九州の味とともに 秋

この料理の"味のキーワード"

蒲焼き

白焼き(素焼き)した後、タレにつけて焼くことを数回繰り返し蒲焼きにする。タレは継ぎ足しながら使い続ける各店秘伝の味

ごはん

固めに炊いたごはんに、蒲焼きにも使うタレをまぶして、時間をおいたり蒸したりして、味を染み込ませている

蒸し方

タレの味がついたごはんに、蒲焼きの切り身と錦糸卵をのせて蒸す。蒲焼きはふっくらとなり、ごはんには蒲焼きの旨味が加わる

語り 元祖 本吉屋 柳川本店 本吉勉の「鰻のせいろ蒸し」

本吉勉さん

緑の樹々に囲まれた風情ある『元祖 本吉屋 柳川本店』。開店時間直前におじゃましたところ、辺り一帯は、焼き場から漂ういい香りに包まれている。創業は天和元年(1681年)。初代から続く技を守り伝えているのは店主・本吉勉さん。焼き場で日々、うなぎと対峙している。
「特にレシピといったものはありませんが、手から手へ伝わってきた作り方は、変わっていないはずです。かつて、柳川がうなぎの産地だったということが『鰻のせいろ蒸し』のベースにあると思いますが、全国的に見ても柳川にしかない食べ方のようですね」。

うなぎを焼く炭は、備長炭と樫炭(かしすみ)を使う。どちらか片方だけでは良い火にならないのだそうだ。赤くなった炭の具合が落ち着いたら、白焼き(素焼き)が始まる。

自家製の竹箸。使ううちに小さくなる

「今は宮崎産や鹿児島産の養殖うなぎを使っています。問屋さんから、背割りして捌いたものを取り寄せています。道具は竹の箸と手だけですね。細い箸だとうなぎが切れたりするので、自分で竹を削って太い箸を作っています。箸作りは、比較的時間のある冬場にやってますね(笑)。手袋をしたり、腕を保護するカバーをつけてはいるんですが、炭の火は強いので、かなり熱いです」。

炭の準備も大切な仕事だ

炭火の上に背割りされたうなぎを並べて焼いていく。時折、箸でうなぎの表面をこするような動きが見えた。
「これは表面にできた小さな焦げを箸でこさぎとっているんです。一匹一匹大きさも脂ののりも違うので、同じように焼き上げるのが難しいところです。白焼きの出来上がりというのは、脂のじゅわじゅわっという音と色で見極めるんですよ」。

昨今(2012年11月)、うなぎが不足して値段が高くなったという報道もよく聞くが、うなぎの質は変わったのだろうか?
「確かに値段は上がりましたが、うなぎの質は良くなってきたと思います。うなぎは、焼くと縮んで身が厚くなっていくのですが、その時にくるりと反ってしまうものは良くないうなぎなのです。反ると、うまく熱が伝わりにくいので焼きにくいということもあるし、身が固いんです。ただ、それは生の状態で見てもわからなくて、焼いてみないとわかりません。良くないうなぎは問屋さんに返しますね」。

じっくりと白焼きする

取材時は、たまたま問屋さんが訪れる時間帯だった。そこには、問屋さんに、数匹の“反った”白焼きを返している本吉さんの厳しい顔があった。

新しく作ったタレを継ぎ足す

白焼きは、創業当初から続く秘伝のタレにくぐらせ焼かれ、蒲焼きにされる。タレは焼き場にある大きな鉢に満たされている。
「日々新しいものを作って継ぎ足しながら使っています。使っている醤油は地元のものですよ。また、タレにまろやかさとまるみを出すための隠し味として、うちからすぐ近くで古くから手作りされている飴を使っています。」。

「もちろん、新しいタレを作る材料も大切なのですが、タレの味を決めるのは、タレにくぐらせるうなぎの量ではないでしょうか。白焼きをタレに入れるとジュッという音がします。この時、うなぎの旨味がタレに伝わるのです。これは絶対に数が勝負だと思いますね。たくさん焼いて、うなぎをたくさんタレの中にくぐらせるから、いい味になります。私もたくさん焼いていますから、うちのタレは美味しいはずですよ(笑)」。

秘伝のタレにくぐらせて蒲焼きにする

白焼きをタレにくぐらせて焼くのを3回ほど繰り返して蒲焼きは完成。
「やはり一匹一匹が違うので、タレのつけ方や焼き方も変えていますね」。

ごはんを入れて一度蒸した後、タレに通した蒲焼きの切り身をのせる

秘伝のタレはごはんの味付けにも使われる。
「固めに炊いたごはんにタレをまぶして、20分ほど蒸します。ごはんにタレの味を閉じ込めるので、初めにごはんを炊く時の水加減は重要ですね。うなぎと同じくらいごはんも大切なものです」。

タレの味が染み込んだごはんの上にうなぎの蒲焼きの切り身、手作りの薄焼き卵をのせて数分蒸す。蒲焼きの切り身は、ごはんにのせる前に再びタレにくぐらせるが、このタレは、焼き場の鉢に満たされていたものとは異なるものだ。

上下で作られた、仕上げ用のタレ

「蒲焼きの両端の部分は上下(かみしも)と言いますが、新しいタレにこの上下を入れて炊いたものが、このタレなんです。上下からはいい出汁が出ますよ。このタレはせいろ蒸しの仕上げ用ですね」。

薄焼き卵をのせて蒸す

細やかな手順から生まれる『鰻のせいろ蒸し』は、うなぎの旨味をしっかりと楽しめるし、比較的さっぱりした味わいで食べやすい。量は少し多めだ。
「やはり、その日に捌いて、その日に焼いて、その日に蒸したものが一番おいしいと思います。量が多めなのは、『せっかくここまで来ていただいたのだから、しっかり食べていっていただきたい、おなかいっぱい食べていただきたい』という、昔から変わらずに続いている、本吉屋の想いなんです!」。

この料理人こだわりの「味のキーワード」

蒲焼き

国内産のうなぎを白焼きし、秘伝のタレをつけて蒲焼きにする。お手製の竹箸で焼き、炭は備長炭と樫炭を使っている。

ごはん

固めに炊いたごはんに秘伝のタレをまぶしてせいろに詰める。まずごはんだけを20分ほど蒸し、ごはんにタレの味を閉じ込める

蒸し方

上下(蒲焼きの両端)で作られたタレにくぐらせた蒲焼きの切り身をごはんの上にのせ、さらにその上に薄焼き卵をのせて数分蒸す

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元祖 本吉屋 柳川本店300年以上変わらない老舗の味わい

創業天和元年というせいろ蒸しの老舗。初代から続く秘伝のタレと技を守り伝えている。タレの素材として、地元で古くから手作りされている飴も変わらず使っている。「あめはタレの隠し味です」と店主の本吉勉さん。量が多めなのは、「おなかいっぱい食べていただきたいからです。これも変わりません」。比較的さっぱりとした味わいで、最後の一粒まで旨い。

酢物、肝吸、香物が付く『特せいろ蒸し定食』4,200円。特せいろ蒸しのみは3,500円。特せいろ蒸しに肝吸、白焼きおろし、酢物、香物が付く『南風定食』は5,300円
落ち着いた和の空間で食事ができる
緑の中、歴史を感じる建物

元祖 本吉屋 柳川本店

住所 柳川市旭町69
電話 0944-72-6155
営業 10:30〜20:30
休み 第2・4月曜(祝日の時は翌日休み)
140席
カード 不可
駐車場 あり
URL http://www.yanagawa-cci.or.jp/kigyo/kigy0361.html
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