九州の味とともに 秋

この料理の"味のキーワード"

鶏肉

九州の雄大な自然の中、各地で元気な鶏が飼育されている。九州産の鶏肉を使う店が多い。飼育期間も細かく決めているようだ

スープ

アクや余分な脂を丹念に取り除きながらスープは作られる。炊き方や炊く時間がスープの色と味わいを決める

ポン酢

さっぱりした酸味を持つポン酢は、水炊きになくてはならないもの。柑橘類とその産地、醤油などに各店の味わいの秘密がある

語り 鳥善 中洲店 一木竜治の「水炊き」

一木竜治さん

「鶏肉はお店でも食べますし、家でも食べてます。鶏をこよなく愛してますよ(笑)。鶏に囲まれた中で生活しているという夢もしょっちょう見るんです」。
『鳥善 中洲店』の元気な店長・一木竜治さんが水炊きのことを語ってくれた。

「水炊きを作る上でも大切なのは鶏肉の鮮度だと思います。うちでは唐津の山中にある自家製養鶏場で育てた『華味鶏(はなみどり)』を使っています。その日に朝引きした新鮮なものだけを使っているんです。水炊きにする鶏肉も、レアでも食べれるくらいのものですよ。飼育して90日のものが、脂もしつこくなく肉もやわらかくて美味しいですね。この最高級の鶏肉は、水炊き、たたき、串焼きに使っています。鶏の飼料にも気を配っていますね。やわらかくて甘い肉にするために、とうもろこしを与えたり、ビールを飲ませたりしています。ちなみに、鶏はビールを飲んでも酔わないみたいです(笑)」。

まずスープに鶏もも肉を入れて食べる

テーブルに運ばれた水炊きセット。まず、スープだけをいただくのが、博多の水炊きの食べ方だ。そばちょこにスープを入れ、塩で味を整える。鶏の旨味がストレートに伝わる味わいだ。
「スープは、鶏の胴ガラをアクを取りながら8時間炊きます。骨の髄から出る脂で表面にうっすらと膜がはるのですが、鶏の旨味が凝縮していて美味しいんですよ。お出しする時には、スープと一体化しているので見ることはできませんが。白濁したコラーゲンたっぷりのスープで、熱い時はさらさらですが、冷えるとコラーゲンでとろとろにかたまりますよ。女性にはおすすめですね。私の肌がツヤツヤしてるのはスープのおかげじゃないでしようか?毎日スープを飲んでいますから(笑)」。

鶏のもも肉ミンチは丸めてスープの中へ

次に鶏肉のぶつ切りとミンチをいただく。
「どちらも、もも肉ですね。中洲店では食べやすいように骨付きではない鶏肉をお出ししています。ミンチはつなぎを一切使わないもも肉100%です。素材の味そのものを味わっていただきたいからです。一口大に丸めて鍋に入れてくださいね」。

野菜も次々に入れていく

野菜も鍋に入れていく。
「タマネギ、ニンジン、椎茸、キャベツの順に野菜を入れていくといいですよ。タマネギが煮えたら、食べ頃です。キャベツの甘味とタマネギの甘味は鶏のスープと特に相性がいいですね」。
鶏肉、ミンチ、野菜に火が通ったら、特製ポン酢でいただく。
「ポン酢は水炊きに合う自家製です。薄口醤油、カツオと昆布の出汁、米酢、ミリン、ダイダイの絞り汁などをブレンドして作ります。肉やスープと同じくらいポン酢にも力を入れてるんですよ(笑)。水炊きはやはり肉料理ですから脂があります。その脂で口の中が重くならないようにするため、すっきりと酸味があるポン酢の味がいいんです。販売もしてますが、お中元やお歳暮のご利用も多いですね。関西の方にとても人気があるようです。お好みで自家製柚子こしょうを入れていただくのも美味しいですよ」。

水炊きは野菜もたくさん食べられる

それぞれの具材と絡み合うポン酢の味わい。主張し過ぎることなく、具材の味わいを高める。

さて、メニューには水炊きの美味しい食べ方が書かれているが、そこには、ここで再びスープだけを飲んでみてくださいとある。
「野菜も入ったスープは甘味もあって美味しいですからね。この状態で再びそばちょこでスープだけも飲んでみてください」。
確かに、初めとは違った味。鶏の旨味に加えて、野菜の旨味も溶け込んでいる。

〆の雑炊には少しポン酢を入れると美味

そして、最後にこのスープを残さずいただくのが、〆の雑炊だ。
「雑炊がまた最高なんです。すべての旨味が凝縮された水炊きの集大成といいますか、私も大好きで絶品です。鍋にごはんを入れ、塩で味を調節した後、火を消して卵をいれネギと刻みノリを入れ、茶碗についでお召し上がりください。この時ですね、特製ポン酢を少しだけかけるととても美味しいと思ってます。おすすめではなく、『こういう食べ方もあります、よかったらどうぞ』とお伝えしていますよ」。
確かにスープのコクが広がる雑炊に、爽やかなポン酢はよく合う味わいだ。

『博多水炊き会席 華』に付く刺身は、色合いも美しい

一木さんの鶏肉讃歌は続く。
「世の中には美味しいものはいろいろありますが、鶏肉は栄養もあって美味しくて、一番素晴らしい食材じゃないかと思うのです。毎日食べても飽きないですしね。毎日の食生活の基本となる食材ではないでしょうか?」。
そんな鶏肉を使った『水炊き』にも、並々ならぬ想いがあるのだという。
「水炊きは、博多を代表する特別な料理だと思っています。博多でうちの店に水炊きを食べにきた方に『さすが博多』と言われないといけませんから。博多をしょっているという部分は常にありますね。気持ちは常に『水炊き文化はまかせとけ』です(笑)」。

この料理人こだわりの「味のキーワード」

鶏肉

唐津の自家製養鶏場で育てた『華味鶏(はなみどり)』で生後90日の鶏を使う。その日に朝引きした新鮮なものをぶつ切りとミンチにする

スープ

鶏の胴ガラをアクを取りながら8時間炊いて作る。骨の髄から出てスープの表面にうっすらと膜を張る脂は鶏の旨味が凝縮しているとのことだ

ポン酢

薄口醤油、カツオと昆布の出汁、米酢、ミリン、ダイダイの絞り汁などをブレンドして作る。ポン酢の販売も行なっている

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鳥善 中洲店 朝引きの新鮮な鶏で作る鶏料理をいただく

唐津の自家製養鶏場で育てた『華味鶏(はなみどり)』を使った料理を楽しめる。生後90日で朝引きされた新鮮な鶏の甘味と旨味を一番堪能できるのは砂ずりや肝の刺身。また、自家製ポン酢でもも肉をいただく水炊きや、様々な部位を焼いた串焼きでは、肉のやわらかさが格別だ。福岡市内をはじめ東京、大阪にも支店がある(詳しくはHPを)。

『博多水炊き会席 華』1人前3000円(2人前より)。鶏刺、手羽焼、なんこつの唐揚げ、玉子雑炊などが付く
※写真は3人前
『鳥焼コース』2100円。ササミ、砂ずり、肝、せせり、だんご、うずらの玉子、なんこつ、ベタ、もも肉、季節の野菜という10種の串に、きゅうりとスープ(あるいはデザート)が付く
しっとりとした店内。写真のカウンター席の他に、座敷や個室もある

鳥善 中洲店

住所 福岡市博多区中洲2-8-2 パインコート中洲1階
電話 092-282-0033
営業 17:30~翌3:00(祝日~24:00)
休み 日曜
60席
カード
駐車場 なし
URL http://www.torizen.net/
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