基本となるのは細く切ったサツマイモ。カボチャ、ニンジン、タマネギが使われることも多い。季節の野菜や山菜が入ることもある
衣は小麦粉と水がベース。ただし天ぷらとは違い醤油、砂糖などで衣に味付けをする。甘いものも、やや塩辛いものもある
具材と衣をしっかりと混ぜ合わせた後、油で揚げる。表面はカリッと、中はふんわりとした食感に揚げることがポイントだ
『もちなが邸』店主の蒲生芳子さんは、地産地消・身土不二(しんどふじ)の想いを元に都城市庄内町産のそばが食べられる『がまこう庵』をご主人と開いた。『がまこう庵』を息子さん夫婦に引き継いだ後、『NPO法人手仕事舎そうあい』を設立、『町家カフェもちなが邸』をオープンさせた。
「本当はのんびりしようと思っていたんですよ(笑)。けれど、様々な問題で昔と比べて活気がなくなっていく街を元気にしなければと思っていました。そんな折、築100年以上の『持永邸』が取り壊されるという話を聞いたのです。名家の邸宅だった『持永邸』は都城市庄内町の中心であった場所。この場所を保存活用し、人々が集い交流することが、街の元気の素になると考えたのです。そこでNPOを立ち上げ、『町家カフェもちなが邸』をオープンさせました。ですから、ここは料理を提供するだけの飲食店ではありません。日本人として大切なことを、食を通して次の世代に “つなぐ”“ひきつぐ”ことが一番の目的だと思っています。私のライフワークですね(笑)」。
通常の食事メニューは『お昼ご膳』のみ。アイガモ農法で育てた米に雑穀を合わせたごはん、具だくさんの味噌汁、野菜を使った小鉢が並ぶ。
「日本人が昔から大事にしてきた米、豆、発酵食品である味噌や醤油…どれも昔からある食べ物ですし華やかではありませんが、自分たちの食の原点であると考えています。もちろん、その中には『がね』も鎮座していますよ(笑)」。
蒲生さんは、『がね』は都城において、伝えていかなければならない大切な料理だと考えていらっしゃるのだ。
「南九州はサツマイモの産地ですから、『がね』に使うサツマイモは昔からありました。そして、田畑には菜の花も植えられていましたから、揚油に使う菜種油もあったんです。集落で何カ所か菜種油を搾る人がいましたから、今よりも菜種油は作られていたと思います。油かすは肥料にしていましたね。けれど、採れる油の量はそんなに多くはないですから、やはり『がね』はハレの日や特別な時にたくさん作って食べられていたのだと思います。
昔の人たちが生活の中から生み出したもので、南九州では昔から食べられていましたね。サツマイモ以外にもいろいろな野菜を入れますし、味は甘いものがあったり辛いものがあったり、家庭によって材料も作り方も味わいもいろいろです。『がね』と『煮しめ』は都城の行事食。稲刈りとか収穫の時はみんなが手伝い、そういうところに必ずあったものなのです。人が集まるところに郷土料理はありますよね。郷土料理にはいろんな知恵がつまっていますし、かつては家庭の中で口伝えに伝わっていきました。ところが今は核家族化がすすみ、若い人たちは『がね』を家で作らなくなってきているようです。家庭で子どもたちに食べさせていないことも多いということですね。食のスタイルは家庭環境の変化で変わってしまいます。今のままでは『がね』だけではなく様々な伝承が途絶えてしまうのです」。
そこで蒲生さんは、子どもたちに“食”を伝える活動も行なっている。
「子どもたちと一緒に野菜を育て料理してみんなで食べるという『食農体験』を行なっています。育てること、作ること、食べることを通して、命の大切さを伝えられればと思っています。サツマイモも育てますし、『がね』も作って食べるんですよ。自分たちで育てた野菜ならば、曲がって形が悪くても、少しくらい虫喰いがあっても捨てる気にはならなくなります。“命をいただく”という“いただきます”の本当の意味も自然に伝わっていきますね」。
さて、『がね』の作り方を教えていただいた。取材時の具材は、千切りにしたサツマイモ・カボチャ・ニンジン、すりおろしたショウガ、それに、イリコとインゲンだ。
「サツマイモは基本ですが、他の野菜はその時にあるものということになります。今日はショウガも入れていますが、ショウガは野菜の旨味を引き立ててくれますね」。
ボウルに材料と粗糖、自家製塩麹、豆腐、小麦粉を入れてしっかりと混ぜ、高めの温度でカラッと揚げる。
「菜種油は酸化しにくいので、継ぎ足していっても大丈夫です。具材は野菜ですから、あまり劣化もしないのです。ある程度使ったら炒め物などに使っていますよ。何も無駄にしないんです(笑)。」
「見た目はかき揚げに似ていますが、かき揚げではありませんよ!! 『がね』です!! 都城の人は『がね』に誇りをもっていますから(笑)」。豆腐を使うことでふんわり感があるこちらの『がね』は、塩麹の塩味がサツマイモや野菜の甘味を引き立てる。全体がサクッとしたかき揚げとは異なるものだ。
蒲生さんは、『田舎ぐらしを愉しむ』講座も主宰されている。月毎に、梅干し作り、ぬか床作り、味噌作りなどを行い1年間で完結するものだ。開講は毎年4月の『摘み草料理』で、この時に『がね』作りも行なうとのことだ。
「摘み草、つまり野の花は野菜の原点です。まず摘み草の天ぷらなどを作りますが、材料が少し残ります。衣も少し残ります。それらを混ぜ合わせ、サツマイモを加えて『がね』を作り、なにも無駄にしないようにするんです。もったいない精神ですね(笑)。『がね』は惣菜として売られていて買ったほうが早いですが、私は家庭料理としての『がね』を伝えていきたいと思っています。各家庭で作られ、それが子どもたちに伝わっていくのが一番いいことですから。そして、『うちの母ちゃんのがねが一番旨い』とか、『あそこのおばちゃんはがね作り名人だね』というようになればいいと思っています(笑)」。
素朴な味わいの小さな『がね』には蒲生さんの熱い想いが込められている。
取材時は千切りにしたサツマイモ、カボチャ、ニンジン、すりおろしたショウガ、イリコとインゲン。サツマイモ以外は季節の野菜が入る
衣は、粗糖、自家製塩麹、豆腐、小麦粉で作られる。豆腐がよりふんわりとした食感を生み、自家製麹がほどよい塩味を与える
しゃもじの上で形を整え、高めの温度に熱した油でカラッと揚げる。油は昔ながらの菜種油で、さっぱりとした仕上がりになる
築100年以上という旧家を改装した趣のあるお店で食べられるのは、地元産の野菜や自家製味噌などを使った素朴でやさしい味わいで、単に料理を提供しているだけではなく、そこには「食を通して日本人として大切なものを次の世代に伝えたい」という店主・蒲生芳子さんの想いが込められている。自家製塩麹を使った『がね』は野菜の甘味が引き立つ。
住所 | 宮崎県都城市庄内町12625 |
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電話 | 0986-37-0002 |
営業 | 10:00〜15:00 |
休み | 火・水曜 |
席 | 70席 |
カード | 不可 |
駐車場 | あり |
URL | http://www.btvm.ne.jp/~mochinagasoai/p_0home.html |