サツマイモの香りと甘味が広がる
南蛮文化が生んだ煮物料理
一風変わった名前はポルトガル語の『picado』~細かく刻んだ~に由来する。『ヒカド』の原型となった煮込み料理は、長崎に訪れたポルトガル人やスペイン人が伝えたもの。しかし長崎では具材がそろわなかったり、鎖国によって手に入らなくなってしまった具材もあった。そこで、具材を他の物で代用するなどして、長崎ならではの郷土料理『ヒカド』が生まれ、今に至るまで長く伝わることとなった。
大根、人参、サツマイモといった野菜や、マグロ、豚肉などの具材を1.5cm角ほどの大きさにそろえて刻む(この細かく刻むところが“ヒカド”と呼ばれる由縁)。その後、野菜は下ゆでしたり、マグロや豚肉はさっと湯に通したりして下ごしらえをする。下ごしらえした食材を出汁で煮込み、具材に火が通ったら酒や醤油など最低限の調味料で味付けをする。仕上げにすりおろしたサツマイモを入れてひと煮立ちさせ、とろみをつければできあがりだ。
それぞれの具材の味を、サツマイモの香りと甘味がやさしく包みこみ、なんとも素朴でやさしい味わい。身体も心もあたたまる。サツマイモから生まれ、やはり甘い香りと味わいを持つ芋焼酎との相性もいい。
1549年日本にキリスト教が伝来し、長崎にキリスト教が伝えられたのは1567年頃から。宣教師たちも長崎を訪れて布教活動を行なっていたため、『ヒカド』などの食をはじめ、様々な南蛮文化が長崎に届いたことが想像できる。
1587年豊臣秀吉による宣教師追放令、1612年徳川家康による禁教令が発布。続いて、1637年の島原の乱の影響から、1639年にはポルトガル船の日本渡航とポルトガル人の国外追放が命じられた。それ以降、日本の国外との貿易は唐船貿易のみとなり、ポルトガルの文化にふれることはなくなってしまった。『ヒカド』はその時以来、独自の進化を歩み、今に至っているのだ。
角切りにされる具材は、大根、人参、さつまいも、豚肉、マグロなど。最後に、すりおろしたサツマイモを入れる
昆布出汁、鰹出汁などを使う。煮物料理なので二番出汁を使うことも多いが、一番出汁を使うこともある
調味料は酒、醤油、ミリンなどとてもシンプル。さつまいもの甘味と、素材そのものが持つ旨味を引き出したいからだ
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