細島港に揚がった新鮮なカツオが使われることが多い。さばいて三枚におろして切り分けた身を、炙った後で小さく刻む
『こなます』に使う調味料は基本的に塩だけ。カツオの味と塩加減が『こなます』の味わいを左右する
刻んだカツオに塩とごはんを合わせ、よくこねる。まるい形に整えた後、表面をこんがりと焼く
日向市漁業協同組合の元女性部長だった島田元子(しまだもとこ)さんのご自宅を訪ね、『こなます』作りを教えていただいた。
「このカツオはね、今朝揚がったんですよ」。重さ3.8kg。取材班のために用意してくださった立派なカツオだ。島田さんは手際よく三枚におろし、4つのサク(魚をブロック状に切り分けたもの)にする。
「サクをね、皮がついたまま焼くの。炭火で焼くのが一番だけど、バーナーでも大丈夫」。脂がのったカツオからは脂がしたたり落ちる。「このまま冷やして食べれば『カツオのタタキ』になりますね」。
焼いたサクを包丁で細かく刻み、塩を合わせてさらに細かく刻み味を染み込ませる。
「味付けは塩だけ。塩加減は大事です。塩がちょっと効いているほうが美味しいかな」。味見した後、ごはんを加える。
「ごはんは普通に炊いて冷ましたもの。カツオ1kgに対してごはん1升くらいの割合ですね」。カツオの身とごはんを合わせたら、力を入れて手でしっかりとこねる。米粒を少し押しつぶすような感じだ。「こうすることでカツオとごはんがよく馴染みますし、できあがった時にくずれにくいし、食べた時にもちもちして美味しいんですよ」。
ねりおわったら、手でにぎってボール状にし、それを軽く押しつぶすようにしてまるい状態にする。
オーブンできつね色になるまでこんがり焼けばできあがりだ。
香ばしい香りとカリッとした焦げ目、カツオの風味、もっちりとした食感…取材班は勧められるまま、焼きたての『こなます』を1人4個ほども食べてしまった。「熱々も美味しいけど、冷めても美味しいんですよ。食事にもおやつにも、塩が効いているから焼酎のつまみにもなりますよ。半分に切って、なにかをはさんでライスバーガーのようにしても美味しいし、お茶漬けみたいにしても美味しいですよ。『こなます』は他の魚でもできると思いますが、カツオが一番合っていると思います」。
『こなます』に関するお話も聞かせていただいた。「元々『こなます』はおか(陸上)で作るものではなくて、漁師さんたちが船の上で作っていたもの。港に帰ってくる漁師さんたちのおみやげだったんです。漁師さんたちはカツオの身だけではなくて、目玉や血合いなども入れていたんですよ。それはとっても味が濃くてクセのある味になるので、今は食べやすいように身だけを使って作っていますね。焼き方も、船に積んでいた七輪の炭火の中に直接ほうりこんで、焼けたら灰を落としていたようですよ。今は上品にオーブンで焼いていますが(笑)。私が作る『こなます』の元も漁師さんたちの味。漁師さんが大きな手でこねてにぎってくれた『こなます』はとても美味しかったですね。名前の由来はね、“こねまわす”から”こなます”になったのでは、とよく言われていますが、そうじゃない気もするんです。漁師さんたちはカツオを切ったものを『沖なます』とか『塩なます』と言っていたんですよ。それをごはんに混ぜて『米なます』、転じて『こなます』になったのではないかな」。
『こなます』を「新鮮で美味しいカツオの味がそのまま伝わるし、上品じゃないけど、細島独特の大切な味ですね」と想い続けている島田さん。今も小学校で『こなます』作りを教えるなど地元の味を守り伝える活動を行なっている。「小学校で教える時は、『好きな形に作っていいよ』と言ってます。子どもたちはハート型の『こなます』を作ったりもしますね(笑)。魚のさばき方から教えますが、魚嫌いの子も自分でさばくと食べるようになるようです。炭火をおこして焼く時は『焦げる~』といったにぎわいも生まれます。教えていて、とってもいい料理だと思いますね」。
朝獲れの新鮮なカツオを使い、さばいて三枚におろしてサクにした後で焼く。基本は炭火焼だがバーナーで焼くことも
味付けは塩のみ。刻んだカツオの身に合わせてさらに刻むことにより、塩味をなじませる。少し塩味を効かせた味わいとのこと
刻んだカツオの身と塩を合わせたものにごはんを加え、米粒を押しつぶすようによくこねる。まるい形にして焼く