九州の味とともに 秋

この料理の"味のキーワード"

具材

豚肉、ゴボウ、モヤシ以外は、何を使ってもかまわない。彩りや季節を考えて、作り手が工夫する。家庭では残り物が使われることも

調味料

醤油、酒、ミリンなどとともに出汁を使うことが特徴。甘味をつけるため砂糖が多めに入るのも長崎ならではだ

作り方

細切りにした具材を炒め、調味料を入れて炒め煮する。モヤシは歯応えを残すために最後に入れる

語り 料理研究家 脇山順子の「浦上そぼろ」

脇山順子さん

料理研究家として地元長崎の食文化研究や現代の“食”に関する問題に取り組んでいらっしゃる脇山順子さん。階段を登った先にある、長崎らしい坂の上にあるお宅を訪ねた。
下の道まで迎えにきてくださった脇山さんは、軽やかな足取りで階段を登っていかれる。
「道から玄関まで69段の階段があるんですよ。毎日上り下りしてます。何を食べてそんなに元気なの?とよく尋ねられますね(笑)」。

“食”は“人”を“良”くするもの。自然の恵みをきちんといただき、身体の内側から健康になることが、脇山さんの目指すものだ。
「昔から食べられていた郷土料理は、身体に良かったり、ちゃんと素材の美味しさを引き出していたりと、理にかなっていて本当にすごいんです。昔の人は理論的なことはわかっていなかったのでしょうけど、伝承や経験でやり方を知っていたんですね。ご存知のように長崎は被爆したので、一旦途絶えかけてしまいました。そんな中で私は、長崎のご先祖様は一体何をどうやって食べてきたんだろうと思い、研究を始めたんです。その中には、外来の食文化がかなり入ってきているんですね。卓袱(しっぽく)料理もそうだし、和食、中華、オランダ料理が融合した和華蘭(わからん)料理というのもありますね」。

ポルトガル人宣教師が伝えたという『浦上そぼろ』も、国外の影響を受けた南蛮料理だ。
「昔は、日本には肉を食べる習慣はありませんでした。浦上地区はクリスチャンが多い場所ですが、宣教師がなんとか日本人に肉を食べさせたいと思って、食べることを勧めたのでしょうね。それは病気にかからない強い身体にして長生きしてほしかったからです。肉を食べる外国人は見るからに体格もいいし血色もいいし、浦上の人たちもそれで肉を食べ始めたのでしょうね」。

では、なぜ豚バラ肉が入った野菜炒めのような『浦上そぼろ』が生まれたのだろうか?
「そぼろという言葉は、ポルトガル語で余り物という意味の“ソブラード”という言葉から来ているようなんです。つまり、余り物をなんでも入れて作った料理ということなんですね。中華の炒めもののようでもありますが、干し椎茸の戻し汁を使いますから和でもありますし、長崎らしく甘みのある料理でもありますね」。

具材はすべて細切りにする

実際に、『浦上そぼろ』を作るところを実演してくださった。
材料は、豚バラ肉、ゴボウ、モヤシ、下ゆでしたインゲン、下ゆでしたコンニャク、人参、干し椎茸を水で戻したもの。脇山さんが材料を細切りにしていくが、皮ごと使うのでゴミは出ない。

豚バラ肉を炒めた後、インゲン以外の具材を炒めていく

「ゴボウは皮を亀の子タワシでこすり洗いしてササガキに、人参は、皮はもちろん一番根元の緑のところも細かく切って使います。モヤシも根がついたままですよ。椎茸の石づきは根元の固いところだけをほんの少しだけ切り落とすだけです。干し椎茸の戻し汁も使いますし、“全部食べる、残さず食べる”ということになります」。

調味料を入れたら炒め煮する感じ

まず豚バラ肉を炒めて色が変わったら、ゴボウ、人参、コンニャク、椎茸と炒め、干し椎茸の戻し汁を入れて煮る。
「ゴボウは切った後で水にさらしたりもしません。でも、炒めていくと、だんだん白くきれいな色になってきたでしょう?」
そして味付けに砂糖、酒、塩、長崎産の薄口醤油を加える。炒め物にしては水分が多いので、炒め煮というほうが近いかもしれない。

モヤシは最後に入れる

最後にモヤシを入れてフタをして、モヤシを蒸し焼きにする。モヤシのシャキシャキ感を残した方が美味しい。
「豚の旨味に椎茸のエキス。動物的な味わいと植物的な味わいの融合ですね。素材すべての味が一つになって美味しくなります。材料としては、茹で干し大根、ジャガイモの千切りやサツマイモの千切り、キクラゲ、さつま揚げなどを入れるのもいいですね。なんでもOKです(笑)。昔はもっと砂糖をたくさん入れて、甘い味だったかもしれません。長崎ではいろんな料理に砂糖をよく使いますからね。甘さが足りないことを『長崎が遠かったね』という言い方もあるんですよ」。

インゲンを上からのせてできあがり

緑色がきれいなインゲンをのせてできあがり。豚から出る旨味と椎茸の出汁の風味が重なり合う。それぞれの野菜の味も美味で、なつかしい、やわらかい味わいだ。
「美味しくて、ヘルシーで、しかも無駄を出さないからエコ。先人たちが作ってきた『浦上そぼろ』は、とても理にかなった料理ですね。長崎では学校給食で出しているところもありますが、他の郷土料理とも合わせて、子どもたちに引き継がなければと思っています」。

この料理人こだわりの「味のキーワード」

具材

料理の具材は、豚バラ肉、ゴボウ、モヤシ、下ゆでしたインゲン、下ゆでしたコンニャク、人参、干し椎茸を水で戻したもの

調味料

油、酒、干し椎茸の戻し汁、砂糖、塩、長崎産の薄口醤油を使って、具材を炒め、味付けしていく

作り方

豚バラ肉、ゴボウ、人参、コンニャク、椎茸の順に炒め、椎茸の戻し汁や醤油などで味付け。最後にモヤシを入れ、インゲンをちらす

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プロフィール 脇山順子

1936年長崎市生まれ。料理研究家。1983年から2002年まで長崎女子短期大学で、調理学、食育学などを教える。その後も食文化に関わる仕事を続け、著書に『百花繚乱ふるさとの味 長崎料理』『かあさんのレシピ・長崎スローフード食卓』などがある。

脇山さんの『浦上そぼろ』

※記載した内容は2016年10月20日現在のものです。