九州の味とともに 秋

宮崎 わくど汁

ソバのだんごをカエルに見立てた
秘境・椎葉に伝わる素朴なだんご汁

宮崎県の山間に位置し、日本三大秘境にも数えられる椎葉村(しいばそん)。遠い昔、壇ノ浦の戦いに敗れた平家の武者たちが隠れ住んでいたという歴史もある。縄文時代から焼畑農業が行なわれていたこともあり、古くからソバが栽培されていた。椎葉にはソバ粉を使った伝統食がいくつもあるが、『わくど汁』もその一つ。ソバで作っただんごを入れる汁物料理で、地元では『ソバのだんご汁』と呼ばれることも多い。

具材はゴボウや大根などの根菜類、特産のシイタケなどに加え、主に木の実を食べて育つ、臭みのない地元のイノシシ肉が使われることも多い。具材を煮込んで味付けし、ソバ粉に水を加えてこねただんごを入れて煮込めばできあがり。具材から出汁が出るので(特にイノシシ肉からは独特の出汁が出る)、味付けはシンプル。味噌仕立てで作られることが多いが、醤油仕立てのものもある。椎葉産のソバは香りと甘みが強く、具材から溶け出した旨味とともにソバのだんごの濃厚な味わいを楽しめる。

“わくど”とはこの地方の方言でカエルのこと。ソバのだんごを鍋に入れた時に熱い鍋の中で動く様を、カエルに見立て、そのユニークな名前がついたようだ。

椎葉村

平家を追っていた那須大八郎が、最初に陣をかまえたところに椎の葉で屋根をつくったところからこの名で呼ばれるようになったと言われる。岐阜県の『白川郷』、徳島県の『祖谷(いや)』と並び、日本三大秘境と言われている。

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■椎葉村の焼畑
山の斜面を利用する椎葉の焼畑農業は約5000年前の縄文時代から行なわれていたといわれている。木々を倒して山を焼き、1年目はソバ、2年目はヒエとアワ、3年目は小豆、4年目は大豆の種を蒔いて収穫する。大豆を栽培した後、その土地は20年ほど休ませて再び繰り返す。耕すこともなければ農薬や肥料を使うこともない、自然の力を生かした循環型農法だ。
古くからソバを栽培していたことから、椎葉にはソバを使った伝統食が幾つもある。『わくど汁』をはじめ、味噌汁の中にソバ粉をふり入れてとろみのある汁にする『ドブじゅる』、細かく切った根菜類などで味噌汁や醤油味の汁をつくりソバ粉をいれて練り上げる『ソマゲ』などがあり、どれも素朴で力強い味わいだ。

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「わくど汁」、三様。

三人の料理人が語る、それぞれのこだわりとは

この料理の"味のキーワード"
具材

ゴボウ、大根などの根菜類や特産のシイタケなどの他、椎葉で獲れるイノシシ肉が使われることも多い

味付け

具材から出る出汁をベースにして、味噌で味付けされることが多いが、醤油仕立てでも食べられている

作り方

具材を煮込んで味付けする。ソバ粉に水を合わせてこね、だんごを作って入れる。ほどよく火を通してできあがり

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