元気をつけたい時に食べる
独特の香りと旨味を持つ汁料理
『やぎ汁』は奄美群島から沖縄にかけて食べられている郷土料理。特に奄美大島の東側に位置する喜界島(きかいじま)では、ヤギの刺身や、ヤギの血と内臓を炒めた『カラジュウリ』と呼ばれるなど、古くからヤギ料理が親しまれている。
ヤギの骨付き肉を水に入れてアクを取りながらじっくりと煮込むと、独特の香りと旨味を持つスープがとれる。味付けは塩が中心だが、醤油や味噌を加える場合もある。他に加える材料はネギやニラなど、いたってシンプルで『やぎ汁』そのものの味を引き立てる。鼻腔に感じる香り、その後で感じる滋味(じみ)深い旨味は他にはない味わいだが、よく言われているほど食べにくいものではない。奄美のヤギは自生している薬草類をよく食べるため、香りがそれほどきつくはならないとのこと。また、身体が大きく肉の量が多いオスよりも、脂の多いメスのほうが美味しいそうだ。
地元では、奄美地方の特産品であるサトウキビの収穫(主に冬)が始まる前と終わった後や、風邪をひいている時、身体が弱っている時など、“元気をつけたい”と思う時に食べることが多い『やぎ汁』。奄美地方に暮らす方々の元気を支える料理のひとつだ。
■喜界島の食文化
喜界島は奄美大島の東側に浮かび、周囲50km、もっとも高い地点は海抜224mという平らな島。サンゴ礁が隆起してできた島で今も隆起を続けている。
島には32の集落があり、それぞれに異なる祭りや島唄、食文化を持っている。『やぎ汁』や『カラジュウリ』といったヤギ料理も、味付けや具材、料理法に違いが見られるようだ。
島の主婦の生活研究グループ『結いグループ喜界』の代表をかつて務められていた伊牟田正子さんにお話をうかがった。「島では塩豚とニンニクの葉を炒めた『ヒルイッチャーシー』、フワイ(田芋)の茎を油炒めした料理、サクナ(ボタンボウフウ)の天ぷら、アオサ入りの卵焼きなど様々な素朴な料理が食べられています。喜界島は白ゴマ生産量が日本一ですから、昔からゴマを使ったお菓子も豊富ですね。集落にある神社のお祭りの時は、“一重一瓶”といって、料理が入った重箱と一升瓶を持ってみんなで浜辺に集まっていたものです。そんな“我が島”の食や伝統を大事にしていかなければなりませんね」。
■奄美の薬草
奄美地方、特に喜界島では身体に良いといわれる多くの野菜・薬草が自生している(現在では栽培もされている)。代表的な『サクナ(ボタンボウフウ)』は昔から海岸沿いに自生していたセリ科の多年草。ポリフェノール、ビタミン、食物繊維などが多く含まれ、近年注目されている。奄美地方のヤギも昔からそのような植物を食べていたと言われている。
ヤギの骨付き肉を水に入れてじっくり炊いてスープを作る。初めに湯通ししたり丹念にアクを取り除くことで食べやすくする
味付けは主に塩。醤油や味噌を使う場合もある。スープを作る段階では味付けはせず、注文後に味付けして提供することが多い
添える具材はネギやニラなどでいたってシンプル。ヤギの肉や骨から生まれる独特の香りや旨味がストレートに伝わってくる
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