役・湧川満(わくがわみつる)さんにお話をうかがった。
「島豆腐・ゆし豆腐と本土との豆腐との一番の違いは塩が入っているかいないかです。沖縄の豆腐は昔はにがりの代わりに海水を使っていたため(現在は禁じられている)、そのなごりなのです。塩分濃度は3%くらいですね。それから沖縄の豆腐は濃い(大豆の濃度が高い)ことも特徴です。『島豆腐』と『ゆし豆腐』は一般の豆腐の2倍くらいになります。大豆がたっぷり必要になりますね(笑)」。
豆腐づくりの工程は、前日に大豆を水に浸しておくところから始まる。
「大豆を水に浸しておく時の水の温度にも注意が必要です。沖縄は12月まで暑い日もありますし、1月からはとても寒い日もあります、暑い時は温度を下げる時間を短く、寒い時は温度を上げる時間を長くしておくことが大切です」。
水に浸しておいた大豆を細かく砕いて煮た後、豆乳ににがりと塩を入れて撹拌する。
「完全に固まってしまう前の状態が『ゆし豆腐』で、見た目はおぼろ豆腐やよせ豆腐に似ていますね。『ゆし豆腐』の“ゆし”は、沖縄の方言で“寄せる”という意味ですしね。そして、しっかりと水を切って固めたものが『島豆腐』となるのです。撹拌の具合が豆腐の固さに影響するので注意が必要です。特にゆし豆腐は撹拌しすぎると固くなってしまうので、なおさら注意が必要です。撹拌した後は、1時間ほど熟成させます」。
「そうすることによって、食感がやわらかくなったり、ツヤがよくなるという効果があるのです」。
ちなみに『島豆腐』は、暑い沖縄でも日持ちがするように水をしっかり抜くようになったのだそうだ。
熟成が終わった『ゆし豆腐』は1つずつパックされる。袋は昔ながらの素朴なデザインだ。
「袋に入れて結ぶのですが、工程の中で一番手間がかかる作業なんですよ(笑)。これだけは昔からずっと手作業で経験が必要です」。
「1袋は1kgくらいですね。昔は『ゆし豆腐』を桶に入れて背負い、売り歩いていたりもしたんですよ」。
さて、『ゆし豆腐』の美味しい食べ方とは?
「塩味がついているのでそのままでも美味しいですよ。コーレーグース(島唐辛子を泡盛に漬け込んだ調味料)とポン酢をたらすのも美味しいと思います。つまみにもなりますし、沖縄そばに入れたり、味噌汁にいれたりもしますね。ざるそばやかけそばの上にのせて山かけのようにして食べるのもおすすめです。沖縄の方は本当に豆腐が好きで、食べる量が多いですから、昔は1丁や1袋が1kgのものだけでした(現在は使いやすい小パックも製造)。お正月やお盆には必ず厚揚げを食べるという習慣もありますね」。
『湧川食品』は沖縄の食卓に欠かせない味わいを作り続けている。
カナダ・アメリカ産の安全な大豆を水に浸す。気候に合わせて水の温度、浸しておく時間を調整する
熱い豆乳ににがりと塩を加えて撹拌する。この時の混ぜ方が最終的な豆腐の固さを左右する
熱い豆乳に塩とにがりを入れて撹拌し、少し熟成させる。おぼろ状になったものが『ゆし豆腐』、水分をしっかり抜けば『島豆腐』だ
昭和34年の創業以来、豆腐一筋。沖縄の食卓に欠かせない島豆腐、ゆし豆腐、厚揚げを受け継がれた独自の製法を守り、作り続けている。現在は使いやすい小パックの島豆腐やゆし豆腐、きぬごし豆腐・木綿豆腐なども製造。“安全で美味しい豆腐”を目指し、食堂や居酒屋、学校給食や病院で使用されている。※スーパーなどでも販売