鶏肉、大根、ニンジン、コンニャク、ゴボウなどがよく使われる。サツマイモやサトイモを使うこともある
昆布出汁やカツオ出汁と麦味噌を使うことが多い。お店では鶏ガラスープを加えたり白味噌を使ったりの工夫もなされている
具材を1cm角ほどに切った後、下ゆでするなどして下ごしらえする。出汁で煮込み、味噌で味を整え、ネギなどを加える
温泉地として知られる指宿。この地で1969年に創業し、さつま料理と地魚を提供しているのが『さつま味』だ。二代目の濱田一生さんにお話をうかがった。
「秋から冬にかけては、脂がのった秋太郎(=バショウカジキの鹿児島地方での通称名)が美味しいですし、春は、“錦江湾に入ってくる”ということで『入り鯛』と呼ばれる鯛が絶品です。首折れサバ、阿久根の華アジ・地ダコも美味しいですね。開聞岳(かいもんだけ)の麓あたりは地形が複雑なため、いろいろな魚が獲れます。錦江湾は本当に豊かな海なのです」。
新鮮な魚介を使った寿司や海鮮料理と並び、人気が高いのは『とんこつ』や『さつま揚げ』といった鹿児島ならではの料理。派手さはないが『さつま汁』も、大切な鹿児島の味として愛されている。
『さつま汁』の作り方を教えていただいた。
「『さつま汁』は豚汁と同じようなものですが、豚肉ではなく鶏肉が入っています。材料は鶏肉、大根、ニンジン、コンニャク、ゴボウ、サトイモ、干し椎茸、筍ですね。鶏肉は鹿児島産の鶏のもも肉で、炙ってから刻んでおきます。野菜類はサイコロ状に切って、それぞれ別々に下ゆでします」。
すべての材料を下ごしらえしたら、出汁に合わせて煮込む。
「出汁は、カツオ出汁と、魚の骨からとった出汁をブレンドしたものですね。少し煮込むと予め炙っておいた鶏からも旨味が出てきます。鶏肉の皮の部分には脂がのっていますが、下ごしらえで炙るのは、この旨味と香ばしさを出すためなんです。少し煮込んだら、九州産の麦味噌を溶いてできあがり。
器に入れて『忍びショウガ』をして、ネギをちらします。『忍びショウガ』とは日本料理の用語で、すりおろしたショウガの絞り汁を少しだけふりかけることです。隠し味なので“忍び”という言葉を使っているわけです」。
湯気が立ちあがる『さつま汁』を味わうと、やわらかな口当たりの汁の中に、コクがある鶏肉の味わいが広がる。
「『さつま汁』よりも豚汁のほうがあっさりしているかもしれません。豚汁よりも、ふくみのある旨味があるという感じでしょうか。『さつま汁』は野菜を別々に下ゆでし、じっくり時間をかけて出汁もとっていますので、仕込みに時間がかかります。けれど、簡単に言うと、具だくさんの味噌汁ですよね。家庭では、身近にある野菜で作るものですし、私も小さい頃から食べていました。普通に家庭で食べられている味、おふくろの味です。味噌汁と同じですね」。
指宿は温泉地・観光地であるため、鹿児島県外の方も多く訪れる。その方々は『さつま汁』にどんな感想を持っているのだろうか?
「味噌が麦味噌なので、観光でいらっしゃった本州の方には珍しいみたいですね。あちらでは麦味噌に馴染みがないのでしょう。『味わったことのない味噌汁だ』ともよく言われます。それと味噌汁の中に鶏肉が入っているというのはカルチャーショックみたいですよ(笑)。私たちにとっては身近なものですが、やはり『さつま汁』は立派な郷土料理なんですね」。
材料は、鹿児島産の鶏のもも肉(写真)、大根、ニンジン、コンニャク、ゴボウ、サトイモ、干し椎茸、筍
出汁は、カツオ出汁と魚の骨からとった出汁をブレンドしたもの。味噌は九州産の麦味噌。鶏肉から出る旨味も出汁に溶け出す
具材はサイコロ状に切って、下ゆでするなど下ごしらえする。それらを出汁で煮込み、味噌を溶く。仕上げに『忍びショウガ』をする。
1969年創業の和食店。キビナゴをはじめ、刺身や寿司など、錦江湾で獲れる旬の地魚を食べられる。『とんこつ』や『さつま揚げ』など、鹿児島ならではのさつま料理も美味で、『さつま汁』も付く『さつま郷土料理定食』(2,500円・4,200円)では、様々な郷土料理を気軽に味わえる。オリジナルの『兵児焼(へこやき)』は創業以来の人気メニュー。