使うサバは新鮮な真サバ。三枚におろしたあと切り身にするが、刺身とは違う切り方や厚さで、より旨い『ごまさば』を目指している
醤油ベースだが、作り手がもっとも工夫を凝らしているもの。サバの甘味と旨味を引き立てる味わいだ
『ごまさば』はタレに漬け込む料理ではなく、切り身にタレやすりゴマを和える料理。その和え方も様々だ
「うちの料理はサバ中心。サバが無くなったら閉店なんです(笑)」。
長崎県・五島に揚がるサバの美味しさを知った店主・齋藤哲也さんは、その美味しさを多くの人に伝えたいと考えていらっしゃる。
「ある時、屋台で飲んでいて、五島の漁師さんと知り合ったんです。私は福岡の出身ではないので『生のサバを食べるなんて絶対に無理』と思っていたのですが、漁師さんに、『一緒に船に乗ってみろ、そして食べてみろ』と言われたんです。実際に船に乗せていただき、獲れたサバをその場でさばいたものを食べたんです。その時の衝撃はすごいものでした。いろんな食材を知っていたし、もちろんサバも知っていましたが、鮮度、身の締まり具合、旨さに衝撃を受けました。そんな衝撃はめったに受けるものではありません。そして、その美味しさを多くの方に知ってもらいたいと、私がサバを分けていただくようにお願いしたんです」。
五島から直送されるサバは、生きたまま店に届く。
「五島の福江の漁師さんから届くサバは新鮮で、夕方までは泳いでいるんです。だから圧倒的に鮮度がいいですね。それを届き次第、三枚におろした状態にしておきます。だから、うちのサバの刺身は『泳ぎサバ刺し』と呼んでいますよ。五島のサバは身がプリプリで脂の質感が違います。特に1〜2月が旨い時期だと思いますが、例えば、夏前は成長期で身に勢いのある感じですし、一年中楽しめますよ。地元では、五島のサバを“ゴンサバ”とか、“トキサバ”などと呼んでいるようですね」。
三枚におろしておいたサバは、お客さんが食べる直前に料理される。
「まず薄い皮をはいで身を切ります。うちは刺身も『ごまさば』も厚めに切りますが、切り方は違います。刺身の場合は身に対して包丁を縦にまっすぐ入れて切りますが、『ごまさば』の場合はそぎ切りする感じです。斜めに切ると面積が広くなるのでタレがよくからむというわけです。
切った身にすりゴマをまぶし、タレをかけて和えます。タレはゴマと醤油などを合わせたゴマ醤油。作り方は秘密です。
器に盛りつけた後、最後にすりゴマをふりかけます。ゴマがたっぷりですね」。
大根で作ったキキョウの花にワサビが添えられ、美しい『ごまさば』が完成する。タレの味はもちろんのこと、身の旨さとプリプリ感がすばらしい。
「私はかつて時間をかけて海外を回ったことがありますが、サバを生で食べる食文化が昔からあったのは、世界の中でも日本・博多だけだと思います。世界的に見ても博多は新鮮な食材が豊富に揃うすばらしい場所なんです。店でそれを料理して提供できる喜びもありますね。『ごまさば』を知らない方には、魚の名前ではなくて、生のサバにゴマや醤油をまぶしたもので、家庭でも店でも味が違う博多の郷土料理だとご説明しています。日本人のお客さんと一緒にいらっしゃる外国人の方は、生のサバを食べると聞いて特にびっくりされますね(笑)」。
『ごまさば』、『泳ぎサバ刺し』といった料理に加え、様々なサバ料理もメニューに並んでいる。
「表面を軽く炙る『炙りサバ刺し』、『サバの握り』、生のサバを軽くぬか漬けにしてから表面を炙る『炙り生へしこ』などもいい肴ですね。へしこは元々福井などに伝わる食べ方ですが、本来はじっくり漬けこんでおくもの。“生へしこ”なんてうちだけでしょう。また、量は本当に少ないですが『サバ肝ポン酢』も酒飲みにはたまりません。『サバコロッケ』や『焼きサバチャーハン』も名物です。うちはサバ酒場ですから(笑)。ただ、〆サバは作っていません。五島の生のさばの味を堪能していただきたい、本当のサバの味を知っていただきたいと想い始めた店ですから」。
ガネ漬け(佐賀)、ハトシ(長崎)、馬刺(熊本)、島らっきょう(沖縄)…九州沖縄の数多くの郷土料理もメニューにあるが、やはり基本は五島のサバ。冒頭の齋藤さんの言葉通り、そのサバが無くなれば閉店だ。
お客さんにはあまり多くを語らないという齋藤さんだが、こんな想いも聞かせていただいた。
「店名の『独酌』というのは一人で飲むということではなくて、一人一人が好きな肴で好きなように飲んでいただきたいという願いを込めてのものです。『しずく』は、“酒の一滴は血の一滴”という意味合いです。飲むことは人生においても大切なことですから」。
夕方まで泳いでいた五島のサバは三枚におろす。それをそぎ切りすることで面積を増やし、タレをからみやすくする
タレはゴマと醤油などを合わせたゴマ醤油。サバの旨味を引き出す絶妙な味わいのタレの作り方は秘密とのこと
まず、サバの切り身にすりゴマをまぶす。そこにタレをからめ器に盛りつけた後、仕上げにもすりゴマをふりかける
店主・齋藤哲也さんが、「五島の新鮮な生のサバの旨さを知ってもらいたい」と始めた店。その日の夕方まで泳いでいたサバを、刺身や特製タレを使う『ごまさば』など、様々な料理でいただくことができる。サバ料理以外では、熊本の馬刺、長崎のハトシ、沖縄の島らっきょうなど、九州沖縄の郷土料理もそろうが、サバがなくなり次第閉店だ。