スープは牛骨と鶏ガラをベースにしたもの。各店が時間と手間をかけて作る深みのあるスープだ
豚の頭肉、エビ、タマネギ、ニンジン、キクラゲ、キャベツ、すりおろし、またはみじん切りにしたショウガ
具材をラードで炒めた後、スープを入れて塩とミリンで味付け。うどん麺を入れて一煮立ちさせる
長崎市と小倉(福岡県北九州市)を結んでいた江戸時代の街道『長崎街道』。海外から長崎に届いた砂糖が運ばれた道で『シュガーロード』とも呼ばれている。大町町を通る国道34号線の北側に旧長崎街道があり、かつては大町町のメインストリートだった。『さんゆうし』は1920年(大正9年)に旧長崎街道沿いに開店した。現在の店主は4代目となる峰洋子(みね ようこ)さん。ご主人の博美(ひろみ)さんと二人で定食、丼物、麺類、カレーなどを提供し、町の食堂として愛され続けている。
「私が小さい頃はね、大町は炭鉱でとてもにぎわっていたんですよ。私が小6の頃、日本一のマンモス校だったらしいです。全校生徒が3000人くらいいましたからね。お店もいっぱいあったんですよ」。
大町町の数店で提供している『たろめん』の味わいの元となっているのは、2000年に閉店した『たろめん食堂』で、山本三國(やまもとみくに)さん・ヒデコさん夫妻が作っていた『たろめん』だ。峰さんは『たろめん食堂』によく行っていたのだそうだ。
「山本さんの店は4人座れるテーブルが5つくらいの小さな店でした。テーブルは手作りで素朴な感じ。でも掃除が行き届いていて、きれいにしてありましたね。炭鉱マンが仕事帰りによく寄っていました。大町炭鉱でストライキがあったりする時の集会に、出前で持っていったりもしたようです。スープがなくなったら終わりなので、14時くらいまでしか開いてなかったかな。たろめん1杯にたくあんが2切れついていたことも覚えています。『たろめん食堂』は『たろめん』を出していた店としては3番目の店なんです。元炭鉱マンだった山本さんもたろめんの発祥とされる店『中国飯店』でよく食べていらっしゃったようで、味を継承して『たろめん食堂』を開店されたんです」。
その『たろめん食堂』は惜しまれながら2000年に閉店した。
「あの味を知っていた人はみんな食べたいと思っていたけど、独特な味で作れなかったんです。私もやってみましたができませんでした。山本さんも誰にも作り方を教えなかったんです。『たろめん』は山本さんがやめて10年間途絶えていました。けれど、町の商工会が町おこしのために『たろめん』を復活させたいと、山本さんにお願いして、山本さんが協力してくれたんです。それで2010年に何店舗かで『たろめん』を出すことができるようになりました」。
復活したことを聞きつけ、かつて炭鉱で働いていた炭鉱マンが訪れたこともあったそうだ。
「『あの時の味、なつかしい味。涙が出るごたぁ(涙が出そうだ)』と言ってくださった方もいましたね」。同じ材料で同じように作っても、やはり店々で味は違うもの。私は山本さんの店でよく食べていましたから、味が近かったのでしょうね」。
峰さんも大好きだという『たろめん』を作っていただいた。
「豚の頭肉(かしらにく)を角切りにしたものを中華鍋に入れて炒めます。本当はラードを入れて炒めるんですが、今は私は使っていないですね。肉からも脂が出ますからね」。
キャベツ、タマネギ、ニンジンを炒め、スープを加える。
さらに真エビ、キクラゲ、すりおろしたショウガを入れて、ミリンと塩で味付け。
ゆでておいたうどん麺を入れて一煮立ちさせればできあがりだ。
「スープは牛骨と鶏ガラを炊いたものですが、最後に豚の頭肉のかたまりも入れます。そのかたまり肉を後で角切りにしたものが具材にもなるわけです。塩の加減で全体の味が変わりますね」。
コクがあるのにさっぱりとしたスープ。具材の旨みも溶け出しているやさしい味だ。
「ちゃんぽんでもない、うどんでもない味ですよね。食べたことのない味でしょう?説明しにくい味なんですよね(笑)。
でも、『たろめん』のスープはそれだけ飲んでもおいしくないんです。具材と麺がからまって美味しくなるんです。ショウガもポイントですね。『たろめん』のスープは全部飲めると思います。食べだしたらはまりますよ(笑)。野菜たっぷりでヘルシーですし、食欲がない時、風邪をひいた時、二日酔いの時でも、『たろめん』なら食べられます。昔の『たろめん』は味がもっと塩辛くて脂も濃かったんですよ。炭鉱マンは『たろめん』を酒を飲みながらつまみにして食べていましたから。ラーメンは締めだけど、『たろめん』はつまみにも締めにもなるんですよね」。
美味しい食べ方を尋ねてみると、こんなことを教えてくださった。
「昔の人は酢醤油をかけて食べたりしてましたね。私たちはソースをかけて食べてたかな。鷹の爪を入れても美味しいですよ。それからね、『たろめん』は焼酎にも合うけど、白ごはんにすごく合うんです。丼のスープを残しておいて、そこに白ごはんを入れて食べると美味しいですよ。『たろめん』で2度楽しめます。でもね、そのことは初めてのお客さんだったら、帰り際に言うんです。またお店に、大町に来てもらえるようにね(笑)」。
そして最後にお二人から一言。
「『たろめん』は大町だけのものです。大町にたくさんの人を呼ぶものになるといいなと思っているのでがんばります!」
スープは牛骨と鶏ガラを炊いたものがベース。最後に具材にも使う豚の頭肉のかたまりを入れて出汁をとる
豚の頭肉、エビ、タマネギ、ニンジン、キクラゲ、キャベツ、ショウガ。ショウガはすりおろしたものだ
まず豚の頭肉と野菜類を炒める。スープを加えて、その他の具材を入れ、ミリンと塩で味付け。ゆでておいたうどん麺を入れて煮込む
4代目店主・峰洋子さんとご主人の博美さんが笑顔で迎えてくれる家庭的な雰囲気の店。定食、丼物、麺類などを食べられる食堂として愛され続けている。かつて大町町にあった『たろめん食堂』によく行っていたという洋子さんが作る『たろめん』は、昔ながらの味わいを大切にした一杯。スープと野菜の旨味にショウガの風味がマッチする。