こんがりふんわりの食感とやさしい甘味
琉球から伝わった魚のすり身を揚げた料理
全国的には『さつまあげ』として知られているが、鹿児島県、特に串木野地区では『つけあげ』と呼ばれている。魚をすり身にして、酒や醤油などの調味料を加えて混ぜ、形を整えて菜種油で揚げるという料理だ。
かつて、琉球には魚のすり身とデンプンを混ぜて油で揚げた『チキアーギ』という料理があった。薩摩藩主・島津斉彬公(1809~1858)の時代、琉球文化との交流が盛んになって『チキアーギ』も鹿児島に伝わり、漁業が盛んな串木野に根付き『つけあげ』という名前に変化したと考えられている。それとは別に、斉彬公が考案したという説もある。
串木野では、魚のすり身に、ふんわりさせるための豆腐と地酒~清酒ではなく赤みを帯びた独特の甘味を持つ酒~を加えることが特徴。地酒に加えて砂糖やみりんなども使われるので、地元で好まれる味付けは甘め。貴重な砂糖を豊富に使うというもてなしの意味の他、少しでも長く保存するためという理由もあったようだ。
きつね色にこんがりと揚がった表面は香ばしく、中はふわっとやわらかい。ゴボウなどの野菜やキクラゲなどを加えたりもするし、小判型や俵型など形も変わる。作り手によって味も形も変わるが、同じなのは、やわらかな甘味。おやつにもごはんのおかずにも焼酎の肴にもぴったりだ。
『つけあげ』作りに使われる『地酒』はいわゆる『赤酒』を示す。保存性を高めるために、もろみを搾る前に木灰を入れる。そのため、独特の甘味と赤い色になる。料理に使われたり、正月のお屠蘇に使われる。鹿児島の郷土料理『酒寿司』にも使われている。
串木野でかまぼこ、つけ揚げの普及を目指している『串木野かまぼこ組合』。組合長の福留由人さんにお話をうかがった。
福留さん
「串木野は『つけあげ』の発祥の地と言われています。豆腐と地酒が入り甘口なのが串木野の『つけあげ』の特徴で、昔は結婚式の時やお祝い事の時に作られ、食べられていたごちそうでしたね。
家庭で作られていたものでしたが、戦後、専門店が生まれ、今に至るようです。全国的に見て、カマボコなどの売上高は落ちているのですが、練り物全体の売上高は落ちていないんですよ。『つけあげ』だけはあがっているんです。年間を通しても落ち込む時期がありませんね。
関西圏内には鹿児島出身の方が150万人くらいいらっしゃいまして、贈答品としてこちらから送る方も多いんですよ。ところが、子どもさんや若い人たちは、やはり練り物を食べなくなっているのです。そこに向けて何か活動していかないといけないというのが、今の組合の課題ですね。
毎年秋に串木野で行なわれる『地かえて祭り』では、私たち『串木野かまぼこ組合』主催で、タイの形をしたカマボコに色を付ける『かまぼこペインティング』などをやって、子どもさんにもアピールしてますね。それから新しい食べ方の提案もやっています。酢の物に入れるのも合うんですよ」。
アジ、サバ、エソなどの魚のすり身に豆腐が入るのが基本的な『つけあげ』の材料。ゴボウ、人参などの野菜を入れるものもある
串木野の『つけあげ』には『地酒』と呼ばれる独特の香りと甘味をもった酒が入る。その他に、塩、砂糖、醤油、ミリンなどが加わる
『つけあげ』に使う油は菜種油。中はふんわりと外はこんがりと揚がるように、温度を変えて2度揚げることも多い
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