基本的な材料は、鶏、水、塩。通常の食肉用よりも長期間育てた鶏を丸ごと使い、時間をかけじっくりと煮て澄んだスープを作る
トッピングの具材の中心が鶏肉。もも肉や胸肉を手作業で丹念に裂いて細くしていく。スープを作る時に使った鶏肉も使われる
鶏肉に加え椎茸、錦糸卵は欠かせない。パパイア漬けなどの漬け物や、タンカンの干皮などを入れて柑橘類の風味を加えるのも特徴
『みなとや』の創業は昭和21年。鶏飯を現在よく知られているスープ茶漬けのような形で初めて提供した、“元祖”と呼ばれる店だ。
「鶏飯は今から約400年前、奄美が薩摩藩の支配下の頃、ここ赤木名で役人をもてなすために作られていたとてもぜいたくな料理だったと言われています。当時のものは、鶏肉の炊き込みごはんで、庶民には口にすることができない高級料理だったようです。昭和21年、当時は旅館だった『みなとや』開業にあたり、初代館主・岩城キネがふるさと料理復活の研究の末、アレンジを加えて開発した料理の一品が、ごはんに具材をのせ、鶏スープをかけて食べる新しい鶏飯でした。昭和43年4月、現在の天皇皇后両陛下(当時は皇太子殿下・妃殿下)がご来島の折、奄美を代表するお食事として当館の鶏飯が提供され、お二人が「おいしい、もう一膳」とおかわりまでなされ、大好評をいただきました。これを機に鶏飯はよく知られるようになり、鶏飯元祖として面目躍如。その後の普及ぶりに驚いているところです」。
女将の池山喜美子さんは、初代の時から変わらない鶏飯の味を守り続けている。
鶏飯のベースとなるスープの作り方を尋ねてみると…。
「地元の鶏を丸ごと煮込んだ後、肉と骨を出して、そこに塩と醤油を加えてスープのできあがり。それだけです。修行したいと来る人もいるんだけど、修行することは何もないんですよ(笑)」。
しかし、詳しくお尋ねすると、幾つもの手間が重なっていることがわかる。
「鶏の旨味を出すために鶏を丸ごと煮込んだスープを作ってます。一羽から5人分くらいしかとれないから、鶏はたくさん使ってますね。毎日、朝の5時頃から仕込んでますよ。透き通ったスープにするためには、つぶしてすぐの新鮮な鶏を使うこと、アクと余分な脂を取りながらとろ火でじっくりと煮込むことが大事ですね」。
初代・岩城キネさんには、宮内庁から、「奄美で食べた味がどうしても出ないから作り方を教えてください」と言われたこともあるそうだ。
「自然の中で育つ奄美の地鶏の味、煮込む時の火加減、塩と醤油の配分といったものが難しかったのかもしれません」。
店に出すのは、その日に作った新鮮な鶏スープだけ。スープがなくなったら、その日の営業は終了だ。それも先代から続く大事な約束なのだという。
スープに味付けする前に取り出した鶏肉は、すべて裂いてトッピングの具材となる。
「胸、もも、ささみ…鶏肉は残さず使いますよ。スタッフみんなで手で裂いています。温かいうちに裂かないと固くなるので、スープからあげて少しさましてから、テレビ見ながら裂いてますね(笑)」
トッピング用の具材は鶏肉の他に、錦糸卵、ネギ、海苔、煮付けた椎茸、大根の漬け物、干したみかんの皮を粉にしたもの。
「みかんの皮の粉は、喜界島ミカン、タンカン、ポンカンなど、その季節にとれる柑橘類の皮を乾燥させて作ります。熟れた柑橘類の皮を干したものは、陳皮(ちんぴ)と呼ばれる立派な漢方薬です。香りがいい上に、身体にもいいですね」。
皿に盛られた具材はボリューム満点!! ごはんもおひつに入れて出される。もし足りなくなったらさらにおかわりも自由とのこと。
「思い切りどうぞという感じです(笑)。ごはんをついで具材をのせて、鶏スープをたっぷりかけて召し上がってください」。
たっぷりの量もこの店の“もてなし”なのだ。
スープの入った鍋には湯気が見えないが、それは表面が鶏の脂の膜で覆われているから。中はとても熱いので注意が必要だ。おたまでスープをよく混ぜて、ごはんの上に具材がのったお茶碗へ。濃厚だがあっさりとしたスープは、パンチがあるのにやさしい味わいで、錦糸卵や椎茸との相性も、とてもいい。大根の漬け物のコリコリという歯応えと、柑橘の香りは爽やかだ。別皿に添えられている自家製パパイアの漬け物も口の中をさっぱりとさせてくれる。
各テーブルには美味しい食べ方が書かれた紙が置かれている。
1/まずごはんを軽く(6分目)よそう
2/ごはんの上にお好きな具をのせる
3/スープをたっぷりかける
4/具とごはんを軽くませながらスープと一緒に食べる
5/そして、もう一杯
もう一杯が、もう二杯、三杯…鶏飯は、何杯でもおかわりしたくなる料理なのだ。
地元の鶏を丸ごと煮込んで塩と醤油で味付けする。透き通ったスープにするために、アクと余分な脂を取りながらとろ火でじっくりと煮込む
スープを作るために煮込んだ鶏は、味付けする前に引き上げて、肉は残さず使う。すべて手で裂いてトッピングの具材とする
鶏肉以外では、錦糸卵、ネギ、海苔、煮付けた椎茸、大根の漬け物、干したみかん(タンカン他、旬の柑橘類)の皮を粉にしたものをのせる
昭和21年創業。初代の岩城キネさんが、炊き込みごはんのようだった鶏飯をアレンジし、ごはんに具材をのせ鶏スープをかけて食べる今のスタイルを作り上げたと言われている。地元の鶏を丸ごと煮て、塩と醤油で味付けするスープは、その日に作ったものしか使わない。ごはんはお替わり自由。鶏肉、自家製の漬け物など皿に盛られた具材もボリューム満点。