サツマイモから生まれたもちもち感
種子島で愛され続ける素朴な味わい
『いもんせん』とはサツマイモからつくられるデンプンのこと。種子島では今でも一般的な食材だ。かつては、サツマイモを薄く輪切りにして干し、それをすりつぶして粉状にしていたことから、その呼び名の由来は“芋の繊維”から来たものだと言われている。種子島ではサツマイモのことを『からいも』と呼ぶことも多いため、『からいもせん』と呼ばれることも多い。また、単に『デンプン』と言われることもある。
『いもんせん』を水で溶き、熱して油をひいたフライパンに入れて火を加えながら混ぜる。やがて白濁した液体はかたまり、表面はカリカリ、中はもっちりとした透明のものになる。これを切り分け、野菜等を煮込んであらかじめつくっておいた煮しめに入れ、煮汁の味を染み込ませれば『いもんせんの煮しめ』のできあがり。煮しめにせず、焼き上がったものにショウガ醤油をかけたり、黒蜜をかける食べ方も一般的だ。煮しめにする時と、焼いたものを食べる時では、『いもんせん』と水の割合は変えている。
独特のもっちりとした食感の中で広がるのは、具材の味も溶けこんだ煮汁の旨味。『いもんせんの煮しめ』は、家庭でもよくつくられ、冠婚葬祭など人が集まるところでは必ず食べられる種子島の素朴な郷土料理だ。
全国的な組織でもある食生活改善推進協議会の会員を種子島で務める榎本和枝さん。『いもんせん』が種子島とどう結びついているのかについてお尋ねした。
●名前の由来
「サツマイモを輪切りにして干したものを『こっぱ』と呼ぶんやけど、昔はこっぱをつぶして粉にしよったみたいですよ。それにはイモの繊維がたっぷり含まれています。だから『イモの繊維』、『イモん繊維』、『いもんせん』となっていったとでしょう。ばあちゃんたちは大根をおろすようにして、サツマイモをすりおろして、それをこして、干して、デンプンをつくりよったよ」。
●なぜ種子島でつくられるようになったのか?
「元禄11年(1698年)に種子島にからいもが伝わってきたという記録が残っとるそうです。その時、既に松の実や椿の実からデンプンを取り出し、粉として保存食にして食べる食べ方もあったようです。からいもも同じようにしたとでしょうね。からいものデンプンは小麦粉と違ってなぜか虫もつかんですよ。不思議やね(笑)。あとね、種子島がからいもの栽培にすごく適した土地やったというのがあるようです。種子島のデンプンと鹿児島のデンプンは違うとですよ。種子島の芋を鹿児島に持っていっても育たないみたい。種子島の土地にしかできんからいもがあって、そこからしかとれんデンプンがあるということなんやろうね。そのデンプンでつくらんと美味しくないとやろうね。片栗粉はジャガイモのデンプンやけど、同じようにつくっても美味しくないです。独特のプリプリ感は『いもんせん』じゃないと出らんみたい。デンプン用のからいももあって、今ではデンプン工場でつくったのを使うことが多かね」。
●つくり方、食べ方
「煮しめにする時はデンプン1に水1の割合、焼いてそのまま食べるときはデンプン1に水1.5の割合で溶きます。それが基本やね。ばあちゃんたちは湯のみで計りよったよ。デンプンはすぐ下にたまってしまうから、ずーっと混ぜとかんといかんよ。たっぷりの油をフライパンにひいて、デンプンを水で溶いたものを入れて、練りながら火を加えます。だんだんと透明になってかたまっていくよ。透明でプリンプリンしたものになるのは不思議やね。何回かひっくり返して両面がこんがり焼けたらできあがりよ。焼いて食べる時は、つくり立てが一番美味しかね。ネギと醤油や、黒蜜で食べるといいよ。冷やして酢の物みたいにして食べるのも美味しいね。それには、ダイダイ酢を使って食べる人もおるね。1月の甘いダイダイを絞って保存しておいた絞り汁に、刻んだピーナツと醤油を加えたものを合わせると最高よ。『いもんせんの煮しめ』は、煮しめにいもんせんの焼いて切ったものを入れて一煮立ちさせて、あとは味をしみこませるだけ。煮しめには種子島特産の苦竹、油揚げ、こんにゃく、ニンジン、椎茸、ジャガイモなどいろいろ入れるね。季節でも家々でも違います。私は、サトイモは出汁が出るので大切な具と思っとるよ」。
●種子島といもんせん
「種子島では、1年を通して『いもんせん』を使った料理は食べられよるね。特に煮しめは、春夏秋冬いろんな行事の時に必ず食べます。冠婚葬祭の時も、田んぼに関係する神事の時にも、人が集まるところには必ずあるものやね。すぐにできるから、私も、ばあちゃんとこに遊びに行って、それからつくってもらったりしよったよ。けれど、今、家庭でつくらない人も増えてきとるようです。食生活改善推進協議会の目的は、『昔からある郷土料理を多くの人に伝えよう。旬の味を子どもたちに伝えよう』ということ。だから、いもんせん料理を、子どもたちに食べさせたいと思いよるし、伝えていかないかんと思っとります。学校に行って、つくり方の授業もしよりますよ」。
いもんせんを水で溶いた後に火を加えながら混ぜて焼く。基本的ないもんせんと水の割合はあるが、つくり手によって変わる場合もある
季節ごと、家庭ごとに根菜をはじめとした様々な野菜類が使われるが、タケノコ、特に種子島特産の『苦竹』が使われることが多い
昆布出汁などをベースにしているが、甘めの味付けには砂糖が欠かせない。焼いたいもんせんを煮しめとどう合わせるかには様々な手法がある
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