ヤギの骨付き肉を水に入れてじっくり炊いてスープを作る。初めに湯通ししたり丹念にアクを取り除くことで食べやすくする
味付けは主に塩。醤油や味噌を使う場合もある。スープを作る段階では味付けはせず、注文後に味付けして提供することが多い
添える具材はネギやニラなどでいたってシンプル。ヤギの肉や骨から生まれる独特の香りや旨味がストレートに伝わってくる
大阪で20年以上料理の仕事をされていた店主・晴峯繁穂さん。現在は地元の喜界島でその腕をふるわれている。
「地元の食材を使うことを大切にしています。特に新鮮な魚介は自慢です。その日に獲れた魚を漁師さんから直接買い付けています」。奄美地方ではよく食べられている夜光貝をはじめ、旬の魚介を手頃な価格で楽しめる。
そして、喜界島ならではのヤギ料理も、もちろん大切にされている。
「私は喜界島のヤギが一番旨いと思っています(笑)。喜界島のヤギは薬草をいっぱい食べているから美味しいんですよ。『やぎ汁』も、『ヤギ刺し』も。皮も食べますし、血で内臓などを炒めた『山羊カラジュウリ』も美味しいですね。昔の人はよく生血を飲んでました。その味は甘辛いということですが…(笑)。『やぎ汁』はみんな食べる前から匂いがすると思っているから、『思ったより匂いがなくて美味しい』という感想が多いですね。先入観のある方も多いけど、大丈夫ですよ。本当に嫌いな人は食べないだろうけどね」。
『やぎ汁』の作り方についてお話をうかがうと、始めに一言。
「霜降りして(湯通しして)、水で炊くだけですよ(笑)」。
しかし、その裏側には細かな手間がかけられている。
「私はヤギの飼育もしてますが、自分で解体もしています」。
「骨付き肉を熱湯に入れるとアクがうわっと出ます。その湯を捨て、骨付き肉を軽く洗って表面のアクを洗い流します。そして、水から炊いていくんです」。
水をはった鍋の中に骨付き肉が入れられ、そこにニンニクと薄い皮のようなものが加えられた。
「この薄いものは、メスの背脂なんです。オスは脂が少なくて、メスは脂が多いです。今日煮込んでいるのはオスなので、メスの背脂で調整しています。ちなみに、オスを去勢すると、メスのように脂も増えますよ(笑)。後は炊いていくだけですが、沸騰して初めに出るアクは特にしっかりとっておかないと匂いがきつくなりますね」。
「肉がかたいですから5〜6時間炊きます。がんがん炊いたほうがより旨味が出るようですね。骨からもいい出汁が出るんです」。
スープをストックしておき、注文後に味付けする。
「私は粗塩だけで味付けします。元々は食べる人が自分の好みで塩を入れていたんですよ。喜界島では味噌仕立てで作る方も多いですね」。
最後に青ネギを合わせてできあがり。
骨付きのぶつ切り肉が顔をのぞかせる豪快な『やぎ汁』は、一口ごとに独特の旨味が広がる。
「ヤギのエキスが出ていますから(笑)。『ヤギ雑炊』も考えてはみたのですが、スープの個性が強いので合わないようですね。喜界島では、なにかと合わせるわけでもなく、『やぎ汁』そのものだけで食べられることが多いですね」。
個性的な味わいを持つ『やぎ汁』はどんな時に食べられるのだろうか?
「サトウキビの収穫前に『さあがんばろう』、収穫後に『おつかれさま』という感じでよく食べられていますね。それから正月前後とか、お祭りとか運動会の時などにみんなで作って食べます。風邪をひいた時や体調が悪い時も食べますね。島の人はみんな食べています。好きな人が多いですが、中には苦手な方もいます。でも、健康や滋養のために食べてますね。喜界島には113歳の方(2015年9月現在)もいるくらいですよ(笑)。『やぎ汁』を食べると元気になるんです。食べれば奄美本島まで飛行機や船に乗らなくても泳いで帰れますよ(笑)」。
『やぎ汁』は喜界島に暮らす方々の元気を支える郷土料理のひとつだ。
骨付き肉を湯通しして、ニンニクと一緒に水に入れてアクを取りながら5~6時間炊く。オス肉の場合はメスの背脂を加える
注文後、ストックしておいたスープに粗塩のみで味付けする。元々は食べる人が自分の好みによって塩で味付けしていたとのこと
具材は青ネギのみと、とてもシンプル。青ネギの香りが『やぎ汁』が持つ独特の味わいをより引き立てる
漁師から直接仕入れる特産の夜光貝など新鮮な魚介をはじめ、地元の食材を使った料理を食べられる和食店。『やぎ汁』の他、喜界島ならではの『ヤギ刺し』や『カラジュウリ』といったヤギ料理も楽しめる。『やぎ汁』は、霜降りしたヤギの骨付き肉とニンニクを水からじっくり煮込んだ後、味付けは粗塩だけ。一口ごとに独特の旨味が広がる。