1429年から1879年の約450年続いた琉球王国。その中心として栄えていたのが首里城だ。首里城のほど近く、当時の面影を残す首里金城石畳道を上ったところに『ゆくい処　石だたみ』はある。
「石畳がすべって危ないから、予約がなければ雨の日はお休みにしているんですよ」。
店主・豊小枝子さんは、土のついた島らっきょうをきれいにする手をとめてお話してくださった。

「このあたりは、昔は持ち合いの市場があった場所で、商売が盛んに行なわれていたようです。この建物も昔は商店だったんです」。

“ゆくい“とは、沖縄の言葉で“ゆったり休む”という意味。豊さんも訪れる人にゆっくりしてもらいたいという想いからこの店を始めたのだ。

様々な沖縄の味を作られる豊さんだが、味のベースはやはり、家庭であり、お母様なのだそう。
「料理は親から教わったものですね。『クーブイリチー』は、日常でも食べますが、結婚式とか赤ちゃんが生まれた時とかお祝いの時に必ず作っていた料理です。お正月にも作りますが、その時は、赤いカマボコが入ってます。お正月は特別だからね（笑）」。

厨房に案内していただいた。『クーブイリチー』の材料は昆布、コンニャク、豚の三枚肉、カマボコ、ショウガだ。
「私の『クーブイリチー』の材料は5つなんですが、この他に、ニンジンやスンシー（タケノコ）を入れたり、切り干し大根を入れたりすることもありますね。昆布は水で戻したもの、豚の三枚肉はしっかりと茹でたものを使います」。

まずは、フライパンで三枚肉を炒める。
「油はひかずに炒めます。茹でた三枚肉から良い具合に油が出ますからね。

肉にある程度焦げ目がついたら、ショウガ、昆布、カマボコ、コンニャクと炒めていきます。そして、うちの沖縄そばにも使うスープを入れるんです。昆布、カツオ、豚、鶏からとった出汁に醤油などで味付けした自慢のスープです。

スープを入れたら強火にして、炒め煮していきます。スープがなくなったら出来上がりですが、すぐに食べるよりも、少し時間をおいたほうが、味が染み込んで美味しいですね」。

スープの味が染み込んだ『クーブイリチー』は焼酎にもよく合う。昆布たっぷりでヘルシーな肴だ。“イリチー”とは“炒め煮る”という意味の沖縄の言葉。“イリチー”のお話もしてくださった。
「他ではあまりないようですが、沖縄では昆布を煮たり炒めたりするんですよね。そして、イリチーは沖縄ではよくある料理法。昆布、切り干し大根、コンニャクなどを炒めた『千切りイリチー』という料理もありますよ。『クーブイリチー』はずっと変わらない昔ながらの料理ですから、これからも大切にしていきたいですね」。