欠かせないのは落花生。他にはゴボウ、大根、ニンジン、サトイモ、コンニャクなど。鶏肉が入ることも多い
調味料は醤油、砂糖、みりん、酒など。昆布出汁、落花生から出る出汁も味わいに深みを与えている
落花生は下ゆでして殻から外す。それ以外の材料は1cm角に切って下ごしらえする。鍋に材料、出汁、調味料を加えて煮込む
大村市の飲食店街の一角にあるお店「小料理 関所」。暖簾をくぐると中はカウンター席のみ。出迎えてくださるのは、お店を一人で切り盛りされている女将・福江順子さんだ。着物に割烹着という出で立ちと、やさしい笑顔がおだやかな雰囲気を作り出す。
「うちにはメニューはないんですよ、基本は“おまかせ料理”。お買い物に行って、美味しそうな食材は何でも買いたくなって買ってきちゃうの(笑)。それをお料理しています。旬のお野菜を使ったものが多いかな。お客さんのペースに合わせて少しずつ出していきます」。
カウンターにあるショーケースには、既に下ごしらえが施された魚の柵(さく)や、大村湾産のタコが並んでいた。ショーケースの上には大皿に盛られた料理が並んでいる。その中に『にごみ』があることも多い。
「『にごみ』は大村の名物。大村では人が集まる時によく食べられている料理です。ニンジンや大根などの根菜類が入るから、秋から冬にかけて作ることが多いですね。おくんち(※大村市では毎年11月末に『松原おくんち』という祭りが行なわれている)の時とか、お正月とかね」。
小鉢に盛りつけられた『にごみ』をいただく。砂糖の文化が育まれたことから『シュガーロード』とも呼ばれる長崎街道との宿場町として栄えた大村では、甘めの味付けが好まれるが、こちらの『にごみ』は出汁の風味が効き、野菜の旨味を感じる、あっさりとした味わい。焼酎のつまみにぴったりだ。
「一度にいっぱい作るんですよ。たくさん作ったほうが美味しいものね。『にごみ』は家庭でもよく作られるけど、家庭では、そんなにたくさんは作れなかったりするからね」。
毎日、朝から仕込みの仕事をされている福江さん。お店の営業が始まる午後6時にはすべて準備が整っている。そこで、開店後に改めておじゃまして『にごみ』を作るところを見せていただいた。
「材料のゴボウ、ニンジン、大根、厚揚げ、シイタケ(干しシイタケを水で戻したもの)、タケノコ、レンコン、サトイモ、鶏肉は、すべて小さく切ります。そして『にごみ』のメインは“落花生”。ゆでた薄皮付きの落花生ですね。落花生以外の材料は、好きなものを入れていいんです。
家庭によって材料は違ったりもしますね。切った材料は下ごしらえします。ゴボウは水にさらしますが、さらし過ぎると香りが逃げてしまうので適度に。ニンジンと大根は軽く下ゆでします。厚揚げは熱湯で油抜きを。作り方は簡単ですよ。
まず鍋に酒を少し入れて鶏肉を炒め煮するようにして、昆布出汁、シイタケの戻し汁を入れます。
残りの材料を全部入れて、あとは砂糖、みりん、白だし少々を加えて煮込むだけ。
小さく切っていますから、強火だとすぐに煮えるんですが、私はじっくり炊いて、味が染み込むようにしています。
落としぶたをして、弱火で1時間ほど煮込んだらできあがりです。落花生からも良い出汁が出て美味しいですね。家庭ではあまり使いませんが、私は大皿に盛る時は上にインゲンを散らしています。彩りがいいですからね」。
ここまでの『にごみ』作りの一連の仕事の中、量りや計量カップが使われることはない。
「私はいつも目分量です(笑)。今日はタケノコを多く買い過ぎちゃったけど、残してももったいないから全部入れとこうと。なので、ちょっとタケノコが多めの『にごみ』ですね(笑)」。
『にごみ』は堅苦しくなく、あたたかな家庭料理。そして『にごみ』をはじめ、福江さんの料理はどれもあたたかな手作りの味。昭和43年の開店以来、多くの人が訪れ、通い続ける理由だ。
ゴボウ、ニンジン、大根、厚揚げ、シイタケ、タケノコ、レンコン、サトイモ、鶏肉、ゆでた薄皮付きの落花生
調味料は、砂糖、みりん、白だし。シイタケの戻し汁や、煮ることで落花生から染みだす出汁も豊かな味わいを与える
まず、材料を下ゆでするなどして下ごしらえをする。鍋に酒を入れて鶏肉を炒め煮した後、出汁、すべての材料、調味料を入れて煮る
カウンター10席のみの小料理屋。ショーケースには旬の魚介が目を楽しませてくれる。食材そのものを生かした上品な料理や、野菜をふんだんに使った季節料理などを楽しめる。決まったメニューはなく、基本はおまかせ料理。一人で切り盛りする女将との会話を楽しみながら、旬の食材を使った料理を味わいたい。郷土料理『にごみ』は、大皿料理として、特に秋から冬にかけて用意されていることが多い。