いもんせんを水で溶いた後に火を加えながら混ぜて焼く。基本的ないもんせんと水の割合はあるが、つくり手によって変わる場合もある
季節ごと、家庭ごとに根菜をはじめとした様々な野菜類が使われるが、タケノコ、特に種子島特産の『苦竹』が使われることが多い
昆布出汁などをベースにしているが、甘めの味付けには砂糖が欠かせない。焼いたいもんせんを煮しめとどう合わせるかには様々な手法がある
「『からいもせん(いもんせん)の煮しめ』は小さい頃から食べてました。またかよ~というくらいにですね(笑)。からいもを粉にしたやつを水でねってフライパンで焼いたらもちもちになるという、不思議な食べ物ですよね」。
ご主人の園田 貢(そのだ みつぐ)さんは、奥様と息子さん3人で営む和食レストランを営む。定食メニューや洋食が豊富だが、カウンター上の黒板には、今日の一品として旬の魚介や野菜を使ったメニューが書かれている。そんな中、『竹の子あっさり煮』、『竹の子天プラ』、『竹の子味噌煮』とタケノコ料理が幾つも書かれていた。『からいもせんの煮しめ』にも、真夏以外はタケノコが入ることが多いのだそうだ。
「苦竹という、ちょっと山に入ればどこにでも自生しているタケノコがあるんですよ。アクがないし、それ自体から出汁が出るから下ゆでもしなくていいんです。その他には、さつま揚げ、厚揚げ、大根、ニンジン、ジャガイモなどいつでもある素材を使います。干し大根、ツワブキ、椎茸などが入ることもあります。煮しめは安く食べていただくために、素材にお金がかからないようにつくっていますからね(笑)。それらの素材を、あっさりしたかつお出汁をベースにして醤油、砂糖、みりんを入れてちょっと甘めに炊きます。田舎料理は甘めのものが多いですから。」
煮しめに入れる『からいもせん』の焼き方を見せていただいた。
「まず、『からいもせん』2合に対して水2.5合をボウルに入れて手で混ぜます。粉は下に沈みますし、手でやらないとわからないんですよ。よく熱した深めのフライパンに油をひき、そこへさきほどの水で溶いた『からいもせん』を一気に入れて箸でかき混ぜます。表面がかたまってきたら火を弱めて混ぜます。それから木の蓋をして2~3分すると、外側は透明に、真ん中が白くなっていきます。両面がうまく焼けたらできあがりです」。
これを半日くらい冷ましてから煮しめに入れ、一煮立ちさせる。熱いまま食べてもらうのがこちらの『からいもせんの煮しめ』だ。本日の具材は、さつま揚げ、厚揚げ、大根、ニンジン、タケノコ。煮汁と一緒に盛りつけると焼いた『からいもせん』に味が染み込みすぎるため、具材だけを皿に盛る。焼いたからいもせんには、表面にだけ甘辛い濃いめの味がついていた。
「『からいもせんの煮しめ』は、じいちゃん、ばあちゃんがつくってくれてました。年齢を重ねて本当の味がわかってきましたね。焼酎にも合いますし、肴にもしています。今は、この味をしっかり次の世代に伝えていくことも大事なことだと思っています」。
平成21年からメニューに加わったという人気メニュー『からいもせん鉄板焼き』は、息子さんがつくってくれた。
「鉄板焼き用にはからいもせん粉1合に対して水1.5合を入れて溶き手で混ぜます。熱して油をひいたフライパンに1/3の量を入れて焼きます。かたまってきたら真ん中に寄せて外側にまた1/3量を入れます。それを繰り返してひとかたまりにした後、5等分して、5つのだんごのようにします。そうするとカリカリに焼ける表面の部分が増えますから。そこにマヨネーズ、醤油、海苔、かつお節をかけてできあがりです」。
『からいもせん鉄板焼き』がメニューとなってしばらくすると、それを食べた『お食事処 八作(やさく)』の小川幸二さんから、「美味しいので、僕もつくってメニューに加えたい」とお願いされたのだそう。園田さんは、すぐに快諾した。現在、八作では『からいもせんのたこ焼き風』としてメニューに加わっている(→八作のページ参照)。とてもおおらかな話にも思えるのだが…。
「小さな島ですからね(笑)。そんなこと気にするよりも『からいもせん』がいろんな人に知ってもらえて食べてもらえて、この街が元気になればいいと思っているんですよ。それは私も小川さんも一緒ですね」。
『からいもせんの煮しめ』をはじめ、からいもせんを使った料理は、どれも素朴な味わい。粉さえあれば全国どこででもつくれるのかもしれないが、種子島を愛する心から生まれるものを種子島で食すのが一番美味しいはずだ。
からいもせん2合に対して水2.5合をボウルに入れて手で混ぜよく熱したフライパンへ。仕上げに木の蓋をして2~3分火を入れる
さつま揚げ、厚揚げ、大根、ニンジン、ジャガイモなどいつでもある素材が中心。苦竹、干し大根、ツワブキ、椎茸などが入ることも
あっさりしたかつお出汁をベースにして醤油、砂糖、みりんを入れて甘めに炊く。焼いたいもんせんを入れて一煮立ちさせた後、熱いまま提供する
平日の昼間に食べられる『日替わり定食』650円や『豚肉しょうが焼き定食』1000円など定食類が豊富で、気軽に入ることができるレストラン。黒板に書かれた『今日の一品』には、旬の野菜を使ったメニューや、漁師の資格を持っている店主・園田貢さんが獲ってくる新鮮な魚介を使ったメニューも並ぶ。煮しめはもちろん、『からいもせんの鉄板焼き』も美味しい。