太平洋岸で穫れるいわしを使う店が多い。下処理した後、辛子明太子と同じように調味液につけるなどして、いわしにも下味をつける
主に北海道で穫れたスケトウダラの真子を、各店が唐辛子を加えた秘伝の調味液(主な材料は煮切った酒)で漬け込み熟成させる
いわしの腹の部分にバラ子を詰めるのが一般的な作り方。いわしは形も大きさも異なるので、一本一本、手作業で詰めていくしかない
2011年11月、福岡市中央区の親富幸通り沿いに開業した『海猫屋』。2015年7月には親富幸通り近くに2号店となる天神店がオープンした。奥行きがあり、隠れ家のような雰囲気を持つ『海猫屋 天神店』は、毎夜、会社員や観光客でにぎわう。店長の吉永直彦さんにお話をうかがった。
まず驚くのは、テーブルに置かれたお品書きに書かれたメニューの多さ。『水炊き』『もつ鍋』などの福岡の味、『とり天(大分)』、『地鶏もも炙り(宮崎)』といった九州の味、和牛を使った料理など、ざっと80種類もの手書き文字のメニューが並んでいる。
「魚介や野菜を毎日糸島まで仕入れに行っており、その日の食材によってメニューが決まります。だから毎日手書きしているんですよ(笑)」。
特に刺身、揚げ物、煮物など魚介類を使った料理が豊富で、特に『お刺身の天空盛り』はドライアイスを使った演出もあり人気が高いとのこと。
『いわしめんたい』もメニューの中にさりげなく書かれているが、実は多くの時間と手間がかかる一品だ。
「まず辛子明太子作りから始まります。鮮度のいいタラコを取り寄せ、酒と塩を合わせた調味液に漬けて、形を整え冷蔵庫でねかせます。それから本漬け。通常の調味液は日本酒ベースなのですが、うちでは、赤ワイン、焼酎、唐辛子、昆布などを合わせた調味液に漬け込み、冷蔵庫で一週間ほどねかせればできあがりです」。
この辛子明太子をそのまま食べられる『手作り辛子明太子』というメニューもある。
次に、下ごしらえしたいわしに辛子明太子を詰める。
「いわしは千葉から取り寄せたもの。頭を落とし、お腹を出し、臭みを抜くために塩をまぶしてねかせておきます。そのいわしを水で洗った後、お腹に辛子明太子の皮を取り除いてほぐした粒をたっぷり詰めこんでいきます。手作業でしかできないですね(笑)。それをまた調味液に漬けるのです。それは辛子明太子を作る時の調味液とは違う日本酒ベースで、辛子明太子の粒も加えています。1日漬けたら、裏返してもう1日。2日間ねかせて『いわしめんたい』はできあがりです」。
『いわしめんたい』の注文が入ると、表面を軽く洗ってから炭火で焼く。
「味がしっかり入るように調味液を濃いめに作っているので、そのまま焼くと少し辛くなってしまうんですよ」。
『いわしめんたい』を取り出した後の調味液は、辛子明太子の粒も入り美味しそうにも見えるが、何かに使うわけではない。
「魚からの余分な水分も出ているのでこの汁は美味しくないんですよ。もったいない気もしますが、何にも使いません。そこは少しぜいたくにやらないとだめなんです」。
焼いていくうちに厨房にいい香りが漂う。
「焦げやすくて、焼く時に油断できないのでなかなか大変です。けっこう時間もかかるんですよ。いわしが大きいから」。
焼き上がった『いわしめんたい』は、外側はカリッと軽く、いわしの身は甘くふわふわ。その中に辛子明太子の塩味とピリッとした辛味が広がる。
「脂がのっているいわしを使ったほうが美味しいですね。年中食べることができますが、寒くなってくるとより美味しくなりますね」。
とても手間と時間がかかる『いわしめんたい』だが、お手頃価格でいただける。
「『どなたでも気軽に食べられるように』という私たちの想いです。そして、『いわしめんたい』もそうですが、すべてをしっかり作っています。最近は本物志向の方が増えてきましたし、素材本来の味に厳しいですね。ごまかしの味付けや盛付けは通用しません」。
『いわしめんたい』の魅力は、味わいはもちろんだが、食べる前の見た目や香りにもあるようだ。
「『いわしめんたい』は香ばしい香りがしますし、いい具合に焼き色をつけるととても美味しそうですよね。なので、あるお客さんが『いわしめんたい』を食べていると、その横のお客さんが『美味しそうだから』と注文されることもありますね(笑)。そんな風にお客さんがつながって…常連さん同士の会話でにぎわうような店にしていきたいと思っています」。
千葉周辺で獲れたいわしを取り寄せる。下ごしらえは、頭を落とし、お腹を出し、臭みを抜くために塩をまぶしてねかせておく
たらこを酒、塩を合わせた調味液に漬ける。その後、赤ワイン、焼酎、唐辛子などを合わせた調味液に漬け込み、一週間ほどねかせる
下ごしらえしたいわしの腹に、皮を取り除いてほぐした辛子明太子を詰め込む。その後、日本酒ベースの調味液に2日間漬け込む
店長・吉永直彦さんがその日に仕入れる食材によって決めるメニューは約80種類。定番の水炊きやもつ鍋など福岡・九州の味を楽しめる。中でも刺身、揚げ物、煮物など魚介類を使った料理が豊富だ。『いわし明太』に使う辛子明太子は、焼酎とワインがベースの調味液を使う自家製。いわしの腹に詰め込んだ後、さらに日本酒ベースの調味液に漬け込む。