九州の味とともに 秋

この料理の"味のキーワード"

材料

米、大豆、鶏肉、タマネギ、サトイモ、ニンジン、干しシイタケが基本的な材料。カボチャ、ゴボウなどが加わることもある

味付け

醤油、みりんが味のベース。砂糖を使う場合もある。それぞれの材料から出る旨味を生かすため、味付けは薄味だ

作り方

鶏肉、野菜を炒め、そこに水に漬け、やわらかくして砕いた大豆、水、米を入れて味付けする。焦げないように混ぜることがポイント

語り 菅里山レストラン 渡辺房子の「かすよせ」

渡辺房子さん

美しい棚田の風景が広がる山都町の菅(すげ)地区。天気の良い日は棚田を見渡せる屋外でお弁当を食べると最高だ。“菅のどこでもレストラン”をテーマに、現在『菅里山レストラン』と称した活動が展開されている。それに合わせて、お米、野菜、こんにゃく…地元の食材を使った手作り弁当も作られている。色とりどりの料理が詰められたお弁当の中には『かすよせ』も入っているのだ。

美しい木造校舎の旧白糸第2小学校

お弁当作りが行なわれているのは、『旧白糸第2小学校』の給食室だった場所。渡辺房子(わたなべふさこ)さんにお話をうかがった。
「『かすよせ』はお祭りの時などに作られていたのですが、私が小さい時はごちそうでしたね。その頃、煮しめ(煮物)は好きじゃなかったけど、『かすよせ』は好きでした。最近は、祭りも簡素化されてきたのであまり作られなくなってきたようです。私は子どもたちの給食を作る仕事をしていたのですが、『かすよせ』は、ここが始まる時に、この街のおばあちゃんたちに作り方を習ったんですよ」。

材料は、米、大豆、鶏肉、サトイモ、タマネギ、ニンジン、水で戻した干しシイタケ。
「材料はすべて地元で採れたものですね。昔は鶏肉が入ってなかったように思います。今日は入れていませんが、この地区はカボチャを入れる習慣があるんです。けれど、『カボチャを入れたらだめ』という地区もあったりするんです。おもしろいですよね」。

まずは下準備。
「一晩、水につけておいた大豆の水を切り、ミキサーに入れてひたひたになるくらいの水を入れてから、すりつぶします。あんまり粗いと良くないのですが、つぶし過ぎても良くないんです。

一晩水に漬けた大豆をミキサーにかける

米は洗ってしばらく水に浸けておきます。野菜類は1cm角に切っておきます」。

材料はすべて一口大くらいに切る

鍋に油を注ぎ、料理が始まる。
「初めに鶏肉を炒めた後、サトイモ以外の野菜を全部入れて炒めます。水をひたひたになるくらいに入れて、ふたをしてしばらく煮込んでから味付けです。

初めに鶏肉を炒め、サトイモ以外の野菜を入れて炒め、水を入れて煮込む

調味料は砂糖、みりん、薄口醤油ですが、素材の味がわかるように、できるだけ薄味にしていますね」。

砂糖、みりん、薄口醤油で味付けする

味見をしながら味を調節する渡辺さん。味が整ったら米とサトイモを入れる。段々といい香りが漂ってくる。見た目にはシチューのようだ。

米とサトイモを入れて煮込む

「米が煮えたら、さきほどの大豆を入れます。ここからは焦げないように混ぜ続けます。段々と粘りが出てきたらできあがりです」。

大豆をミキサーにかけたものを入れ混ぜる
切ったピーマンに『かすよせ』を詰める渡辺房子さん(左)と渡辺恵美子さん(右)

まだ温かい『かすよせ』をいただいた。米粒と大豆の粒が感じられる不思議な食感、それぞれの野菜の味が伝わってくる。
「薄味だけどしっかりした味がするでしょう?お米と大豆が入っているから主食なのかな?(笑)。タンパク質が豊富だし栄養満点ですよ。『かすよせ』は『おしよせ』とも呼ぶのですが、これには、“そこにあるものを集める”、“そこにある材料で作る”という意味があるようですね。お弁当に入れる煮しめ(煮物)と『かすよせ』は味がよく染みるように、前の日に作っておくんですよ。今も美味しいけれど、次の日のほうが美味しいかな(笑)。手がかかるので時間がないとできない料理ですね」。

ピーマンに詰められた『かすよせ』

こちらで販売しているお弁当に入っている『かすよせ』は、ピーマンを縦に切ったものに詰められている。
「私たちが作るお弁当にはアルミパックとか人工的な仕切りは使わないんです。野菜の葉などの自然のものなんですよ。『かすよせ』はなにか器に入れたほうがいいので、どうしようかと考え、ピーマンを使うことになったんです」。

12種類ほどの料理が入れられた特製のお弁当は、そんなところにまで気が配られているのだ。

『菅里山レストラン』を主宰する菅純一郎(すがじゅんいちろう)さんとスタッフの升田安代(ますだやすよ)さん

『菅里山レストラン』を主宰しているのは菅純一郎さん。初めは米づくり体験などで、熊本市内から菅地区に通われていたのだそう。
「そうこうしているうちに、100年続いていた『白糸第2小学校』が廃校になることを聞いたんです。米づくりだけではなくて、何かここでできないかなと考え、街の方々と農家の方々との交流を通して、この地域がにぎわえばと思いました。棚田の景観や食文化を知ってもらうために、まず日帰りでも楽しんでいただけることをやろうと始めたのが、『菅里山レストラン』なんです。小学校の給食室だった場所で、この地域ならではの料理を詰めたお弁当を作り、この地域で食べていただく。外でもいいし、農家の方の家におじゃまして縁側で食べていただく仕組みも作っているんですよ。集落全体がレストランなんです。そうやって、日本の食生活、食文化、農家の方々の生き抜くための知恵などに触れていただけるといいですね。『かすよせ』を初めて食べた時は『何だろう、これは?』と不思議に思いましたが、やはり農家の知恵から生まれた素晴らしい料理です。食べ過ぎや飲み過ぎで胃袋を休めたいけど、何か食べたいという時にもぴったりの料理ですね。小さなお子さんもぱくぱく食べてくれるし、離乳食にもいいかもしれません」。

やさしい味の『かすよせ』は、地域おこしの一端も担っているのだ。

この料理人こだわりの「味のキーワード」

材料

米、大豆、鶏肉、サトイモ、タマネギ、ニンジン、水で戻した干しシイタケ。地域によっては、カボチャを入れる習慣もあるとのこと

味付け

砂糖、みりん、薄口醤油で味付けするが、素材の味がわかるように、できるだけ薄味にしているとのこと

作り方

鶏肉とサトイモ以外の野菜を炒めて水を入れて煮込んで味付け。米とサトイモを入れて煮込んだ後、呉(すりつぶした大豆)を入れてさらに煮込む

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菅里山レストラン屋外や農家の縁側で手作りのお弁当を

全国棚田百選にも選ばれた菅(すげ)集落。天気の良い日は棚田や山々を見渡せる屋外で、雨の日や暑い日は農家の縁側や座敷で、“菅集落のどこでもレストラン”という発想から生まれたのが『菅里山レストラン』だ。地元のみなさんが作る、この地で採れた米や新鮮な野菜・山菜をたっぷり使ったお弁当を食べられる。『かすよせ』もお弁当を彩る大切な一品だ。

『かすよせ』、『お煮しめ』他、お弁当には12種類くらいの料理が入っていて1,000円 ※要予約
高台からは田んぼの風景が美しい
農家の方の家におじゃますることもできる

菅里山レストラン

住所 上益城郡山都町菅2287
電話 090-9796-7885(菅純一郎)
営業 通常は土・日曜のみ営業。予約が必要なので電話で問合せを
URL http://satoyama-suge.com/
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